壱
「皆様!
我々は皆様を勇者として召喚させて頂きました。」
「勇者!?」
「これ異世界転生ってやつか?」
「テレビのドッキリ?」
「ってことは、死んだのか?」
十人十色、それぞれが別のことを口にする。
が、各々口にするのは共通してこの状況に対する驚愕だ。
「落ち着け!
取り敢えず話を聞かなきゃどうにもなんねえ。」
誰かがこの場を静める。
この先、きっとこの人がリーダーになるだろう。
「はい。
説明させて頂きます。
先ずは此方へ。」
そう言って、水晶玉のようなモノの前に並ばされる。
「これはステヰタス測定器と言いまして、皆様の能力、ステータスをはかるものになります。」
そう言って、その水晶玉のようなモノに手を翳す。
「このように、手を翳すとステータスの書かれた紙が出てきます。
これを参考に、ステータスの高い方は直接魔王軍と戦っていただき、低い方は生産職として間接的に魔王軍と戦っていただきます。」
恐らく嘘だ。
ステータスの低い奴は多分殺処分になるのだろう。
「それではどうぞ」
並んで、一人ずつステヰタス測定器に手を翳す。
「よっしゃあ!」
「マジか……orz」
その反応は様々で、喜ぶもの、打ちひしがれるもの、何ともいえない顔をするもの。
そして、いよいよ俺の番だ。
ヴィーーー、ガシャ、ピーー。
紙が出てくる。
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個体名 北原 裕治
種族 ホモサピエンス
戦闘力 9
知能 1092
HP 65
MP 31
総評 雑魚
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戦闘力……9!?
いやまて。
9が普通かもしれない。
ウンキットソウダ。
9ガフツウナンダ。
一応聞いてみよう。
「あの、この戦闘力って……」
「ああ、戦闘力は一般男性が100、一般女性が85程度で、鍛えた戦士だと大体3000程度ですね。
勇者である皆様だと、大体四桁台が多いようです。」
「あの、9ってなってるんですが。」
「ブフォッ
きゅ、9?」
失笑しやがってこのやろう。
「では、北原様は生産職ですね。」
「あ、あとすみません。
知能ってのは?」
「知能は、一般的な村人だと100程度、教師が200、研究家とかだと500ですね。
今までで一番高いのが789です。」
「1092なんですが…」
「いくら戦闘力が9だからって嘘吐かなくて良いんですよ。」
「本当ですよ、ほら。」
「次の人が居ますので。」
なんてこったい。
嘘吐き認定されてしまった。
そうして全員の測定が終わった。
「えーと、戦闘力100以下の方は此方へ。」
そう言った兵士について行くと、それぞれ別の部屋に振り分けられた。
「お前さんは生産職にはなれない。
このあと、モンスターと戦って力を示せ。
負けて死んだら終わり、勝ったらさっきの仲間と一緒に旅だ。」
矢張りか。
どうすればいい?
咄嗟に考える時間を使う。
そうして小一時間考え、賭けに出ることにした。
自分の命全BETだ。
「なぁ、カネ欲しくないか?」
「カネ?そりゃ欲しいに決まってるだろ。」
「それじゃ、良い方法があります。」
「なんだ?話だけ聞いてやる。」
「賭けをするんです。
僕が生き残る方に。
戦闘力9の僕が勝つなんて有り得ない。
その大穴に賭けます。」
「それで、どうやって勝つんだ?」
「用意して頂きたい物があります。
縄、石、ナイフです。
それぐらいならバレずに出来ます。
それと、予め目を潰しておいてほしいんです。
軽くナイフを当てるだけで良いですから。」
「うーん、面白そうだ。
やってやるよ。」
そして、闘いが始まった。
まるで無謀に、自暴自棄になったかのように突撃し、石を投げる。
これで、目の傷がイカサマからビギナーズラックに変わる。
そのまま錯乱したように指を噛み千切り、血を床に塗りたくる。
噛み千切った指も同じ場所に落とす。
更に、指を止血し縄で自分の口に猿轡をすれば完成。
視界の奪われたモンスターは嗅覚、聴覚に頼る他なくなる。
嗅覚は血を塗りたくった床とそこにおいた指で。
聴覚は自分につけた猿轡でごまかし、あとはがら空きの背中にナイフで切りつける。
という作戦を立てた。
先ずは突撃。
狂ったように叫びながら。
怖い。
だが、やらなければ死ぬ。
こんなモンスターに喰い殺されるのは嫌だ。
俺は安らかに死ぬんだ。
「うあああああああああああああああああああああああ!」
そして、投石。
しつこく、何度も。
それから、指を噛み千切る。
流れ痛イる血を痛イ床に塗り痛イたく痛イってい痛イく。
痛イ痛イ口の中痛イの指痛イが気持ち痛イ悪痛イい。
痛イ痛イ痛イ痛イ指痛イ痛イ痛イ痛イを痛イ痛イ痛イ血痛イ痛イ痛イを痛イ痛イ塗痛イ痛イり痛イ痛イ痛イ痛イた痛イ痛イ痛イ痛イく痛イ痛イ痛イっ痛イ痛イ痛イた痛イ痛イ痛イ痛イ所痛イ痛イ痛イ痛イ痛イに痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ落痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イと痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イす痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ。痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ
痛い。
けれどやらなければ死ぬ。
痛い。
やらなければ死ぬ。
痛い。
死ぬ。
痛い
死ぬ
痛い
死ぬ
痛い
死ぬ
痛い
死ぬ
痛みに悶えながらも自分の口をふさぐ。
背中に回って、
………気付かれた!?
そうか、魔力があるのか。
どうすれば良い?
ここから生き残るには、どうすれば良い?
落ち着け。
体のどこかに魔力を感じる器官があるはずだ。
それを見つけられれば……
と、思ったが冷静にみてみると触覚のようなものがお誂え向きに生えているではないか。
あれにナイフを投げて切り落とす。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
悶え苦しみ、そして絶望と悲観にくれるモンスター。
これは後で聞いたのだが、あれはモンスターの生殖器らしい。
すまんモンスター。
が、そんなことは露知らず俺は畳み掛ける。
首筋にナイフを突き立てる。
……が、刺さらない。
当然だ。
俺の戦闘力は9。
蟻がプロボクサーを殴ってるような物である。
だからこそ、そのためのロープだ。
ナイフに巻き付けたロープを、それぞれ逆側に通し、下で両端を掴む。
両端を自分に巻き付け、自重でモンスターにナイフを刺す。
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
勝った。
流石に此処で「やったか?」などとフラグを立てる程馬鹿では無い。