巡査になりました Ⅲ
「一ついいですか?」
「一応聞くが、何だ?」
「失礼ながら、先輩は幼子が好きな類の人ではないのですか?」
「多分そうだと思ったけど……。本当に違うからな」
念を押して言う。
「そもそも俺は何もしてないし、あれは子供の戯言だろ」
「理解していますよ」
何なのだと、熊宮は思い嘆息した。
「それともう一ついいですか?」
「今度は何に分類してくれるんだ?」
琴姫は熊宮をマジマジと見て言うので、熊宮はまた変態だの言うのではないかと身構えていた。
――――でも、私の記憶違いかもしれないし……
「ん? どうしたんだ?」
熊宮は一ついいですかと尋ねられたのに少し沈黙されたので不思議に思った。
「今思ったのですが、熊宮先輩は私に以前会ったことありましたか?」
意味不明であり、さらに不思議になった。唐突というのもあるが、自分自身に会ったことがあるかどうかなど、会った本人が分からないならば誰も分からないのだから。
発言した琴姫も何故そう思ったのか明白ではない。
「へ?」
謎な質問ゆえに熊宮は間の抜けた声を出してしまった。
「もう少し分かるように説明してくれ。さっぱり分からん。しかし、何故そんなことを俺に聞くんだ?」
「見たことがある気がしましたので」
「俺はずっとここの地域担当してるから、近くに住んでいれば一度や二度見かけることはあるだろうな」
熊宮は考えを巡らせれど、特に印象付けるような何かをした覚えがなかった。
「そうではなくてですね。私が警察官になろうと思ったキッカケになる人がいました。でもよく顔は覚えてないのですが。もう一度会ってみたいと思いまして」
この数年で何かあったのだろうかと、熊宮は記憶を探れどやはり思い出せない。
「とりあえずパトカーに乗ってくれ。話はそれからだな」
やり取りをしていると直ぐに交番に着いた。
そして、二人はその車に乗りパトロールを開始した。
「それで詳細を教えてもらえるか?」
熊宮は言いながら周囲をしっかり警戒していた。そこは慣れだろう。
「はい。私はこの市出身なのですが、三年前、大学からこの市へ帰っている途中何者か襲われたんです。そして色々とあって人質として捉えられ、立て籠り事件になる手前、その人に助けられました」
「って事件は起こってないのか。しかし、三年前か……あんまり覚えてないけどなあ」
「多分、私の気のせいですね」
「そうか」
走ること一時間。市を一周し終え、交番に戻ってきた。
「巡回は一日三回。だから夕方五時と夜七時にまた行くぞ」
「はい」
「あとは被害届の受理に、110番があれば駆けつける。それまでは待機だな。でも不審な人物がいたら職質してもいいぞ。ただ無闇にやるなよ。地域の信頼を失いかねないからな」
地域総務課は地域密着型なため市民との関わりが大切なのだ。熊宮も琴姫同様真面目な性格であるためその辺はきっちりしていた。
そして二人は交番の前に立ち、周囲に警戒を巡らせていた。