巡査になりました Ⅴ
「よし、終わったぞ」
その声を聞き部屋に駆け出す。
「早速お願いします!」
「慌てるな。本当に友人とかに言うなよな。絶対、他言無用だぞ」
「大丈夫です!」
熊宮は少しの不安を抱きつつ説明することにした。
「それじゃあ話すが、実は来年一月に警察内でとある審査が行われるらしいんだ」
「審査ですか?」
「ああ。なんでも警察官の中から二人しか選ばれないらしくてな、倍率が高い」
「それが異世界と関係あるのですか?」
「ある。今は2049年。技術の発達で既に数十キロの物質の空間転移は可能になっているわけだが、この意味がわかるか?」
この時代において、空間を通しての荷物配送などは最早当たり前となっている技術である。それを鑑みて琴姫は考える。
するとある結論に至った。
「ここではない空間…………まさか異世界に繋がったということですか⁉︎」
「声がでかい」
すみませんと頭を下げる。
「でも、それは本当なんですか? その技術って送り先の座標から受け手の座標を繋がないといけないのですよね?」
「その辺の技術に関しては知らんな」
「しかし、そのようなものが既に出来てるのですか……」
「正確にはまだだが、理論上繋がることは確定らしい。実験でマウスサイズなら扉が出来てるようだし。まあ人間サイズは来年の四月には完成だとのことだ」
この発見はとても奇跡的なことであり、同時に危険を漂わせることでもあった。それによってタイムパラドックスが生じたりはしないかなど。興味本位で押しかけられても困るので一般人には伝えることが出来ない。
「それで審査?」
「大勢で行き過ぎると異世界の生態系を壊しかねないし、俺たちの身に何が起きるかわからないからな。とりあえず現地調査という意味で二人だけらしいぞ」
琴姫は興味深そうに終始頷いている。
「琴姫もエントリーしたいのか?」
「私、も?」
「いや、何でもない。まあ警察官だったら誰でも応募出来るから本部に連絡でも入れてみたらいいんじゃないか」
「そうしてみます。しかし、先輩は何故そのような事に詳しいのですか?」
その時、熊宮の背後にある棚から何かが落ちる音がした。結構大きい。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも――――」
熊宮が何でもないと言おうとする時、既に琴姫の瞳には映っていた。
「それは……異世界系の小説?」
熊宮の部屋はライトノベルやアニメ系雑誌などで飾られていたのだが、琴姫に知られまいと無理矢理しまい込んだのだ。しかし、片付け方が雑だったため物が重力に引っ張られて落ちてしまった。
「最初言おうとしなかったのは…………先輩は私を蹴落そうとしていたのですか⁉︎」
「ち、違うとはまぁ言えないけども…………」
そして熊宮は琴姫の真っ直ぐな眼差しを見て、ため息をついた後に喋り始めた。
「たしかにエントリー資格は警察官ならば誰でも可能だ。これも先輩から聞いたことなんだが、もう一つ誰も知らない条件があるんだ」
「それは…………」
瞳の中を煥然と輝くのが見て取れる。まるで漫画にでも出てきそうなほど。それを見て熊宮はゆっくりと口を開き、短く言葉にした。
「異世界が好きであること、だ」
「本当ですか⁉︎」
興奮のあまり声量が大きくなる。
「うるさいって……」
「すみません。それでその話は本当なのですか?」
「百パーセント断言は出来ない。しかし、俺が尋ねたその人は解析に関しちゃ天才だからな……。嘘は言ってないと思うんだよな。だから倍率をこれ以上上げないために教えたくなかった」
「たしかに、私の立場でもそうするかもしれませんけど、酷いですよ」
「悪かったって。まあ二つ目の条件を知る者はほぼいないから安心しろ。あの人は変わり者だから関わる人は限られてくる」
「では先輩はどのように知ったのですか?」
数秒の間があいて、
「べ、別に何でもいいだろ。吐くことは吐いたんだ。さっさと明日の準備しとくんだな」
「わ、わかりました。それでは失礼しました」
琴姫は良い情報が聞き出せたと歓喜し、熊宮は情報が広がってしまったとため息を大きくついた。
その後二人は市内の安全を守るために活動し、忙しなく日々は過ぎ行った。