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其の六 魔法のように荒野の景色が裂ける

 BMW・R75は、三人を乗せて荒野を走り出す。

 殺伐とした景色の中、ふたりの少女を乗せたバイクは砂塵をまきおこして走りつづける。

 唐突に、ローズが手をあげて合図をした。

 ティーガーは、バイクをとめる。


「ここに隠れ家があるの」


 ローズが指し示したほうには、何も存在し無かった。

 ただ、ひたすらに荒野がひろがっているようだ。

 百妃は、怪訝な顔でローズを見る。

 ローズは微笑むとサイドカーから降りて、空間の一ヶ所に手を差し伸べた。

 荒野の景色が魔法のように裂け、廃墟となったビルの群れが裂け目の向こうにみえる。

 百妃は、驚きの声をあげた。


「まさか、光学迷彩。電磁メタマテリアルを使った、光屈折方式のものね」


 かなり巨大な空間を、電磁メタマテリアルのスクリーンで覆っているようだ。

 おそらくは、ひとつの廃墟となった街をまるごとということなのだろう。


「電磁ワイヤーを使って、巨大なドームを作ったんでしょうけれど、こんな規模の光学迷彩なんて」


 まるで、大災厄がおきる前の技術が蘇ったというかのようだ。

 BMW・R75は、光学迷彩の裂け目をとおって廃墟の中へと入っていく。

 光学迷彩のドームが頭上を覆っているため、空は見えず曇天のような灰色に塗りつぶされている。

 しかし、ところどころに裂け目があるらしく黄昏時の暗さとなった廃墟に幾本かの光の柱が降りていた。

 それは、大聖堂を連想させられる荘厳な景色でもある。

 廃墟を構成する朽ちた建物は、鉄筋コンクリートの建物だと思われるが、その表面は植物に覆われ自然の岩山と同じ景色を造りあげていた。

 夕闇の昏さに沈んだ緑の廃墟の間に、天使が降りてきそうな光の柱が幾本も立っている。

 百妃は、その景色に圧倒されあたりを見回していた。


「そこで、とめて」


 ローズの言葉に応じて、ティーガーがバイクを停車した。

 そこにある建物は、古めかしいゴシック調の様式で建てられたアパートのようだ。

 他の建物と同じく蔦や草に覆い尽くされて、立ち上がった野原となっている。

 しかし、崩壊の度合いは他の建物ほどではない。

 ローズは、眼差しで百妃とティーガーを促し、自分からアパートの中へと入っていく。

 建物の中は、濃厚な闇に満たされている。

 ローズは慣れているのか、無造作に暗闇の中へと踏み込んでいった。

 百妃はその後に続いて建物の奥へと踏み込んでいこうとしたが、無言のままティーガーが百妃を押しとどめ前へとでる。

 百妃は前に出たティーガーの胸で、レーザーサイトの照準が真紅の点となって輝いていることに気がつき驚愕した。


「大丈夫よ、このひとたちは。マリィゴールド」


 ローズは、闇の奥へ向かって声をかける。


「このひとたちは、敵じゃあない」


 闇の中でなにかが動く気配があり、ふたつの青白い光を浮かび上がった。

 百妃は、それがスターライトスコープの放つ光だと気がつきまた驚く。

 まるで大災厄がおこる前のように、平然と電子装備が使用されている。

 百妃は、とりあえず両手をあげて闇の奥へ語りかけた。


「わたしは、人類解放戦線の術者よ。それに」


 百妃は傍らへ、目を向ける。


「彼は、わたしの式神」


 電気トーチが床に転がり、闇が部分的においやられる。

 淡い光の中に、ポンチョを纏った少女が姿をあらわした。

 手にはレーザーサイトを銃身の下につけたM4カービンを持ち、ヘルメットの下にスターライトスコープを装備している。

 少女は、スターライトスコープを額のほうへ押し上げ、サファイアの色をした瞳をみせた。

 少女はじっと百妃をみつめていたが、唐突に納得したらしく、M4カービンの銃口をさげ赤い唇に笑みを浮かべる。


「ごめんなさい、疑ってしまって。わたしは、マリィゴールド」


 百妃は、頷いた。


「いいえ、生き延びるために用心深くあるのは当然。わたしは、百妃、そして式神の名はティーガー」


 マリィゴールドは、少しはにかんだような表情で会釈する。

 百妃は、笑みを返した。


「それにしても、驚いたわ。ナノマシンに感染していない電子装備が、こんなに残っているなんて」

「いいえ」


 マリィゴールドのあっさりとした否定に、百妃は目をまるくした。


「ここの電子機器は、すべてナノマシンに汚染されているの。けれど、そのナノマシンたちはコントロールされている」


 百妃の驚愕は、さらに深まる。


「あなたたちは、ナノマシンをコントロールできるの!」


 かつて大災厄の時、RBが世界中に散布したナノマシンによって全ての電子機器が機能を狂わせられた。

 そのことにより、人類のライフラインが全て壊滅し文明が崩壊したのだ。

 もし、電子機器に感染しその機能を狂わせたナノマシンをコントロールできるのであれば、理論的には失われた文明を再生することができるはず。

 床に転がった電気トーチを、ローズが拾いあげる。

 淡い闇の中、黒い肌が立ち上がった影のように見えるローズの姿が浮かびあがった。


「正確にいえば、ナノマシンをコントロールできるのはわたしたちではない。マリィもわたしも、そんなことはできない」


 ローズは、電気トーチで奥を指し示す。

 そこに、階段があった。


「ナノマシンをコントロールできるのは、わたしたちのリーダ。百妃、あなたをリーダのところへ連れていくわ」


 百妃は、頷く。



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