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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不美子

作者: 八木ひつじ

少しばかり昔の話です。とある村に一人の少女が住んでいました。彼女は百子という名前で村長の一人娘でした。百子は幼い頃から容姿端麗頭脳明晰で通っており道を歩けば振り向かない男はいない程でした。

しかし百子は村長の可愛い一人娘です。村長は百子に恋愛を禁じ、少しでも百子に近づく男がいれば容赦なく村を追放しました。

そんなある日のことでした。隣の村から一人の青年が豚肉を売りに村にやって来ました。

青年の姿はみすぼらしく顔も不細工で美しさと最もかけ離れた容貌をしていました。

村人たちはその青年の姿を馬鹿にして嘲り笑いました。村の子供たちは青年に石を投げつけました。

そんなわけで豚肉は売れるはずもなく青年はただ失望して河原に座り込み、流水を眺めていました。

するとそこへ偶然百子が通りかかりました。青年の悲しそうな背中を見た百子は可哀想な青年に声をかけました。

「そこで、何をしているのですか?」

青年は答えました。

「悲しんでいるのです」

「なぜあなたは悲しいのですか?」

「わたしが醜いからです」

しかし百子には青年が醜いようには見えませんでした。父親以外の男を知らない百子は美というものを知らなかったのです。

「あなたはちっとも醜くなんてありませんわ」

「嘘をつかないでください。わたしもあなたのように美しく生まれたかった」

「あら、わたしは嘘なんてつきませんわ」

「ならばあなたはわたしにキスができますか?」

ぶっきらぼうに言い放つ青年に百子は言いました。

「もちろん。キスくらいできます」

毎日父親とキスをしている百子にとってキスは挨拶のようなものでしかありませんでした。

二人は川のほとりでキスを交わしました。青年にとってそれは初めてのキスでした。

それからというもの、二人は度々河原で会うことになりました。美貌のあまり孤独な百子は醜貌のあまり孤独な青年に強い親近感を覚えました。

やがて百子は身ごもりました。

そのことを知った村長は烈火の如く怒りました。相手を知らない村長は百子に激しく問いただしましたが百子は父の怒る姿を見て初めて己の罪と恥を知り、隣の村の青年のことは決して口にしませんでした。

怒りの収まらない村長は村中の男を皆殺しにしてしまいました。

しかし、男を殺したとして後の祭り。百子の腹はみるみる大きくなっていきました。

とうとう出産が始まりました。それは酷く難産となりました。百子は三日三晩もがき苦しみ、ようやく元気な女の子を産みました。

しかし、それは悲劇的な出産となってしまいました。

三日三晩の大難産のため百子は力尽きて死んでしまったのです。

村長の深い悲しみの中生まれた赤子は醜い顔立ちをしていました。村長は赤子に不美子と名をつけました。

不美子は生まれながらにして罪と恥を知っていました。

村長は不美子に毎日毎日言いました。

「不美子、お前は親を殺した。鬼だ。悪魔だ。醜いけだものめ。お前なんか生まれてこなければよかったのに」

醜い顔を持つ不美子は村長の暴力により体までをも醜くしていきました。

男がいなくなった村は衰退を防ぐため隣の村と統合することになりました。

ある日のことです。いつものように村長に罵られた後不美子は風呂焚きのための薪割りをしていました。するとそこへ一人の醜い男が近づいてきました。男は醜く顔を歪めて笑っていました。

「お前はわたしの娘だ。今まで苦労をかけてすまなかった。わたしが、お父さんなんだよ。さあ、可愛い娘よ、共に行こう」

男は醜い顔を醜く歪めて笑いながら醜い顔を醜く歪めて涙をこぼしていました。

不美子は知っていました、醜いことは死に値する罪であり恥であるということを。

不美子は持っていた斧を振りかぶり醜い男の脳天を叩き割りました。醜い男は醜く倒れ醜く血だまりをつくりました。

不美子は何事もなかったかのように薪割りを再開しました。

やがて薪割りを終えた不美子は燃え盛る風呂釜に己の首を入れました。

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