ゾンビ
よろしくお願い致します。
今回の語り手は、前の謎のキャラと違い、普通の三人称系です。
最近改稿した時期は、2018年3月31日。
急いで、アパートの屋外階段を駆け上がる。
小気味よいリズムで、金属音が微かに鳴り響く。
今の季節にそぐわないジャンバーのフードを冠った者が、息を切らしていた。
何かから逃げるように・・・・・・。
二階の手前方面に位置する扉の前で、立ち止まった。
中腰で両膝に手を置き、肺を引き攣っている。
しかしそれも数秒の出来事、急いで呼び鈴のボタンを押す。
しかし呼びかけてから、十数秒立っても、誰も出てこない。
確か舞台となっているこのマンションの部屋は、各々1LDKのはず。・・・・・・。
「チッ」
その者は舌打ちした。
そして、
「おい出ろ!! 虎威の野郎!! 寝てやがんのかあのニートの弱物がぁああっ!!」
呼び鈴を左指で押し、右拳で扉を殴る。
挙句の果てには、同時進行で、体を捻って蹴りを放った。
ローキック七発・ハイキック二発。
ついに、
入り口のドアノブが傾いた。
扉が内側に開き、そこに現れたのは一人の青年、自転車のヘルメットを被って怯えていた。
「なっなっなっ何? 樺音」
ヘルメットの男が尋ねるのも無視して、無理矢理入ろうとする樺音と呼ばれた者。
「どっどうしたんで。一体!?」
樺音はやっと答える。苛ついた様子だが。
「人間共に追われてんだよ!! 匿ってくれ」
ゾンビだった。
ヘルメット人間・・・・・・虎威はやむを得ず、招き入れた。
鍵は樺音が勝手に、内からかける。
虎威の部屋の特徴は、一見風変わりなとこはない。現在進行で映っているテレビ、タンス、小型冷蔵庫、ちゃぶ台、扇風機くらいだ。あと二リットルボトルタイプの緑茶・麦茶・ジャスミン茶・マテ茶・烏龍茶が、段ボール箱内に置かれてあった。
樺音の特徴は、肌の色は青灰色で、唇にも生気が感じられない。
髪型は長め。常にジャンバーのポケットに、どちらか片手を突っ込んでいた。
「えっ? ・・・・・・いやなんで、人間に追われてんで。・・・・・・まさか何か犯罪やらかし!?」
虎威は両手で、顔を覆う動作を見せた。
「殺すぞ。違よ」
「では、また近所の子供達から悪戯でエアガンで、額撃たれてんです? それとも聖水とか掛けられ?」
「だぁかぁら、違よ・・・・・・タイミングドンピシャだな、テレビ観てみろよ」
虎威の持ち物である薄型液晶テレビ。
その画面には、白スーツに白ネクタイをした初老の男が示し棒を持って、ホワイトボード手前に、何か学術的な説明をしている。
「ああ最近放送局に引っ張りだこの医者ですか。彼がどうしたんで?」
「ああ教えてやるよ。あのやぶ医者はな、とんでもねぇでっち上げをカメラ前で発表したんだよっ!!」
自身の髪を掻きむしる樺音。
「でっちあげ? どの様の?」
虎威は、紙コップに麦茶を注ぎ、樺音に渡した。
コップを天井に向けて上げ、豪快に飲む樺音。
その貪り具合は、血肉に飢えたアンデットのような。
飲み終えた樺音は、一つため息した後答えた。
「ゾンビのウィルス感染したら、同じゾンビになる代わりに不老不死になるってやつだ!!」
「ん~・・・・・・ゲームとか漫画とかじゃけっこうありふれた説っすな」
虎威は顎に手を添え、呑気に答える。
「ふざけんな、こっちの身にもなれ。いきなり知らねえ奴らから、『俺の僕のワシの首筋を噛んで下さい』とかイカれた頼み事して来てみろ? ぶっ飛ばしたくなるのも道理じゃねえか、医者にバカ共に」
「それでこちらまで助けを求めに逃げてきたと? 注文してきた相手からお金を取れば、君が好きである新たなバイクが一台買えそうですが? それにほら、このコップ・・・・・・菌がついているはずで、それさえ渡せば・・・・・・」
樺音は一喝。
「バカやろおっ!!」
そして、
「乙女の純潔を何だと思ってんだ!!?」
そう叫ぶゾンビの娘。
「まっそりゃそうか。間接キスみたいになっちまうか・・・・・・それで? こちらまで来たということは、何か貸して欲しい『不用品』があるという?」
「おうそうだ」
そう腕を組んで答える樺音。
「赤い羽根確か有っただろ? あれ、服に挿しつければ、相手の悪意を奪うというあれ」
「女神に差し上げました」
虎威は、普通に答える。
「女が・・・・・・? それじゃああれ、持っているだけで、自由に掌から火炎弾飛ばせる魔導書・・・・・・あれくれ」
「一般ピープルに何をするつもりで!? 古本屋に売り飛ばしましたよ」
「お前こそ何やってんだよ・・・・・・」
樺音は、開いた口をしばし塞ぐのを忘れている。
「とりあえずちょっとトイレ行ってくる。手洗いは一階公共で困りま~」
虎威は立って振り返り、
「あっおいバカ!?」
鍵を捻った。
扉が勢いよく開く。
・・・・・・外から・・・・・・。
土足で押し寄せてくる部外者達。
欲望と身勝手を溢れさせる喧噪・・・・・・。
テレビの情報に踊らされ、不死を求めた人達の津波が奔流した。
先程扉の打撃で吹き飛ばされた虎威は、呆然とした。
群衆達の狙いは一つ・・・・・・。
粗暴なゾンビ娘ただ一人。
「わしを、わしをな・・・・・・まず感染してくれ。末期がんなんだよ」
「いや私や!! ほななんか今にも成仏しそうで、ヤバそうなんや・・・・・・」
「俺だ!! 不老不死にさえなれば、崖上からバックドロップ遊びができるぞ!! スリリングだろ?」
「樺音さん!! ぜひぜひ自分のお嫁さんになってください!! アンデット萌えぇ!!・・・・・・不老不死とかどうでもいいんで!!」
みんながみんな樺音の服やら髪の毛等を鷲掴みにしては、各々自分の手元に引き寄せようとする。
「あっ!? おいどさくさに紛れて、オレの胸掴んでんじゃねえ。殺すぞ!!」
目が血走って、自分だけ目的を叶えようとする侵入者達は、まるで人間に群がるゾンビの集団だ。
顔をしかめた樺音は、つい苦し紛れに、
「待てよてめぇら!! 不老不死になりてぇなら、虎威の奴に頼みやがれぇっ!! あいつは、ゾンビ化させることなく不死になれる薬を、持ってっぞ!!」
そう嘘をついた。
一瞬で静まり返り、動きを止めた人達。
そんな状況に虎威は大口を開け・・・・・・
「え!? 何でそんな事知っているの!?」
そう正直に答えた。
「持ってんのっかい!!」
彼らの視線を、虎威は独り占めをした。
なんか一人だけ、散らしてある花束抱えていて、樺音に釘付けだが。
「それは本当の話なのかい? ならわしな、わしに譲ってくれ。金ならいくらでもやるから」
「ああ天使がこちらに舞い降りてきた・・・・・・早く私に飲ませないとまじでやばいんや・・・・・・」
「ヒャッホウっ! 一緒に俺とパラシュート無しのスカイダイビングしようぜ。例の薬飲んでさぁ~」
「ぜひっこの気持を受け取って下さい。樺音さん・・・・・・!!」
注目を浴びた虎威はやむを得ず・・・・・・。
「わかりました・・・・・・ちょいお待ちを」
両手を挙げ、襖を開き、魔窟と化しているダンボール内を探り出す。
すぐに彼は、丸薬が入った瓶を、つまみ上げた。
その瞬間に、歓声に満たされる1LDK。
「・・・・・・本当に良いんで? これすぐに消化して腸が即吸収するタイプ・・・・・・飲んだらもう後戻りできませんよ? ・・・・・・解薬剤なんかないぞ、退くなら今のうちだ」
虎威の警告には、誰も耳を貸さなかった。
彼は一息だけ、本当に一息だけの大きなため息をついた。
「じゃあ並んで下さい、列を作って下さい。一粒ずつ渡しますから・・・・・・」
彼の命令に従う群衆。列は室内から外の廊下・階段まで長々と続いている。
この時樺音は、愛を語る男を無視して、とある考え事をする。
「これが不老不死の薬だなんて実証無いだろ? 何で盲信できる・・・・・・」
そう、呆れていた。
そしてつつがなく配給された。
途中で一人の男が、
「兄ちゃんこの薬飲んだの? 」
そう尋ねる。
虎威は、
「そんな怖いことできるか!!」
即叫ぶ。群衆は呑気そうに笑っていた。
「これで空だな。ちょうど人数と薬の数が合った」
薬を求めていった人達は全員、虎威から渡された瞬間にすぐ服用した。
なんか一人だけ樺音の隣で、愛の詩を歌っていたが。
群衆は皆狂喜乱舞し、中にはハグし合ったりしてる人達もいる。
虎威もつい頬が緩んだ。彼も何か嬉しそうだ。
樺音は虎威の表情に疑問を感じ始める。
「なあ・・・・・・なんか隠し事してねえか? あの薬偽物じゃ?」
ひそひそと、小声で尋ねる樺音。
「ん? ・・・・・・正真正銘の不老不死薬で」
「おいそこのお前! 樺音さんとどんな関係だ!?」
「じゃあ、なんかとんでもない副作用とかあるんじゃ?」
「元の持ち主の仙人は、人間が飲んでも不老不死になる以外、何の問題もないって言ってた」
「おい聞いてんのか!? 彼氏か? 彼氏なのか? なら勝負だ」
「じゃあ何で笑ったんだよ?」
「ああたまには人の役に立つのもい・・・・・・グハッ!?」
群衆の一人が、虎威の顎に重い一撃を食らわせた!!
そんな中、つけっぱなしのテレビに映っている例の医者が、長々とこんなことを説明してた。
大きな声で伝えていった。
『いや、不老不死化にはゾンビの感染に限るなやはり。
ゾンビになった場合、自分の体が燃えてしまえば、死ぬことはできる・・・・・・しかしそれ以外の場合、ただの凡人が何も解除する方法がないのに不死になってしまっては、地獄だろう・・・・・・そのうち世界に対してあらゆる興奮も喜びもどんどん薄れ、次に数多溢れる自身の記憶に潰され、最後に何の関心も持てない存在になる。・・・・・・まあまるでゾンビだよ』
ありがとうございました。