#9
耳が痛い。
もう何十回も聞き流している音楽は、当たり前だが今更新しい発見があるわけでもなく今日も退屈な音を刻んでいる。
俺もあの人が倒れるなんて予想していなかったし、あれからあの人とは会っていない。たまにあのスタジオに顔は出しているが、一向にあの人が現れる様子はない。
いなくてもいいのか?その程度の人なのか?なぜ誰も気にしていないんだ?
「おぅ、ベース!今日は来てるんだな!」
「ベースおはよう!」
「ベースおはよう!」
やめろ。ベースはただの楽器の名前だ。俺には俺の……
「ベースよぉ。お前もうちょっと俺らと仲良くしようって気にはならねぇのか?せっかく運命的な出会いをしたんだからよ、仲良くしようぜ!」
運命的?なんだよそれ。本気で思ってるのか?
「ケン!勝手に人の携帯見るなよ!」
「ゲンだって!勝手に腕時計とかしてっちゃうじゃないかよ!」
「関係ない!」
「関係ある!」
「うるせぇなぁ!どうせ面白いもん入ってねぇんだから返してやれって!女もいねぇ野郎の携帯なんて見て何が面白い!」
お前も相当うるさいけどな。
……心の中だけで毒づく。この人達には呆れることばかりだ。
「ちょっといい?ベースくん」
振り向けばあの女が立っていた。今日は短い髪を無理矢理一つに束ねている。
「……何ですか」
「今から時間ある?あー、バンドなら気にしないで。あいつら勝手に好きなことやってるから。家で少し、話さない?ほら、急だったから色々わからないこともあるでしょう?」
この人の実家はバーだ。もちろん知っている。場所も知っている。行ったことはない。
この人はあの人の何なんだろう。
「……はい」