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不運の事故で死んだら、俺は異世界に転送されてしまった!?――後の話

作者: 暇太郎

 俺は普通の高校生――小田守(こだまもる)

 不幸なことに登校中、向こうからやってきたトラックに轢かれてしまった。そして、異世界に転送されることになる。

 西洋を思わせるような風景。巨大な蜥蜴(トカゲ)が馬車を引き、耳の尖ったエルフが町を歩く――異世界であった。しかし、何の説明もなく放り出されたその世界に俺は放心していた。そこに現れた阿呆な仲間の第一号がリリーである。

『よう。お前、えっちな店とか興味ない?』

 今でも覚えている。リリーは元々、キュイリーという町で奴隷として売られていたが、脱走してきたのだと言う。それで、この町に転がり込み、小さな風俗のキャッチとして働いていた。だが、その風俗――日本で言う暴力団が頻繁に出入りしており、店長が良心で拾い、居候させているリリーをヨロシク思っていなかった。

 その日、リリーが俺を店の中に招き、茶のようなものを御馳走してくれているときだった。運悪く、暴力団の一人が店に来て、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。

『おめえ、なんで勝手にお友達招いてんだ。淫売の奴隷風情がぁ!』

 俺は殴りかかってきた男とリリーの間に立って、思い切り拳を男の頬に打ち込んでやった。喧嘩に自信があったわけではないが、守らなくちゃと思った。正直、足が竦む程怖かった。だが、そんな俺の恐れは一瞬でなくなった。男は在り得ない程に吹っ飛んだ――なんて言ったって壁にめり込んだのである。

 拳からは煙が出て、口からはほええ、という間抜けな声が出た。

 俺は完全に暴力団を敵に回してしまった。しかし、俺は自分の力に自信を持ち、暴力団に自分から乗り込んだのである。遂には暴力団のボスを倒し、捕らわれていたコノハを助けた。

 青い長い髪に大きな瞳は俺の心を一瞬で魅了した。一目惚れだった。

『有難うございます! あなたは私の王子さまです』

 その夜、町を悩ませていた暴力団を一人で倒したということで、報酬と極上の宿が与えられた。俺は成り行きに任せ、その日を楽しんだ。宴が終わり、もう寝ようかと自分の部屋に居ると、リリーがやってきて、告られた。

『なんか、お前のこと考えると、胸が痛んだよな。お前の奴隷にならなってもいい、かもな』

 俺は返事を濁し、その場を切り抜けた。理由は単純で、コノハのことが好きだったからだ。

 俺の噂は一瞬にして町に広がり、様々な依頼が舞い込むようになった。

 異世界というのは物騒な世界で、町を防衛している壁の外には魔物がうじゃうじゃと居る。だが、希少な資源や料理の材料なども多数、町の外にあり、それを取りに行くのが『依頼』だった。

 ギルドから選ばれた落ちこぼれたち『アリド』『カイル』と俺、リリー、コノハがパーティーを組み、その依頼の数々を次々とこなしていった。

 カイルの裏切り――隣の町の壊滅から俺たちへの不信感――途中で出会ったミアンという謎の少女――そして、コノハの死。

『王子さま。王子さま。聞こえておりますか。私の鼓膜は破け、もう王子さまの声は聞こえません。目玉は潰れ、王子さまを見ることもできません。でも、私はあなたを好きという気持ちは破けも潰れもしません。好きです、愛しております。王子さま』

 コノハが死んでから、俺はもう依頼を受ける気力が失せ、もう生きる意味を失っていた。

『馬鹿! お前が居ないと、駄目なんだ! あのパーティーは! そして、何より――私が』

 その言葉に目が覚めた。俺はリリーの言葉にいつも勇気づけられいたことに気づいた。

 俺はリリーと結婚し、そして――。


 昨日の夜、リリーは死んだ。アリドもミアンは十年前に死んだ。俺も九十歳を超え、もうあの頃のように体を動かすことはできない。

 この年になって、この異世界に転送されたことは幸せだったのか、ということをいつも考えている。この世界に来なければ、こんな悲しい思いはしなくて良かったはずだ。

「リリー」

 俺は天に向かって呟く。自分の皺だらけの腕が天井に伸びた。それは無意識の行動だった。もっと冒険したかった。もっとリリーと話したかった。

 このまま死ねば、また他の異世界に転送されるのだろうか。また生まれ変わった皆と会い、冒険できるだろうか。皆、待っていてくれるかな。


 ――二十年前。

「ええ。はい。大丈夫です。はい。注入しました」

 ミアンはある人物に電話を掛けていた。

「はい。大丈夫です。守に『不死剤』を打ち込みました。はい。本人は気づいていません。はい。守が老衰し切ったところで遺伝子を切り取り、世界に拡散させる。はい。そうすれば、我々の勝利です。そもそも、あちらから吹っ掛けてきたことですからね。死ねないというのは相当苦しいでしょう。世界の終焉を目の当たりにし、自分は何もできないんですから」

 もう、その頃には私も死んでいるでしょうけどね――とミアンは言葉を続けて、電話を切った。

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