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其の十三 美しいおんなのように綺麗な流線型の機体

 マキーナ・トロープとハウンド・クラスに、包囲されつつある。

 もう、アハト・アハトで戦える相手しいないのであれば、動きながら戦ったほうがいい。


「パンツァー・フォー! ティーガー」


 百妃に応えるように、マイバッハのV型12気筒エンジンが咆哮をあげた。

 ティーガーの無限軌道が、廃墟のアスファルトを砕き前進をはじめる。

 ティーガーはキューポラの前方についた擲弾筒から、発煙弾を発射し煙幕を重ねていく。

 マリィゴールドは、前方上面装甲についたハッチを開いて煙幕の向こうをから現れる敵を探していた。

 鬼火のような光が、黒い煙の中に浮かび上がる。

 マウザー・ヴェルケMG34が火を吹き、二体のハウンドタイプが崩れ落ちた。

 しかし、ハウンドタイプたちはティーガーを避けるように左右に展開していく。

 さらに多くの光が、ティーガーの後方に出現した。

 マキーナトロープたちは、はじめからティーガーの後ろに続くサイドカーに乗ったフリージアたちを標的にしている。

 百妃は、後ろに向かって叫んだ。


「フリージア!」


 フリージアは、片手でバイクのハンドルを握ったまま振り向いて、ストックとグリップを装着しスタンドアロンタイプにしたM203グレネードランチャーを発射する。

 発射された40ミリ弾は爆発する代りに、電磁パルスを放出した。

 ナノマンシを動きを停止させるようにチューニングされた電磁パルスは、一時的にではあるがハウンドタイプの動きを止める。

 凍った時間にのみ込まれたようなハウンド・クラスたちに向かって、ローズがダネルMGLを発射した。

 40ミリ対人榴弾は、動きを止めたハウンド・クラスを次々に破壊していく。

 距離が離れていたせいで電磁パルスの影響を受けなかったらしいハウンド・クラスが、後方左右から襲いかかってきた。

 百妃は、ティーガーに向かって叫んだ。


「ティーガー、グレネードだ」


 ティーガーの後方上面装甲に装備された擲弾筒から、92mmのグレネードが発射される。

 炸裂したグレネードは、ハウンド・クラスを地面に沈めていった。

 ローズは、ダネルMGLの弾倉をスイングアウトして空カートリッジを捨て、弾倉兼チェンバーへ40ミリ擲弾を素早く装填する。

 接近するハウンド・クラスは、ダネルMGLの40ミリ擲弾に破壊されていった。

 爆発する轟音と火焔の放つ光が、少女たちの耳と目の感覚を奪いつづける。

 百妃は、激しい音と光で脳の中をシェイクされていくような気持ちになった。

 ダネルMGLと92mmのグレネードは、圧倒的な破壊力を持つ。

 死滅の閃光が、大輪の花となって廃墟に咲き誇り、紅蓮の焔はハウンド・クラスを餌食にしていく。

 百妃は、眉をひそめる。

 これでは、簡単すぎだ。

 そう思うと同時に、頭上の気配に気づき百妃は空を仰ぎ見る。

 いつのまにか廃墟の建物に入り込んでいたらしい、半人半獣の姿をしたマキーナ・トロープたちが窓から降下してくる姿が、目にはいった。

 マキーナ・トロープは巨大な蝙蝠の翼を広げ、5.56ミリのアサルト・ライフルを手にしている。

 百妃は、舌打ちをした。

 自分達は、後手に回ってしまったらしい。


「ティーガー、照明弾を」


 百妃の声に応え、後部上面装甲の擲弾筒から照明弾が発射される。

 真昼の太陽がもつ輝きが照明弾の炸裂により解き放たれ、あたりが一瞬白くなった。

 百妃は叫び声をあげながら、金色の獣毛に覆われた左手でもつ骨喰藤四郎を高く掲げる。

 骨喰藤四郎は照明弾の輝きを受け、凶悪な光を放つ。

 まさに伝説に語られる、見たものの骨を砕くような破滅の輝きだ。

 その輝きを目にしたマキーナ・トロープは、増幅されたパウリ・エフェクトの力によって身体の制御を失い地面に叩きつけられてゆく。

 しかし、半数以上のマキーナ・トロープたちが煙幕の上を翼竜のように滑空し、フリージアたちに襲いかかっていった。


「ティーガー、反転だ」


 百妃の叫びに呼応して、鋼鉄の虎は左右の無限軌道を逆回転させて百八十度の転身を行う。

 無限軌道がアスファルトを砕き、土煙をあげた。

 マイバッハV型12気筒エンジンが、獣の叫びをあげ続ける。

 それに合わせ、マリィゴールドがマウザー・ヴェルケMG34を斉射していく。

 7.92ミリ口径の機銃弾がマキーナ・トロープたちを地に叩きつけていくが、間に合わない。

 一手遅れを、とっていた。

 サイドカーにツバキが立ち上がり、短弓をかまえる。

 百妃は絶望感にこころを昏くしながら、唇を噛む。

 指向性の強いツバキの呪では、一度に一体かせいぜい二体のマキーナ・トロープを打ち落とすのが限界だ。

 五体のマキーナ・トロープが、四方から襲いかかってきている。

 チェックメイトだと思いながら、ツバキを見つめた。

 ツバキの弓には、今度は矢がつがえられている。

 ツバキは矢を放ち、叫んだ。


「ヤクⅠ、我が前に顕現せよ!」


 百妃は、驚愕で目を見開いた。

 放たれた矢は、宙空で黒い光に包まれる。

 その黒い光の中から、全長8メートル、翼長10メートルはあるレシプロ戦闘機が出現した。

 オリーブドラブに塗装されたデルタ合板の機体に、真紅の星が描かれている。

 流線型をした戦闘機は、機種のプロペラハブに装備されている機銃を撃つ。

 20ミリ弾が、マキーナ・トロープの翼を裂き地に叩き落とす。

 二体のマキーナ・トロープを斃したが、残り三体が翼竜の羽が広げ旋回しながら襲いかかってくる。

 マキーナ・トロープの手にした5.56ミリのアサルトライフルが火を吹き、地面に着弾して火花を散らした。

 旋回しながらの射撃なのでそう命中するものではないが、距離が近づきつつあるため着弾位置は正確になっていく。

 レシプロ戦闘機は、スーパチャージャーを駆動し液冷V型12気筒エンジンに咆哮をあげさせながら、機体を反転させマキーナ・トロープのほうへ向いた。

 ツバキは、今度は矢をつがえていない弓を弾き、呪をとばすとパウリ・エフェクトを発生させる。

 蜘蛛の糸に捕らえられた蝶のように動きが鈍るマキーナ・トロープたちへ、戦闘機から20ミリ機銃弾が浴びせられた。

 残った五体のマキーナ・トロープも、地に落ちる。


「まさか、式神まで持っていたなんて」


 百妃は、驚きで目をみひらいたまま呟く。

 レシプロ戦闘機は、美しいおんなのように綺麗な流線型の機体を派手にロールさせながら廃墟の中を飛行し道路へと着陸する。

 主翼に格納されていたランディング・ギアを開き、主脚の車輪が地面に着く瞬間、機体が黒い光につつまれた。

 漆黒の光の中から現れたのは、オリーブドラブの飛行服を着た金髪碧眼のおんなである。

ウェーブのかかった髪を短くした可憐な顔のおんなは、自分とそう年齢は変わらないなと百妃は思った。

 飛行服のおんなは、ツバキの前に立つ。


「まさか、髭の独裁者が愛した戦車と共闘するとは思わなかったぞ」


 飛行服のおんなは、皮肉な笑みを浮かべる。

 ツバキは意味が理解できないらしく、紅い瞳を怪訝そうに曇らせた。

 フリージアが苦笑を浮かべ、わってはいる。


「ありがとう、ヤクⅠ。この世界ではもう、人類同士が諍うことはなくなったのよ」

「それは重畳」


 可憐な顔のおんなは頷くと、黒い光につつまれ再び矢の姿へと戻った。

 戦闘は収束し、もう動くロボットやマキーナ・トロープはいない。

 百妃は、ティーガーからおりるとサイドカーのほうへと向かって歩く。

 途中で百妃は地面につきたてられた矢を抜くと、ツバキへと手渡す。

 百妃は、呆れ顔でいった。


「一体、どこで式神を手に入れたのよ」


 ツバキは、薄く微笑む。


「RBの基地には、鹵獲されたらしい式神が保管されていたの。召喚したのは、今日がはじめてなんだけどね」


 百妃は、ため息をつく。


「わたしたちは、かなり幸運に恵まれているようね。この調子で、シャイアン・マウンテンまで行きたいものだわ」


 フリージアは、少し皮肉な笑みを浮かべる。


「RBは、術者が式神を扱うノウハウも十分に調査済みということ。それでなければ、ソロモン柱神団などつくれるはずがない」


 百妃は、肩をすくめてうなずいた。


「なるほどね、こころしておくわ」


 百妃は、踵をかえすと再びティーガーのキューポラへと戻る。

 そして、ティーガーへ指示を出した。


「パンツァー・フォー! ティーガー。街からでるぞ」


 マイバッハV型12気筒エンジンが、再び唸りをあげる。



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