#4
ここにいるのは俺のバンドのメンバー達だ。
姉貴は楽器をやるわけではないがスケジュールをはじめとする諸々の管理を一任している。
「いやー、さすがっす!こんないいやつ見つけてくるなんて!」
「いやー、さすがっす!どこで見つけてきたんすか?」
「こいつぁーな、俺がよく行く店で一人で飲んでたんだよ。もう死人みたいな雰囲気だったな。そしたらよぉ、ヘッドフォン取り出して爆音で音楽聴きだしたんだよ、もうだだ漏れ!」
「耳悪くするわよー、それ。」
「そっすよねー!危ないっすよねぇ」
「そっすよねー!気をつけた方がいいっすよ?」
大男は数年前に地方から出てきたらしい。見かけや喋り方があの調子で周りに威圧感を与える存在だが、いたって普通の青年だ。それから、先ほどからキンキンと高い声で相槌を打っているのは双子の兄弟。それも、二卵性の。
「もう嫌でも聞こえてくんだよ。そんなに夢中で何聞いてんのかと思ったら……クォーターパイレーツでやんの!」
「えぇ!ドラムさんの好きなあのバンドっすか!」
「えぇ!あんなマイナーなバンドなのによく知ってますね!」
俺たちは皆あだ名で呼び合うのが基本だ。大男の担当はドラム…呼ぶときは前にアクセントをつけてドラム、だ。双子の片方はキーボードつまり鍵盤担当でケン、もう片方はギター、ゲンと呼ばれているがおそらく弦に由来するものだろう。
「だろ?運命感じちまったよ!それですぐに声かけたってわけ」
「でも……なんでそんなに上手なのにバンドに入っていなかったのよ?」
「それがよぉ、バンドには入ってたらしいんだ。でも追い出されたんだとよ。ほらあの、
言ったら音楽性の違いとかじゃん?」
「そんな安っぽい理由じゃない」
しばらく黙っていた本人が口を出した。低く抑揚のない声だった。そういえば、こいつの声を聞いたのはこれが初めてだ。
「いや、よくある話だぜ?俺はもっとメッセージのある音楽を作りたいんだ!お前らと一緒にすんな!とか言って逃げてく奴とかよぉ」
「おいドラムやめろって」
慌てて俺も口を挟む。なんとなく、そういうことは触れてはいけない話題のような気がして。
「そ、それはそうと、彼はこのバンドに加入ってことで良いの?」
「あったりめぇだろ?なぁ?小僧」
ドラムも姉貴のがうつって俺のことを小僧と呼ぶ。別に構わないのだが、彼にいたっては俺と同い年だ。小僧と呼ばれる筋合いはまるでない。
「あぁ。でも俺が決めるんじゃなくて本人の意思もあるだろ?」
「そんなこたぁ気にすんな。だってこいつ入りたいって自分から言い出したんだぜ?」
「そう、なのか?」
「……まぁそんなとこ」
初対面なんだから、少しくらい愛想よくしてくれてもいいのに。と、どうしても思ってしまう。
「それにしても、小僧が気に入るなんて珍しいこともあるのね。いつもならせっかく来てくれてもこんな平凡な音は嫌だ!とかいちゃもんつけて追い返しちゃうのに」
「そんなこと言ってないだろ」
「顔に書いてあったら一緒よ?」
くすくすと面白そうに姉貴は笑う。事実、そう思っていた。前のベースが辞めてから新たなメンバーを探したがどうもしっくりこなかった。
「じゃあ今日からお前はメンバーな。よろしく頼むぜ」
「……」
彼は何も答えずベースのケースのファスナーを閉めて肩に担いだ。そしてそのままドアの方へ歩み始めた。首元にかけていたヘッドフォンに手をかけようとしているのを見て俺は慌てて口を開いた。あのヘッドフォンからはまたクォーターパイレーツとやらが鳴り響くのだろうか。