初めての実戦
Nane 西江 神谷
Age 18
Sex 男
Height 183cm
Weight 82kg
ベーススタイル
空手 黒帯(3段) 、高校全国大会3位、経歴6年間
武道・格闘技歴
日本拳法 2級、経歴半年
全ての能力値が高いオールラウンダー。打撃・蹴り技共に高いレベルで身に付けている。
部内ランキング 7位
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ポケットから煙草を取り出し口に咥え火をつける。一口めはすぐに吐出し、二口目で深く吸い込み紫煙を吐き出す。
「フー。・・・・・・・でかいな」
タバコを咥えたまま視線を持ち上げていく。自分の胸ほどの位置に狼のような熊のような何かの頭があり、騎乗している人物の顔を見ようと首を限界まで倒し、ようやく目にすることができた。それは人間によく似た姿をしていた。白い髪に、瞳は縦に割れ赤い光彩を帯び、硬そうな黒い肌に覆われているが、その姿は人間に酷似していた。追っては二人いるが、もう一人は銀髪の後ろにいるため、顔を確認することができない。
「なあ、あんたらはどうしてオレ達を追いかけて来たんだ?」
いつ襲われても対応できるように獣と騎乗者の持つ槍に注意を向けつつ、言葉が通じるのか確かめるために話しかけてみる。すると予想外の返事が返された。
「見慣れない種族が戦場に突然現れたのだ。どのような存在か確かめるのは当然のことだろう」
「・・・嘘、言葉通じるの?」
返されるとは予想もしていなかった返事に驚愕する。ケンドウが話しかけたのは返事を期待したものではなく、言葉が通じないことを早いうちに確認したかったためであり、それも日本語で答えられるなど想像していなかった。
(なんで異世界で言葉が通じる? あの女神がご丁寧に言葉を理解する何らかの力を俺たちに使ったのか? いやあの女神の性格からしてそんなご丁寧なことをするとは思えない。むしろ言葉が通じないで困っている姿を笑顔で観察するタイプだろ)
自分から話かけておいて、言葉が通じることに驚くケンドウに、銀髪の男は不信に思うが構わずに仕事にかかることにした。手にしていた黒く冷たな光沢を持つ金属でできた槍をケンドウの首元に突きつける。
「貴様ら二人の身柄を捕らえさせてもらうぞ。黒髪を持った種族など見たことがない。いろいろと詳しく聞く必要があるのでな」
望外のことに会話をすることができそうな相手であった為、ひとまずは情報を集めるためることにする。会話を続けるために両手を上げ反抗の意思がない事をアピールしようと両手を持ち上げようとした腕がピタリと止まる。
(貴様ら二人? まさか!)
後ろを振り返ると先頭に行かせみんなと一緒に逃げていると思っていたニシが、そこに立っていた。ケンドウは自らの失策を悟る。
(しまった。この真面目な後輩の性格を読み違えた。この手の馬鹿は騙すより正直に話をして納得させるべきだった)
ため息を吐きたい気分だったが、我慢する。今はそれよりも会話で身の安全を保証できるよう手を打つことが先決である。しかし、一言漏れるのは我慢できなかった。
「たっく、この馬鹿が勝手に戻ってきやがって後で説教だ。 ・・・・・・でもありがとうよ」
ボヤキに近い言葉に何故か以上に狼狽するニシの様子を不審に思うが、特に取合わずに向き直る。するといつの間にか狼熊? から降りていた銀髪の男と目を合わせる。
「ひとつ聞きたいのですが、大人しく捕まればその後の身の安全は保障して貰えるんですかね?」
おどけた様子で話しかけながら先ほどは男の影で見えなかったもう一人の人物を視線を動かさずに注視する。その人物は男と同じ銀髪をしているが長く伸ばしており、男よりも硬さが和らいだ肌をしている。驚いたことにもう一人の追手は女性だった。
「我らが主に有用だと判断されれば身の安全は保障されよう。もし不要と判断されれば・・・」
「されればもしかして処分されるとか?いや、まさかそんなわけが・・・」
「その通りだ」
「「・・・・・・・」」
予想道理とはいえあんまりな内容に絶句してしまう。処理するなどという言葉など日本で過ごしていればリアルで聞く機会などなかったであろう。しかし、命がかかっている中で黙っているわけにはいかない。現状ではどういった対応をするべきか判断するにしても情報が足りていない。今は少しでも目の前の男から情報を聞き出さなければならない。
「有用か無用かは、何を基準に判断されるのでしょうか?よろしければ教えて頂きたいですね」
生来の性格からか、下からの弱腰での台詞のようでいてどこか強気な言い方で質問を重ねる。その質問に男は特に気にした様子もなく答える。
「我らが主は武の頂点に立つ武人故に、戦闘能力に重きを置いている。それ以外にも領土を豊かにする農民には体力と知識を持つ者のも有用であると考えている」
戦闘力と聞き自分たちの徒手による戦闘技術に価値があるかと考えるが、目の前の筋肉隆々の大男と手にしている武器を見てはたしてこの場所で徒手格闘に価値を見出されるか自信が無くなる。しかし、農民の知識引いては領土を豊かにする知識は果たして自分たちにあるのだろうか? 現代の知識なら多少は自分も持っているが、異世界で自分たちの知識や化学が通用するのかも未知数だ。ラノベとは違う、現代の知識などなんの価値もない可能性の方が大きいのだ。例えば今立っている地面は土の様に見えが、実は地球の土とは全く違う物質で出来ているのかもしれないし、自然現象のルールすら違う可能性すらある。なら、まだ格闘技術を有用だと思わせた方が良いのではないか?
「もし、未知数の戦闘技術を俺たちが身に着けていたら有用だと判断していただけるでしょうか?」
その言葉に、油断なく向けられていた視線が二人を吟味するように動く。数秒間体の上から下までを注視されていたが視線を戻された時には呆れを含んだ眼差しに変わっていた。
「未知数の戦闘技術には興味を持たれるだろう。しかしそれはその技術が有用ならだ。見たところ君たちは弱い。弱者が扱う技術に価値があるのだろうか?」
言わんとしていることは二人にも良く分かった。もし自分が指導を求めるなら自分より強い人に教えを乞うのが普通だからだ。しかし。
「「弱者が強者に勝つための技術が武道だ(です)」」
自分たちの誇りを安く見られて黙っていられる程大人しい性格をしていない。二人は背負っていたバックを地面に下ろすとそれぞれ構えを取る。
「確かに自分たちの体格や身体能力はあなた達に大きく劣っています。しかしそれを覆すことができる方法が技術です」
「実際に見て見ないとわからないだろう? 模擬試合しましょうよ? 命までは取らないってルールで」
二人の頭に自分たちの有用性を示す目的は残っていたが、それよりも自分たちが培ってきた格闘技能を認めさせることに目的が寄っていた。それが今どんなに愚かな考えであるかわ二人は理解していたが、それよりも誇りを傷つけられたことに反応してしまうのは格闘技者としてのプライドからなのだろう。
「・・・本気のようだな。いいだろう。お前たちの言うことも一理ある。見せて貰おうではないか」
言い終わると共に大男は持っていた槍の様な武器を下段に構える。構えられた瞬間近くにいたケンドウにプレッシャーが襲い掛かり1足にその場から飛びのく。3m以上離れていた距離が4m近く空き、男は感心したようにケンドウを見る。
「ほう。間合いの外まで距離をとるか、少しはできるようだな」
そう、ケンドウは男が構えた瞬間自分が危険な距離、相手の間合いにいることを感じ距離を取らされたのだ。
嘘だろ?3m以上は距離があったのにそれでもなお有効な間合いの範囲だったのか? 剣道とは距離が違いすぎるぞ。
警戒心から男から目を離せないケンドウに対し男は視線を外し、ニシへと向ける。
「では俺の相手はそちらのまだ体格の良い方にするか。俺の感がその方が楽しめると言っているのでな」
体をニシへと向け横に歩き出してしまう。ニシもそれに習い、体は男に向けたまま横に歩き出す。取り残されたケンドウはあれ、オレは? などと漏らし呆然としていると、いつの間にか近づいて来ていたもう一人の女の方から声を掛けられる。
「なら私の相手はお前だな。あっちの方がまだ楽しめただろうが、上司に取られては仕方がない。残り物で我慢してやるから少しは興じさせてみろ」
女はククリナイフのような武器を両手に手にし、凶暴な視線でケンドウを睨んでいた。ケンドウは女の言葉に反応を示さずに、遠のいていくニシへと振り返り呼び止める。
「ニシく~ん。お願い、相手変わって。そっちの男とオレを戦わせてくれ!マジで頼みます」
所々敬語になる程、何故か必死に対戦相手の交代を懇願する先輩の姿に訝しみ、しかしはっきりと返事を返す。
「すいません先輩、断ります。自分は女性を殴れないので無理です」
普段は先輩の頼みに対し即断で拒否をするような真似はせずに自分が出来る範囲で受けるよう努力する男は、異世界で初めて先輩の懇願を一刀両断した。その答えにケンドウの顔は青く染まる。
「オレだってそうだよ!? オレは女子供は蹴らないって決めてんだ・・・・・・」
背後から漂う殺気に言葉が止まる。恐る恐る振り返ると先ほどまでのやる気のない態度は消え失せ、殺気に満ちた女がそこにいた。
「女は蹴らない? ふざけたことを言ってくれるね。私に向かってそんな戯言を言った男で五体満足で済んだ奴はいないよ」
ギリッ、と音がなる程強くククリナイフを握りしめる。その姿を見て青かった顔色はより血の気を失った。
二人は元いた場所から10m程離れた位置で向かい合っていた。時折、鋭く空を切る音と男性の悲鳴が聞こえてくるが二人は極力それを無視してお互いの視線を交わす。
「さて、戦う前に準備をするなら今のうちにするといい。殺さないように気を付けるが怪我もなるべくなら小さい方が良いだろう?」
話しながら、手にしている槍の穂先を革で出来ているのであろう入物にしまう。どうやら故意にこちらを殺す気はないようだ。
「ではお言葉に甘えさしてもらいます」
手に持っていたバックの中から、細長い白の布を二枚取り出し、それを手に巻き付けていく。その様子を男が不思議そうに眺めているいることに気付き、説明をする。
「この布はですねバンテージと言って、こぶしを保護してくれるんです」
「そうなのか?こう言ってはなんだが、随分と心許ない防具だな?手甲などのほうが良いのではないか?」
ニシは男の疑問に、これは自分の説明が悪かったと補足を入れる。
「確かに防具としては手甲を付けた方が良いですね。この布の効果を的確に表すならサポーターと言った方が良かったかも知れません。この布を手首とこぶしに巻き付けることにより手首の固定とこぶしを握る際にできる指の隙間を無くし、より強固にこぶしを握り固めることができるんです」
ニシの補足に男は感心したように頷く。納得がいく説明に足りたようで何故かほっとする。
「なるほど。確かに重量のある物を槍で突くと手首を痛める者が出る。今度私も試してみるとしよう」
話をしている間に両手にバンテージを巻き終わる。手を何度か握り込み感触を確かめ、納得いくと拳を顎の下の高さまで持ち上げ、左足を一歩前に出し構えをとる。男もそれに倣うように槍を構える。
「お待たせしました。では、始めますか?」
「うむ。始めるとしようか」
異世界での初めての戦闘。まだこの世界のことも、戦う相手の事すら知らずに行われた戦いは彼の、彼らのこれからの運命を定めることとなる。この時の彼らに、それを知る由もなかった。