巡査になりました Ⅶ
「あの人も警察官なのですよね?」
琴姫は今の光景を見て熊宮に訊ねる。常識的に考えればそのような警官は存在しない、と誰もが思う。しかし、前で審査をしているということはやはり警察の一員なのだろうとも思う。
しかも本部にいるということは、首都東京を守る組織――――警視庁の中にいるということである。それは警察官の憧れだったりするのだ。
本当にこの女性がそうであるとは信じがたいが。
「ああ、そうだよ……」
そんな中、熊宮だけは初めから嫌な顔をしていた。
「あの人はマジの天才だ。因みに琴姫巡査はあの人いくつだと思う?」
「二七、二八くらいですか?」
「あの人は現在二十七歳だ。俺の一つ先輩で、現在警部だ。要するに……」
「キャリア組……ですか」
「そういうことだ。あの人は最短でそこに至ったんだ。まあそれ以上は昇れないらしいんだがな」
「えーと、何となく理由がわかる気がします」
言動や性格的に問題があるのでいくら天才とはいえ、警察の顔にはなれないということだ。その代わり特別料金を受けている。
「それ以上に驚くべきことがある。サイバー犯罪特別捜査官の称号持ちなんだよ」
「五年間民間企業に勤めてからじゃないとなれない、しかも試験が相当難度が高いと言われているものですよね……」
「そう。それを一発合格の満点叩き出したらしい。だから、キャリア組のスタートは警部補なのに、あの人は初っ端から警部なんだと」
特別捜査官とは四種類あり、そのうちの一つがサイバー犯罪特別捜査官というものだ。これはなりたいからといって簡単になれるものではないのだ。一発で受かるだけでも凄いことなのだ。それを満点とは恐ろしい。
故に天才と称した。
「とてもそうは見えませんけど」
その女性は欠伸をしながらデータを見ていた。間違ってもやる気のあるようには見えない。
「なのに知識と技量だけはトップクラスだから何とも言えないんだよなあ」
とにかく、努力とは何なのかと考えさせられてしまうような人であった。
そうして話し込んでいると最後に二人だけになった。
「くまちゃん久しぶりじゃない〜?」
その女性は顔を上げて熊宮を見るなりそう言った。しかも既に愛称をつけられている。
「成瀬警部、そのくまちゃんは止めてくださいよ」
熊宮の返しを無視して続ける。マイペースだ。
「それで、隣の可愛い子は……くまちゃんはナニをするのかな〜?」
「ブフッ――――。な、何を言ってるのかわかりませんが」
「まあそんなことは置いといて、私は成瀬美結莉。警視庁地域安全部-サイバー犯罪対策課。よろしく〜。成瀬さんとでも呼んで」
――――凄くノリの軽い人だなあ。
「貴方の名前は分かってる。琴姫優華巡査ねー。本当にナニもされてないの?」
「ナニ? とは何でしょうか?」
「ひめちゃん知らないの」
成瀬は既に琴姫にも愛称を付けていた。割と適当なようだ。
「いや、そんな説明はいらないでしょう」
話しが変な方向に進んで行きそうだったので熊宮が割って入る。
「はいはい。じゃあ、くまちゃんも入って」
しかし、ツッコミはスルーされ熊宮は入室させられた。
「そういえば二人はどういった関係なんですか?」
「大学の先輩、後輩かなあ。そうそうさっきの話だけどね、ひめちゃんが此処に居るってことは異世界の何かを見たって事で間違いないかな?」
「あーたくさんあったアレですか」
大量のラノベを思い出す。
「一つ良いことを教えてあげるよ。くまちゃんはね、大学生の時にパソコンがウイルス掛かっちゃったみたいでね、親や警察に言わないで私の所に来たのよ」
楽しくなったのか成瀬は話を続けた。
「何かと思えば、異世界の触手プレイなんてエロサイトばっかり見てて、ウイルス感染したって言うもんだから可笑しくて笑っちゃったわ」
「ちょっとバラさないでくださいよ!」
装置の中から熊宮が抗議をするも無視される。
「は、はぁ」
「しかし、どんだけウイルスに感染させてたのか修復するの面倒だったわよ」
「だから、熊宮先輩は成瀬さんのことをやけに詳しかったのですか……」
琴姫は今までの熊宮の口ぶりに納得がいった。何ともしょうもない理由だったことには少し引いた目をしてしまうが。
「私からお願いがあるのですが…………ダメでしょうか?」
「これでも私は超忙しいのよ〜」
意地悪そうに言う成瀬に琴姫は萎縮してしまう。流石に図々しかったかなと思った。
「嘘よ。くまちゃんの知り合いならいいわよ」
そう言い琴姫にウインクを投げた。
成瀬の格好はだらしなさを極めているのだが、それでもどこから見ても美人なお姉さんといった印象を与えた。また、胸の強調具合にスレンダーな脚線が妖艶さを演出している。外見だけ見ればの話だが。
「おい。普通に話してるけど、俺の人権は⁉︎」
審査を終え、熊宮は出てくるなり叫んだ。
「じゃあ、ひめちゃんも入っちゃって」
「ってスルーですか⁉︎」
「くまちゃん、そんな細かいこと気にしてたらモテないよ〜。それに、私のお陰で助かったじゃない?」
「そ、そうですけど……」
二人が親しげな冗談を交わしている中、琴姫は装置の中へ入っていた。