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僕の歌  作者: 花散里*
3.
17/19

#16

カーテンの隙間から漏れた光が、ちょうど眩しくて目が覚めた。

もう、朝だ。

どんな夢を見ていたんだっけ。思い出そうとしても思い出せたためしはない。



出来上がった。

こんなに短時間で作り終わったことはなかった気がする。早くあいつらに見せに行こう。散らかっていた紙切れをかばんに詰め込んで、ついでに例の手紙もしまった。

まだ何となく現実味に欠けていて深刻に考えられずにいるけれど、きっとそういうところも含めて俺なんだと思う。




姉貴のバーの前に立つと話し声が聞こえた。先客か……?

なんとなく入る気が起きず、ドアの前に立っているとおばさんが出てきた。


「あら。今日はお客さんが多いのねぇ。本当は営業時間に来てほしいわ。さ、入って入って。寒いでしょう」


「誰が来てるんですか?」


「さぁ、私も初めて見る子だったね。若くて目がぱっちりしたお兄さん。ほら、最近流行ってるあの俳優の子、何て名前だったかしら、その子にとってもよく似てるの!おばさんちょっとときめいちゃったわ。いやねぇ、こんな年にもなって何を言ってるのかしら私ったら!ほら、入っちゃって」


あぁ、ベースか。

何か用でもあったのか?姉貴が店に通すのはほんの限られた何人かなのに。

おばさんがドアを開けてくれる。暖房のきいた部屋の空気が流れ出てくる。

その暖気に乗ってベースの声が耳に入ってきた。


「それでも俺はあいつを許すわけにはいかないんだよ!」



瞼を閉じた。

二枚の紙に綴られた文字と、初めて見た記憶を、脳裏に描いた。

俺はたしかに俺だけど、もう逃げたくない。


「姉貴!」


二人が反射的に振り返ってドアの前に立つ俺のことをわけが分からない、といったような目で見る。


「こ……ぞう?どうして、家にいるんじゃなかったの」


「出来たからさ、早く見せに行こうと思って。その前に姉貴んとこ寄ろうと思ってきたんだけどベースもいるならちょうどいい、か」


「出来たって、いくらなんでも早すぎない?……体調は?」


なんだか姉貴は泣きそうな顔をしている。やめてくれよ。そんな顔、もう見たくない。


「一晩寝たら、治ったよ」


姉貴は一瞬驚いたように目を見開いてそれ


から、ふふふ、と笑った。


「小僧らしいわ」

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