#3
ドアを開けると眩い光が目にしみた。
「おぅ、やっと来たな。さっそくで悪いんだ
けどさ、見てもらいたいもんがあんだよ」
体格のいい大男の後ろに隠れてよく見えないが他にも人影が忙しなく動いている。同時に室内の電気が全て消えた。
「えっ、ちょっと何よ」
姉貴は身をかたくして構えた。俺も度重なる思いもよらない出来事を、この場に自分がいるということすら忘れてまるでスクリーンでも見ているかのようにただ追いかけることしかできない。しばらく暗闇のままガタガタと物体が動かされる音が続いたがそれも止まった。すると今度は目の前__部屋の奥の方の照明だけがついた。
立っているのは見知らぬ男だった。構えているのはベースだ。男の指が弦にかかる。紡がれていくメロディーに聴き覚えはあった。俺らの曲……?しばらく俺は放心したまま体をベースの重低音に預ける。
……こいつ、上手いな。
微妙な音の揺れで心地よく酔わせてくれる。
今まで出会ったどのベーシストとも異なり、なんというか、音に色気がある。
隣で大男が満足気に口元を上げたのが見なくてもわかった。
「なぁ、あいつって」
俺はベースを見つめながら声を絞り出した。すると待ってましたとでも言うように喋り出す。
「いいだろ?あいつ。あいつな、前のバンドで」
「惚れた」
「は?」
笑顔の大男の方に向き直って告げる。
「あいつが欲しい」
みるみるうちに、前方からかすかに届く光に照らされた大男の表情筋が限界まで彼の口角を持ち上げた。
「じゃあ、決まりね」
姉貴が口を挟んでくる。いつも通りの落ち着いた声だが嬉々とした響きも含んでいるようで少しだけ女らしいと思った。
「おーい、もう止めていいぞー」
大男はその見た目通りの野太い声で呼びかける。滞りなく流れていた音楽が余韻を残しつつ止まっていった。
下を向いていた彼は気だるそうに頭を持ち上げた。一瞬だけ、視線と視線が空中でぶつかる。光を受けている彼から暗いこちらの様子は見づらいのかすぐに探るように視線が泳いだ。
「あのー…電気つけていいっすかー?」
「いいっすかー?」
「おぅつけてくれ」
パチパチッ……とスイッチを押す音が聞こえると眩しいほど一斉に明るくなり、瞳孔がぎゅっと閉じる。
俺はまだ夢でも見ているようだった。
「彼、いいわね」
「あぁ。」