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ノー・チート・ライフ  作者: 山部 椿 
8/8

別れと合流

遅くなりました!

これからは2週間に一回のペースで投稿します。

だいたい5000文字ぐらいのペースでいけたらいいなと思っています。


 血を流し地面に倒れているケンドウに気が付いたニシは急いでケンドウの元に駆け寄り、怪我の具合を確認するためにしゃがみ込む。そこでケンドウもニシに気が付き、笑顔で大した怪我ではないと伝え、自ら立ち上げってみせる。その様子から、取り合えず命の危機に直結するような怪我ではないことに胸を撫でおろす。


「取り合えず止血をしないと、出血量が多いし消毒もしないと」


「いや落ち着けよ。止血道具も消毒道具も今ここにはないだろう」


 呆れを含んだケンドウの言葉に自分達が今、異世界にいることを改めて思い知らされる。現状自分達は薬を持っていないし入手する手段も定かではない。それどころか、食料や水すら持っていないのだ。この世界に来ていきなり戦場のすぐそばに飛ばされて、その危険から遠ざかることばかりに頭がいっていたことにより、そんな当たり前のことすら考えていなかった。


「そうか。そうですね。今の自分達には簡単な治療をすることもできないんですね」


 自分達がおかれている現状を思い出したニシは目に見えて落ち込んでしまう。そんな様子を見せらたケンドウは頭をガシガシと掻き、無理やりにでも話題を変えるべきだと判断する。


「まあ、ひとまずは命に関わる怪我ではないから安心しろよ。あと順突を決めるところ見てたぞ。あの身長差で、また見事に決めたもんだな」


 思わぬ誉め言葉に落ち込んでいた心が少し和らぐのを感じながら、少しぎこちない笑顔をつくる。


「ジョー先輩と組手していた時に長身の相手に突きを当てる方法を色々試していたおかげですね。それがなかったら当てられる自信はなかったです」


 ジョー先輩とは部活のOBでちょくちょく練習を見に来てくれるコーチのような立ち位置の先輩だ。この先輩、リングネームをギガ・ジョーと名乗っており実は身長は2m弱の体重130kgオーバーという巨体の持ち主であり、昔はその巨体でバスケをしていたという狂った身体能力を持つ怪物だ。正直、普段の試合ではジョー先輩との組手の経験は(技術的なもの、精神的なものはすごく役立っている)あまり役に立ちずらいが(あんな巨体そうそういない)まさか異世界でその経験が活かされる日がこようとは夢にも思っていなかった。


「ああ、ジョー先輩対策か、そりゃ納得だな」


 ジョー先輩の名前に納得の表情になるがその目はどこか生気が薄くどんよりとしていた。


 無理ないか。先輩はレギュラーの中で唯一の60kg台、ダントツの最軽量選手だ。その為、ジョー先輩との組手に生じる恐怖はオレなんかとは比べ物にならないのだろう。噂だとケンドウ先輩が一年の時にトラウマを植え付けられたとかー。


 思考が脱線気味だったニシは今はそれどころではないと自分を叱咤し改めて先輩に視線を向けると、まだ生気が薄いがそれでも真面目の表情でこちらを見ていた。


「ニシ忠告、いや警告だな。順突、いや飛ぶ系の技はこれからは多用せずにここぞという場面でしか使うな」


 え? 先ほど褒められたばかりの技の使用をいきなり制限され戸惑う。



 理由なく、いや普段からこのように強い口調で警告を出す人でない。それに先輩が本当に怒っている姿など一回しか見たことがない程だ。そんな先輩だから理由を聞かなければならない。


「なにか自分の技に欠点があったからでしょうか?」


「あ~、すまんがオレは口で説明するのが苦手でな、上手く説明できる気がしない。だから端的に言うが、真っすぐ飛んで来る相手なんてタイミングさえ分かれば的でしかないんだわ。元々空手を知っていたオレやカマタ、それにミナズキにも当てられないどころか迎撃されているだろう?」


「接近する動作が悟らせない技でもあるのですが」


 言われた意味は理解出来るがそのまま納得するには少し説明が不十分に感じたため、まだ問題点があるのかを聞いてみた。ケンドウ先輩も説明が十分ではないと感じていたのか、どういえば良いのかと思案する。


「それは・・・・・・」


「君たち、少しよいだろうか?」


 どうにか言葉にしようと口を開いたケンドウの言葉は横から掛けられた声に遮られる。声の方へ振り返るといつの間にか合流したのか並び立つアグルウスと少し後ろにクライが近づいて来ていた。


「ええ、構いませんよ。アグルウス殿とお呼びしても?」


「ああ、構わないよ」


 アグルウスの名前をきちんと覚えており、敬称を付けるケンドウに、自分の名前を名乗りの挙げたにも関わら呼び間違われたクライは、機会があれば必ず舌を切り落とすと決意する。


 そんな物騒な気配を感じたのか背筋に悪寒を感じ、ブルりと震えるが気にした様子もなく話を続ける。


「それで話というのは自分かニシのどちらかが、があなた達の国・・・住処についてゆくかどうかといったお話でしょうか?」


 その言葉にニシとアグルウスは意外という表情になる。もっとも二人の浮かべた表情の意味は異なっていた。ニシは純粋に何故そのような話になるのかが意外であり、アグルウスは自分がしようとした話を先に述べられた事に対しての意外感からであった。


「話が早くて助かるな。だが何故そう考えたのか、聞かせてくれないか?」


「まあ大分当てずっぽうな感だよりの推理ですけど。まず戦の最中に突然現れた部外者がどこの者か確認するのは当然として、その為に手っ取り早い方法は不審者を捕らえること。でも見つけた不審者を確認しようと来てみれば、予想よりも人数が多かったためこの場で全員を捕らえることは困難になった。なら今いる二人のうち片方を捕らえてもう一人を伝言役にして他のメンバーの動きを縛っておくのが普通かな~と」


 まあ、棒切れ振り回して殺し合いをしているような連中なら不審者は捕らえるより殺すと考えていたが、目の前の男が想定よりだいぶ話ができそうだったので過激な発言は控えた。正直先ほどのクライとの立会いの様子を考え見ると、殺しても良いと思われていそうだが。


「だいたいはその通りだな。それで、こちらとして全員を一度に連れていくのは難しと考えているが、君たちが望むのなら考慮するが、どうする?」


「全員はやめておきましょう。あなた達が争っていた人たちにこちらが複数人いたと教えてやる必要もないでしょうし・・・」


 もともと自分を捕らえる為にきたのだからそのほうがよいでしょうと、笑顔で告げる。彼らの当初の目的は自分だけだったはずだ。自分に仲間がいるのだと分かっていたのなら追手が二人というのはおかしな話になる。戦闘中で他に人員が割けなかった可能性はあるが、それだと10人長と名乗ったクライの上司、そこそこ偉い立場の人間が戦場を離れるのはあり得ないはずだ。


「鼠どもに知られても問題はないと思うが、確かにわざわざ情報をくれてやる必要はないか。わかった、そうさせてもらおう。では、どちらがついて来るかね?」


 アグルウスが二人の顔を見て確認を取る。そこでニシが沈んだ表情を浮かべていることに気付く。実はケンドウが現状の推測を話しているのを聞いてそこまで考えが及ばなかった自分の不甲斐なさから落ち込んでいたのだ。


 だがそれはニシが悪いわけでもケンドウの考察力が優れているわけでもなく、二人の置かれている状況の違いから生じた差でしかない。ケンドウは他のメンバーよりも早くこの世界に飛ばされていた。それも何故かケンドウのみ気を失うことなくだ。それに引き換えニシたちは、目が覚めて直ぐに逃走劇をしなければならなかった。つまり現状の危機から脱出以外のことを考える猶予があったか、なかったかの違いでしかないのだ。


「ニシよ。顔色が優れないようだが大丈夫か?」


 アグルウスのこちらを心配する言葉に沈んでいた顔を上げる。そしてすぐに気持ちを切り替えて大丈夫であると答え、自分が付いていく旨を告げる。


「先輩は皆のところに戻って下さい。自分よりも先輩が向こうにいた方が良いと思いますので」


「いや、オレが付いていくからニシは戻って事情を説明してくれ」


 その意見は即座に否定されてしまう。一人で一年の自分を異世界に放り出すことを良しとしなかったのかと考え、ケンドウに確認を取るがそれもすぐに否定される。


「いや、流石に傷の治療をしてもらわないとまずいだろ? さっきから血が止まらないし」


 その言葉に、怪我をしていたことを思い出す。視線を頭部に向ければ、言葉どおり血が止まらずに着ていた服もだいぶ赤く染まっていた。


「出血量が多いですよ!? なんで平気そうな顔してられるんですか!?」


 なぜか怒られてしまったケンドウは頭をポリポリと掻きながら首をかしげる。


「意識ははっきりしてるから、まだ大丈夫だよ。けど、ほっとくとヤバそうだからみんなへの伝言よろしく頼むぞ? そっちも同行者はオレで問題ないですか?」


「ああ、それでかまわないよ。隊に合流したら簡単な治療も受けられるだろう」


 アグルウス殿に確認を取り、治療の心配も解決される。ならば決まりと、話を一旦分かれるニシ達といつ合流するかに戻す。その中である問題点が浮かび上がる。


「再びこの森、黒浄ノ森に戻るには最低でも7日程かかるのだ」


「それはあなた達の住む場所からこの黒浄ノ森まで距離があるために時間がかかるということでしょうか?」


 ニシが真っ先に思いついた7日もかかる理由を口に出す。その言葉にアグルウスは首を横に振る。


「いや、ただ往復するだけなら3日とかからない距離だが問題なのはこの黒浄ノ森が3種族の中立地域となっていることだ」


「3種族の中立地域。つまり争っている3種族の不可侵地帯がこの森だと?」


「そうだ。本来なら私もここに近づくことは禁止されている。今回は不審者を捕らえるためと外からの抗議は切り捨てられるが、本来なら近づくことは許されない」


 なるほどとニシは頷く。隣接する3種族の中間にあるこの森は今はどこの領地でもない未開拓の土地なのだろう。これほど資源が豊富そうな森だ、どこの種族だって無傷で手に入れたい。そんな思惑が絡み合ってこの森は不可侵地帯となったのだろう。この世界の文明がどれほど発達しているかは謎だけど、周り一帯が平原の続くここいらでは資源豊かな土地は貴重なものだろう。そんな重要な場所に7日後になら戻ってこれとはどいうことなのだろう?


「おそらく7日後かその近日には、()脚族(きゃくぞく)との闘いがある。戦の機に乗じれば戻ることは可能だろう」


 ときゃく族? また新しい種族が出てきたな。


「もしかして長い耳が特徴の種族だったりしますか?」


「? まああの長耳の聴力の良さも特徴だが」


 ああ、やっぱり兎脚で合っていたのか。まるでファンタジーの世界だとニシはここが異世界であることを少し実感した。


「ふうん。じゃあ合流は7日以後ってことで決定か。問題点はこの森が7日間もの間、自活できるような環境なのかってことかな。当面の問題として水と食料・・・・・・それに危険な獣がいないかってところか」


 二人が乗ってきた二匹の熊の様な狼をちらりとみながら付け足す。あんのが森の中にいるのなら、危険を冒してでも全員で付いていく必要があるだろう。


「詳しいことは我々にもわからない。なにせもう数十年も我が種族は森に立ち入ってはいないからな。ただ危険な獣がいるという話は聞いたことはない。逆に、水と食料は豊富であると言われているな」


 確証はなし。まあ仕方がないかとケンドウは内心ため息をつく。


 これだけの森だ、探せば水ぐらいは見つかるだろう。最悪、水さえあれば1週間ぐらいであれば、あいつらならなんとかするだろうと信じることにする。本当なら自分もその手伝いをしたいが、仕方がない。


「では、そろそろ出発するとしよう。あまり隊を離れるわけにはいかぬからな」


 アグルウスの言葉にケンドウは頷き、アグルウスたちの元へ向かう前に踵を返し、ニシに近づき肩に手を乗せ向かい合う形になる。


「ニシ。あいつらの事を頼むぞ。それとオレのバックを持っていけ。中にプロテインとプロテインバーが入ってる。少しは腹の足しになるだろう」


「ありがとございます! すごく助かります。ケンドウ先輩も気を付けてください!」


 先輩が愛用しているプロテインは増量用の物で、普通のプロテインよりカロリー、脂質が多く含まれている。サバイバルには普通のプロテインよりむいている品だ。これは本当に助かる!


 喜色を浮かべる後輩に苦笑し、肩に置いていた手を襟元に移動させ、最後に声を最低限まで小さくして一言伝える。


「動くな・・・お前の襟裏に手紙を入れた。これをみんなに状況を説明した後にメギジマに渡してくれ」


 視線を最低限のみ動かし、自分の襟を視界に取れえると僅かな膨らみを確認できた。手紙を入れられたことにまったく気が付けなかった。相変わらず多芸な人だ。


「それじゃ7日後に会おう!」


 そう言い残し立ち去っていってしまう。代わりに先ほどまでアグルウスさんの隣で黙っていたクライがニシに近づいてきていた。ニシは手紙を受け取ったことがばれたのかと緊張してしまう。ニシの様子に気が付いたクライは、近づきながら声をかける。


「そう警戒しないでくれ。私も別れの挨拶をしたいだけだ」


 意外な言葉に戸惑ってしまう。彼女を相手にしたのはケンドウ先輩だし、会話もほとんどケンドウ先輩としていたから、自分にわざわざ別れの挨拶をしにくるとは思いもしなかった。


「隊長から話は聞いているよ。模擬試合とはいえ隊長に勝つとは思わなかったよ。そっちの男と違って、あんたには興味がわいたよ。次は是非わたしと勝負いて欲しいね」


 目の前で立ち止まり、好戦的な眼を向けてくる女性にニシは笑顔で答えながら右手を差し出す。


「お互い怪我をしないような試合なら喜んで御受けしますよ。クライさんと呼んでも?」


「怪我をしないようにか・・・まあ最初はそれでいいさね。あとクライでいいよ。わたしもニシって呼ぶから」


 不満そうな顔を隠しもせずに、だが笑顔で握手に応じる。その様子を見ていたケンドウは自分との対応の余りの違いに黄昏ていた。



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