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ノー・チート・ライフ  作者: 山部 椿 
3/8

女神との遭遇2

やっと次の話から異世界にいけます。


 一瞬のうちに人一人がこの場から消えてしまった事態に対して、ニシは動揺を抑え、冷静に思考をするように自分に命じる。


 一旦落ち着け。そもそもここにいる全員が、扉をくぐり抜けてこの空間に一瞬で移動しているんだ。ならさっきみたいに任意の人間をどこかに移動させることも可能だろう。ならケンドウ先輩はどこに飛ばされた?あの時、女神を名乗るこの人は異世界と言っていた。異世界?異世界ってなんだよ。そんなのまるで漫画か映画の世界じゃないか・・・・落ち着け。そもそもこのわけがわからない空間にいること自体がすでに異常なんだ。まずは落ち着いてケンドウ先輩をどこにやったのかを聞くべきだ。


 自問した答えを聞こうと口を開こうとするが、それよりも早く質問をされる。


「あの男がどこに行ったのか教えて頂けないでしょうか?あ~、女神サマ?」


 ニシよりも先に質問をしたのはメギジマ主将だ。いつもと変わらずに落ち着いた口調で話しているが、どこかその表情は普段よりも固く見える。


「余は女神で間違いない。一度目は許すが次に疑問詞をつけら・・・・わかるな?」


僅かに楽しげだった女神の表情が冷たいものに戻ってしまう。それを見て主将も頭を下げ、謝罪をする。


「それで、先ほどの道化の行き先を聞きたいのだったな?これからそなた達も同じ場所に行くのだからわざわざ余が話してやる必要があるのか?」


 有無を言わさない口調の言葉に、唸りそうになる喉を意識で止め、今の発言を吟味する。


 まずは発言の内容で安心できる点は、同じ場所と言ったことだろうか。同じ世界ではなくわざわざ同じ場所ということは、これから俺たちはバラバラの場所に送られるのではなく、一か所に固まって送らる可能性が高い。これはだいぶ助かるな。異世界なんて見ず知らずどころかまともに生きることが出来るのかもわからない場所に一人で送られでもしたら心が折れることは容易に想像できた。


 次に考えるのはマイナス面だ。今までの発言から向こうはこちらを、いや人間を同列の存在ではなく、だいぶ劣った存在だと認識していることがわかる。そして今の発言は明らかな拒否、否定の発言だった。この質問を続けると怒りを買う恐れが高い。


 納得が出来ずに目つきが鋭くなり、今にも食って掛かりそうな主将の様子から止めなければマズイと声を掛けようとするが、またしても別の声に遮られる。


「メギ―」


「シマ。一旦落ち着こう?」


 思わず、苦々しい表情で遮った声の発言元をみてしまう。そこに同じく4年のクロダ先輩がこの場にそぐわぬ穏やかな表情を主将に向けていた。


「答えてくれないことより、他にも聞かなくちゃいけないことはいっぱいあると思うよ?それにケンさんなら大丈夫だよ。何だかんだ一番逞しい精神力の持ち主なんだから」


 一旦クロダに向き直ったメギジマは数秒無言で見つめていたが、軽く手を上げ自分の負であることを示す。その様子を見て周りの部員もホッと息をつく。


「もうよいか?どうせだから次はそなた達を視せてもらおう」


 そう言い、女神さまは二人に向け手をかざす。そういえばさっきもケンドウ先輩にも同じように手をかざしていたけど・・・・・あの時は確か、


―貴方はまるで何色にもなる白のような人格なのですね?流石にこれは初めて見ました―


 人格、初めてみた?・・・・まさか!?


 「ふぅん?先ほどの道化とそなた達は同期?という関係なのか?余り理解できない関係よな。うん?そなたが頭だったの?」


 女神は不可解なものを見るような目で二人を眺めている。その視線と発言を向けられていた二人は何を言われているのかわからず、困惑している。その様子に気が付いた女神は

呆れた表情になる。


「なに?そなた達まだ分からいのか?さっきの道化はすぐに察していたのに鈍いな」


 明らかに見下していることが伝わるその声にメギジマの眼に剣吞な光が差し込むのを見て取り、女神は皮肉気な笑みをたたえる。それはまるで新しいおもちゃを見つけた子供のような笑みだった。その笑顔を見てニシは何故か不吉な予感をおぼえていた。


「あの道化の観察していた性格とほとんど同じだな。やっぱりあれは面白い。それにそなた達の関係も面白い。まったく違う道のりを歩む二人、けどその本質は限りなく近い。そんな突き抜けた二人の間に入る凡人。しかも、凡人と親しい関係の頭は離れた場所で戦ってしまっている」


 満足そうに手を降ろすと、二人の目の前に黒の紙が現れる。それぞれ自分の前にある紙に手を伸ばし、浮いていた紙を掴み取り、紙に目を落とす。しばらく紙を眺めた後、その紙を女神に向けて突き出す。


「なんですかこの紙に書いてある内容は?意味がわからない、説明してくれるんですよね」


 明らかに怒りを含んだ声で静かに問いただす。その様子から、あの紙には何か書かれていたことに気が付く。ならケンドウ先輩が手にした白い紙にも何か書かれていたのか?


「ああ。そうか、まだ説明しておらなかったな、その試練のことを」


 試練?あの紙には試練の内容が書かれている?けど試練っていったい、これから行く異世界ってやつと関係があるんだろうけど。ダメだ、情報が少なすぎる。今は女神さまの説明に集中して聞いて、少しでも情報を集めるんだ。 


 女神の説明を待つが何故か口を開こうとせずに後ろを向いてしまう。まさか説明をしないつもりかと疑心の眼で見ていると、女神がおもむろに手を振り払うとそこにはテーブルと椅子が現れた。先ほどから物が現れたり、人が消えたりと見ているので流石にもう驚きはしなかったが、突然現れた荘厳な品格の漂う丸形のテーブルの上に無造作に載っているいくつかの本に目が釘付けになる。ちょうど積まれている山が崩れこちらからも表紙が見える本には、カラーで描かれたキャラクターと‘‘異世界で魔術チート持ちになりました‘‘と書かれた題名が見てと取れた。


 あれってもしかして、


「ラノベ?」


思わずと、いった感じに部員の一人が口に出す。そうだ、あまりそういった物に詳しくない自分でも知っているようなメジャーな作品だったはずだ。いやけどなんで神様がライトノベルを?


 そこに置いてある本が自分たちの世界の、ありていに言ってオタク御用達の書物である事実に今までとは違う系統の混乱により、全員が口を開けずにいる。そんな中、女神は周りの困惑に構わずに机に置いてあるラノベを手に取り、自分たちを呼び寄せた理由を語りだす。


「初めに言っておくけが神という種族は基本的に生き飽きている。それはそうだろ?もう自分たちでもどれ程の時を過ごしているのか定かではないのだから、退屈過ぎて死にたくもなるわ。余もそう、つい最近まで退屈過ぎていっそ消えてしまおうかと考えていた」


 女神の語る内容に、悠久の時を生きることとはそういうものなのかと、ニシは考える。確かに物語の中ではよく聞く話だと思うが、それは結局は限られた時間しか持たない人間が想像した考え方だ。初めから時間の枷に囚われていない存在が何を考えるのかなど想像の埒外だ。


「そんな時に知り合いの女神が人間達が創造した書物を持ってきた・・・少し気持ち悪いくらいの勢いで読むように勧めてきたなアヤツ。最初は正直、興味は無かったよ。それはそうだろう、私達は人間達が描くような英雄譚を実際に見ていたこともあるのだから、それをわざわざこんな低次元の媒体で見ることに何の意味があるのかと思ったさ」


 話の内容に複数の反応が上がる。英雄譚を実際に見た。女神はそう言った。つまり物語のような出来事がここではないどこかで本当にあったということだ。その事実に、興奮を、ある者は歓喜をある者は危機感を浮かべて話を聞く。


「正直驚いた。そなたら人間は一つの世界しか認識出来ないはずなのに、まるで見てきたみたいに異なる世界で起きた実際の出来事を描いていた。本当に驚いた、そなた達は異なる次元も認識できないのに、想像という眼で遥か遠い世界を見ていたのだから」


 信じられない。そう思ったのは恐らくはここにいる全員。今の話を信じるのならば、異世界の話を書いていた作者たちは、その世界で起きた実際に在った話を書いていたと言うのだ。そんな偶然があり得るのか?


「云ったい何光年ぶりかの興奮を得ることが出来た。それからはこの世界の書物を貪るように読んだ。それはもう寝食を忘れるほどに」


 寝食を忘れ、ラノベに没頭する姿を浮かべ首を横に振る。それはもうただのヒキニートではないだろうか?そんな言葉が頭をよぎったので急いで頭を振り打ち消す。


「残念だが、全てが全て素晴らしいわけではなかった。まあそれは仕方がないこと、駄作があるからこそ良作に出会った時の喜びが増すというものであるし、駄作にも価値があると思うしの」


 そんなものだろうか?正直自分は偶にしか読まないし、いい作品にだけで会いたいと思っている。しかし、女神さまの意見に同意するものもいるらしく、ナグモ先輩などしきりに頷いて、まるで同志を見るかの様な眼を向けている。


「しかし、その中に的外れな内容のジャンルがある。それはこの異世界召喚物、特にチート能力を得て無双するものなど、余から見ても荒唐無稽もいいところだぞ?そもそもなんの能力も経験も積まぬ者が異世界などに行ったら死ぬ。例え力を手にしても、それを扱うには行使する強靭な精神に戦闘経験、扱うための厳しい訓練が必要だが、ただのオタクやニートやサラリーマンにそれが出来ると思うか?そなたらのような闘技者になら理解できるのではないか?」


 思わぬ女神の問いに顔を見合わせる。ニシは異世界召喚などを題材にした本は、ほとんど読んだことはないが、女神さまの言っていた事を少しは理解できた。自分がこの部に入部したとき先輩の一人と軽い組手を行ったが、その組手中に自分は一発も当てる事が出来なかった。単純な身体能力にほとんど差は無かった。それどころか相手はまったく本気を出しておらず、その場から動きもせずに完封された。当時の自分の技能では例え身体能力が大きく上回っていても結果は同じだっただろう。戦闘は単純に強い力があるだけで勝てるほど甘くはないと確かに思う。


 周りの様子に目をやると、否定的な意見も出ているが、レギュラー陣はおおよそ肯定的な意見寄りのようだ。


「そなた達を呼んだのは余が望む物語を紡ぐ為、当然そなた達には拒否権など無い」


「「ふざける―――!?」」


 相手の怒りに触れるとか、その時の危険など考えもせずに怒りを吐き出そうとするが、突然声が出せなくなり言い切ることが出来なくかった。気が付けば声が出せないだけでなく体も動かく事が出来ない。顔も動かせない為、見える範囲の人達の様子を見て見ると、どうやら自分と同じように動けなくなっているらしい。


「言ったであろう?そなた達には拒否する権利などない。当然それを口にする権利すらな」


 底冷えするような威圧感のある声が聞こえるが、先ほどまでのようにその声に恐怖することを拒否し、怒りを燃やす。


「さて、後の説明は残りのもの達を視てからにするとしよう。次は先ほどの二人の次に位が高い者にするか。どれ?」


 何をしているのか?決まっているだろう先ほどメギジマ主将達にしていたことをしているのだ。その時の言動から恐らくあの女神は人の記憶を視ることが出来るのであろう。もしくはその人間の本質か?だけどいったい何のためにそんな事をしているんだ?自分の描く物語を創りたい、その為に俺達が呼ばれた。ならここに呼ばれた時点で登場人物としての条件は満たしているのではないのか?そうでなければこうして呼ぶ理由はない。その上でわざわざ人の中身を視て来る理由はなんだ?

 ・・・・・紙?あの紙はなんだ?なにか関係があるんじゃないか。


「正解 ♪」


 え? 気が付けば女神が目の前に立っていた。思考に没頭していて接近に気が付かなかったのだ。


「そなたの考えで合っておるよ。はなまるをくれてやろう」


 人の心まで読めるのか!?


「後は最も下の階級のそなたら3人だけだな。上の者達はなかなか面白かった、そなた達のも期待しておるぞ」


 これまでのように女神は1年部員達に対し手をかざす、するとかざしている腕が震えだし、肩が、体がプルプルと震える。


「アハ、アハハハハ!何?何なのかしらこの子達は!?最初の子達の関係も見ものだったけど、こっちもずいぶんと・・・・・・アッハ!ダメ堪え切れない」


 女神は顔を伏せ、笑い続ける。しばらく笑い続け満足したのか一息つくと顔を上げ腕を振るう。そうするとニシの前に白い紙が現れる。


「白い紙は点数が高いけど達成するのは難しい、それこそ神の加護でもなければ叶わぬ程に。しかし、そなたがそなたとして生きるために必要な在り方を示した啓示、それが白の紙片」


女神が両の手を天に向けると、碧い輝きが空間に広がりだす。碧い光はどんどんその輝きを増していき、視界を蒼で埋め尽くす。すると体がどんどんなくなる感覚が広がっていく。何故かはわからないが、これが世界を渡っていく感覚なのだと分かった。


― 楽しませておくれ? 生き足掻いておくれ? 新たな物語の英雄の姿を視せておくれ ―


薄れゆく感覚の中で最後にニシはそう聞いた。


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