#7
「やめて!小僧!」
突然姉貴が部屋に戻ってきていた。すぐに便箋をひったくられ、俺の目はその先の床を映す。俺はただ何の感情も湧いてこないまま顔をあげる。涙はもう乾ききっていた。
「や、やっぱり、返してくれない?この手紙。またいずれ渡すから……」
わからない。何も。けれど俺は、本当はわかっているはずなんだろう。
「なぁ姉貴。俺は……俺は何をしたんだ?」
忘れているだけだ。覚えていないだけだ。記憶にないだけだ。そんなの、いつものことじゃないか。
「小僧、本当に何でもないの。今はほら、ゆっくり休んでなさい。そうしたら何だってすぐに治るんだから」
「眠ったら……治るのか?」
「そうよ。睡眠は万能薬なんだから」
「じゃあもうとっくの昔に治っているはずだろう?俺は毎日ベッドに入って目を閉じて夢を見る。何度も、何度もそれを繰り返してきた!それでも、俺は」
「もうやめてよ!そんなこと考えなくていいの!あなたは何も知らないままでいいの、このまま、ずっと……」
苦しかった。姉貴が何かを隠しているのは間違いなくて、しかもそれが姉貴の重荷になっている。そう思っただけで胸が痛い。
「見せてくれよ」
自分でも驚くほど低い声が出てしまった。まるでだれかに操られたかのようで、焦って弁解しようと思ったがもうすでに遅かった。姉貴の目は大きく見開かれた後、みるみる潤んで青く光った。
「ごめん」
そう言って姉貴は手紙を返してくれた。受け取ろうとするとまだ少しだけ握りしめられていて、姉貴の手から簡単には離れてくれなかった。
俺と姉貴は並んでベッドに腰かけた。姉貴は一言も喋らず、ただ涙を拭っていた。やっぱり、涙は女の方が似合う。なんて、口に出すわけにはいかない。