勇者はパーティーから仲間の山田さんを追放したい
「山田さん、あなたをパーティから追放する」
俺は、山田さんに累計6回目となる追放勧告をした。
「おいおいレオ本気でいってるのか」
「レオ信じられない」
「レオさん、簡単にそんなことを言ってはいけません」
このように、仲間達は山田さんの追放に反対らしい。そして追放勧告を受けた当の本人の山田さんは、黙っている。
追放、いらない人を仲間から追い出すという行為が近頃流行ってる。流行りに乗って何となく追放する酷いパーティーもあるらしいが、俺は別に流行りには乗りたい訳では無い。
なぜなら、山田さんはどう考えても役ただずだからだ。
実は追放した後とても優秀だと判明することもあるから辞めておけだって、いやいや山田さんの日頃の行い見てれば、それはありえないから。
そもそも俺たち勇者パーティは、俺が聖剣に選ばれたので、幼馴染の魔法使いのマグと共に故郷の村から出発した時に結成されて、王都で戦士のグランと聖女のリアナを加える4人で活動を始めたはずだった。不思議な事に、4人になった頃には山田さんはパーティーに加わっていたのだ。つまり、山田さんはいつどこから来たのかも謎なんだ。そんな怪しいやつをパーティー置いておくのはおかしいだろ。
そして、魔王軍や魔物との戦いの時に山田さんは、明らかに邪魔をしてくるのだ。
戦闘中の山田さんの魔法は俺を狙ってきたり、俺にデバフをかけたりするんだ。
こないだ、ダンジョンに行った時には、先に行った山田さんが叫びながら戻ってきてなんだと思えば、大玉を転がってくる系の罠を作動してしまったので、俺たちは大玉に追われながらダンジョンを抜け出した。一歩間違えたら死んでたと思う。
こんだけ酷い目に合えば、山田さんが意図的にやってる事はわかる。なので、俺は今回を含めて6回も山田さんを追放しようとしてるのに仲間達は毎回反対してくるのだ。
マグは可哀想だからと、グランは一緒に戦ってきた仲間を裏切るとは何事だとの事。
俺はそれを山田さんこそどうなのかと思うぜ。
リアナは、裏切りは神の教えに反しますとの事らしい。
おいおい、山田さん。あなたこそ反してませんか。
さて、今回こそと挑戦してみたが、無理そうだ。
仲間の皆さんは、
「レオ、そこまで言うと私達が抜けるよ」
とマグは言い始めた。
ふざけんな、俺1人じゃ確かに魔王に勝てないけど、俺勇者だよ。神に選ばれた勇者だよ。なのに逆追放はだめだと思うよ。
と今までの俺はこの時点で頭を下げていた。でも、今日の俺はちょっと違う。
「逆に聞くけど、山田さんが戦いで役にたったことあるの?」
「「「ない」」」
「じゃあ追放しよう」
「「「それは、違う」」」
えっ?なんでだよ。
役ただずならまだしも邪魔してくるんだぜ、追放しようよ。
「山田さんだって頑張ってます」
「そうよ、山田さんは山田さんなりに頑張っているのよ」
「あんだけ頑張ってる、山田さんを追放するなんて最低だぜ」
俺は、山田さんが戦闘中以外、食事と睡眠以外をしてるのを見たことがないぜ。
「はい、レオ仲直りして」
もう無理だと思い俺は、山田さんを説得するのを諦めた。
「ごめんよ山田さん」
俺は謝ったのに山田さんは、机の上にあった、俺のホクホク鳥の肉(300ゴールド)をパクッと1口食べて満足そうな顔をしやがった。
「これで痛み分けですね」
とリアナは満足そうな顔をしやがった。
痛み分けとはどういう事だよ聖女。
どこを見ても、俺にしか損がないだろ。
そして、その日以降俺は山田さんを追放する事を諦めた。
―――
そして、半年が経った。
俺たちは今魔王との最終決戦直前だったりする。
ちなみにこの半年間、1度も山田さんに追放勧告をしようとしなかったが、俺は心の中で何度も追放したいと思った。具体的な回数を言いたいところだけど100回超えた時点で数えるのをやめたから覚えてないんだよ。
そんなに思ってんならしろよだって。
この仲間達を見てみろ、山田さんが何をしても
「山田さんは仕方ないな〜ハッハッ」
と済ませるのが、ハッハッじゃねーんだよ。何回死にかけたんだと思ってんだ。
火山で伝説の剣を手に入れたら、すぐに火口に落とされそうになるわ、伝説の龍に乗ってる時も騒いで落ちそうになり、俺のホクホク鳥の肉は相変わらず取られるし、なんで追放出来なかったんだよ。
俺だってなんにもしなかった訳ではない。
みんなに山田さんどう思ってるて、サシで聞いたりしたら1人くらい本音がでると思ったさ
「可愛いよね」
「素晴らしい御方ですよね」
「あれは、漢だ」
誰一人、俺と同意見はいなかった。
その後は、なんやかんや諦めて魔王城まで一緒に来ちまったよ。
さっきまでの魔王軍四天王との戦いも大変だったんだ。
1人目の『竜王ジンカス』の時は、俺が炎を避けてる時に隣で肉くってるし、2人目の『二丁目のママ』による精神攻撃に俺とグランが一生懸命耐えてる時に横で寝てるわ、溜まったもんじゃないぜ。
3人目の『魔人アルフ』の時は、アルフが
「なぜ、お前がここにいるんだジョ……」
と山田さんを指さしてたアルフがぶっ倒れので、不思議だった。
そん時の山田さんは、元気に走り回ってたよ。
なんやかんやあったけど、ついに魔王との決戦だ。
えっ?3人しかいなかっただって?『猛犬のジョン』は留守だったんだよ。
「お前ら覚悟は出来てるか、魔王を倒して世界を救うぞ」
「「「おう」」」
と俺達は魔王の居室に入った。
そこには、邪悪な存在があった。
「お前が魔王か」
「そうだ。よく来たな、愚かな人間達よ」
不敵に笑う魔王と俺たち勇者パーティとの最終決戦が始まった。
戦いでは山田さんがデバフスキルを俺に掛けてくるけど、ギリギリのところで魔王と張り合えてる。
でも、魔王は強い。俺たちはみんなボロボロだった。
「俺たちは絶対負けない」
「ふん!未だにそんなことを言うか愚かな人間。ならば、お前らに更なる絶望を与えよう」
「なんだと」
「お前が仲間だと思っている、そいつは我が魔王軍四天王『猛犬のジョン』だ」
と魔王は山田さんを指さした。
「そんな!山田さんが魔王軍な訳ないじゃない」
「嘘です!信じてはダメです」
「ふざけるな、山田さんは俺らの仲間だ」
と各々叫んだ。
でも、俺は知ってたとしか思わなかった。
だってさ、あんだけ邪魔してくるんだぜ、敵じゃないほうがおかしいぜ。逆に安心したぜ。
おいおい山田さん、なんでお前が驚いた顔してるんだよ。
山田さんが敵とハッキリしたあとも戦いは、俺たちは身体も心もボロボロだった。
心は山田さんが敵と知った仲間たちだけだけど。
もちろん魔王もボロボロ、山田さんはまだ元気だけど。
「まだ、戦うか人間」
「あぁ、ここで負ける訳にはいかないからな」
「ふん」
魔王の魔法で俺の聖剣は吹っ飛んだ。あれがなければトドメは刺せないのに。あれを取りに行こうとすれば俺が、背中を見せることになる。それは出来ない。
なんとか魔王に隙を作ろうと魔法を使うが、対処されてしまった。
そして、数回の魔法の撃ち合いの後に俺も魔王も疲れ果てて立てなくなった。
「ワシも、お前らも無様なものだな」
「まったく、その通りだ」
「しかし、最後に笑うのは、グハッ。なぜ、お前が……ジョン」
そう、魔王にトドメを刺したのは山田さんだった。飛ばされた俺の聖剣を拾って魔王にぶっ刺したみたいだ。
仲間達は、
「やっぱり、山田さんは仲間だったよ」
「ありがとうございます。山田さん」
「山田さん、やっぱりあんたは漢だぜ」
と山田さんを持ち上げまくった。
今後も変わらず持ち上げまくられた結果。
魔王にトドメを刺した者ということで、山田像が建てられ人気の待ち合わせ場所になるのは、別の話。
そして、俺は思った。
俺は深く考えすぎたのかもしれない。やっぱり山田さんは仲間なのかもしれない。
だって山田さんは犬なのだから。
「ワン」
レオ 勇者。そこそこ正義感が強かったけど、勇者になるほどではなかったけど聖剣落ちてたから拾ったので勇者になった。マグには、頭が上がらない。元々犬派だけど、魔王倒した後に山田さんにホクホク鳥を取られてからは完全に猫派。
山田さん 山田たかし君の飼い犬で名前はジョン。魔王が異世界召喚して呼び出した。固有スキルとして「どこにも馴染める」と「何をしても許される」がある。(レオには効きにくい)
それのお陰で勇者パーティに加わった。ちなみに、レオにデバフをかけてたりしたのは単純にレオが嫌いだから。
マグ 勇者の幼馴染の魔法使い。犬派のため、とことん山田さんには、甘い。レオにきつく当たってるのは、単純にツンデレなだけ。なんやかんやあってレオと結婚する。その後、犬を飼いたいと言ったら大喧嘩になった。
グラン 王国騎士団副団長。王様に勇者に着いてけと言われたのでレオ達に着いていくことにした。強面な外見だけど、実は動物が好きで山田さんにちょくちょく、内緒だぞと言ってお菓子をあげて、肥えさせた。
リアナ 聖女と言われてるけどただの貴族令嬢。修道院に3年間の勉強ということで修道院にいたけど、上からお前聖女やってこいと言われて、仕方なく聖女やった。猫派だけど、山田さんを見て犬も悪くないと思った。
魔王 結構やばい奴。勇者を早期に潰そうとする有能魔王だけど、聖剣がそこら辺に落ちてることを知らず。レオが覚醒し、あっさり負ける。最終決戦を1人でやったのはなんかこっちの方が良くねと思ったから。『二丁目のママ』と『猛犬のジョン』を異世界召喚した。実は、山田さんの固有スキルが効いてる。