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僕の歌  作者: 花散里*
1.
8/19

#7

「やめて!小僧!」


突然姉貴が部屋に戻ってきていた。すぐに便箋をひったくられ、俺の目はその先の床を映す。俺はただ何の感情も湧いてこないまま顔をあげる。涙はもう乾ききっていた。


「や、やっぱり、返してくれない?この手紙。またいずれ渡すから……」


わからない。何も。けれど俺は、本当はわかっているはずなんだろう。


「なぁ姉貴。俺は……俺は何をしたんだ?」


忘れているだけだ。覚えていないだけだ。記憶にないだけだ。そんなの、いつものことじゃないか。


「小僧、本当に何でもないの。今はほら、ゆっくり休んでなさい。そうしたら何だってすぐに治るんだから」


「眠ったら……治るのか?」


「そうよ。睡眠は万能薬なんだから」


「じゃあもうとっくの昔に治っているはずだろう?俺は毎日ベッドに入って目を閉じて夢を見る。何度も、何度もそれを繰り返してきた!それでも、俺は」


「もうやめてよ!そんなこと考えなくていいの!あなたは何も知らないままでいいの、このまま、ずっと……」


苦しかった。姉貴が何かを隠しているのは間違いなくて、しかもそれが姉貴の重荷になっている。そう思っただけで胸が痛い。


「見せてくれよ」


自分でも驚くほど低い声が出てしまった。まるでだれかに操られたかのようで、焦って弁解しようと思ったがもうすでに遅かった。姉貴の目は大きく見開かれた後、みるみる潤んで青く光った。


「ごめん」


そう言って姉貴は手紙を返してくれた。受け取ろうとするとまだ少しだけ握りしめられていて、姉貴の手から簡単には離れてくれなかった。


俺と姉貴は並んでベッドに腰かけた。姉貴は一言も喋らず、ただ涙を拭っていた。やっぱり、涙は女の方が似合う。なんて、口に出すわけにはいかない。

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