#15
それから随分と三人の季節は巡った。
ある時私は彼女の誕生日に絵をプレゼントしたいから付き合ってくれと彼から頼まれたの。
まず初めに、下絵をさらさらと迷うことなく描いていった。描いているのは彼女の横顔だった。伏目がちな瞳に長く上向きに整えられた睫毛。小さく形のいい鼻に綺麗な輪郭のライン。
彼は、それらを鮮やかな青で塗り始めた。
不思議だった。青く塗られていく彼女が。
そして苦しかった。
それを愛しそうに見つめる彼を見ているのが。
彼女が死んだ。
そう言って彼が私の家にやってきたのは、絵も完成間近といった頃だった。
その次の日、彼女から電話がかかってきたの。
信じられなかったわ。死んだっていうのは嘘だったの?私は色々なことを畳み掛けて聞いた。
電話の向こうで彼女は泣いていた。その隙間から、彼女はことの全てを話し始めた。
怖くて耐えられなかった、と彼女は言ったわ。
他人の目が怖い。
彼がどう思っているのか分からなくて怖い。
だから、死にたいと思った。
彼に殺してもらいたいと思った。
「それだけ?」
思わず私は聞いてしまった。
それだけのことで、彼はああなってしまったのか。
私はただ茫然としていたわ。
こんなことをしてしまった以上、彼にはもう会わない。ごめんなさいと伝えてほしい。そう言って彼女は電話を切った。
彼女は何も分かっていなかった。分かったふりを続けていただけだった。
私は勝手に彼女は私と同じなのだと思っていた。しかも彼女は彼に想われている。羨ましくて仕方がなかった。
それなのに、こんな仕打ち、彼が不憫すぎる。
たまらなくなって私は未完成の絵を彼に内緒で持ち出して彼女に会いに行ったの。
彼が渡さなきゃ意味がないって分かってはいたんだけど、彼もあんな調子だし。私がなんとかしなきゃって気がついたら走っていたわ。
そうしたらそこに彼女の姿はなかった。みんな、私を置いて変わってしまったの。
ここから先はあなたの方がよくわかっているわよね。
間もなくして大学も卒業してあなたのお姉さんとはそれきり会っていないわ。多分だけど彼も会ってないんじゃないかしらね?
私が話せるのはここまで。少しは役に立ったかしら?