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アルの瞳

「あれ?アル、髪をまとめたのね?」

 アルのもじゃもじゃの髪が、綺麗に後ろでまとめられていた。

 それに、髭も昨日よりは切りそろえられていて、もじゃもじゃ感が減ってる。

「えっと、その、山賊みたいでは、お客さんを驚かしてしまうかと……」

 ふおっ。

 もしかして、私がうっかり山賊って言っちゃったの気にしてた?

「前髪も留めるともっといいかも」

 メイシーに結い上げてもらった髪から、1本ピンを引き抜き、アルの前髪をかきあげた。

「あっ……」

 目元がイケメンだ。大きくて彫の深い。眉は整えたみたいにシュッとしてるし。まつげも長い。

 それに、瞳の色が……。

「綺麗な青。アルの瞳、空みたいな色ね」

 アルの手が、前髪をかきあげてる私の手に添えられた。

「空みたい……ですか。同じことを言うのですね」

 同じこと?誰かにも言われたことがあるのかな?

「リリィーの瞳は新緑みたいですね」

「ふふっ、ありがとう!エメラルドみたいって言われるよりずっと嬉しい!」

 アルの前髪をピンで留める。

「コッチの方が好き」

「えっ?す、好き?」

「せっかくの綺麗な目だもん。見えてた方が絶対いいよ。あ、でも、もし人見知りとかで前髪で目元を隠してないと落ち着かないっていうのなら、無理にとは言わないけど……」

 そういう小説の主人公がいたんだよね。

 なんか幼少時に容姿のことで傷ついて顔を隠すようになった少女の話。

 実は、少女を好きな男の子が照れ隠しに顔が気持ち悪いとか言っただけと分かって、ハッピーエンドになる話だったけど。

「そうですね、あまり人前で顔を出すのは……でも、リリィが好きだと言ってくれるなら、2人でいるときはこうしてます」

 そっか。人前で顔出すのはやっぱり苦手なんだ。

「さぁ、一刻も早くお店の開店準備を進めましょう!」

 1階に降りて、店舗部分に足を踏み入れると、昨日の埃っぽさはもうなかった。

「ありがとう!すっかり掃除してくれたのね!」

 嬉しくてクルクル回りながら店の中を見て回った。

「随分やる気ですね?」

「ふふっ。だって、早く素敵な恋がしたいんだもの!」

「リリィーは今まで、恋をしたことは無いの?」

「そうよ。初恋もまだなの……」

 アルの瞳が微笑みに変わる。

 笑われてる?

 15歳にもなって、来年は成人なのに、恋もまだなんて……。

 だけど、幼いころから婚約者が決められてる貴族にとっては普通だと思うの。だって、婚約者以外の人に恋しても、辛い思いするだけでしょ?

 って言いたいけど、私が公爵令嬢っていうのはアルには内緒だし。

「アルは恋したことあるの?」

 反論もできなくて、つい頬を少し膨らましてしまったのは仕方ないよね?

「ええ、もちろん。好きすぎてどうにかなりそうです」

 熱を帯びたアルの目が、私の目に飛び込んできた。

 アルにこんな目をさせているのが、まるで私なのじゃないかと錯覚をするくらい……。アルの目は、愛おしい人を思って輝いていた。

 ああ、いいなぁ。私もいつか……そんな熱い目ができるような恋がしたい。

 こんな目で、見つめられたい。

「そっか。アルは恋愛面では先輩なんだね。……私が、恋に悩んだら相談にのってね?」

 ニコッと笑うと、アルは嫌そうな表情を浮かべる。

 うえー、何?女性の恋愛相談は受けたくないってことなの?!

 まぁ、確かに、うん、小説にもそんな描写があったなぁ。

 彼氏のことをさんざん愚痴った翌日には、寄り添って歩いているとか。だから、女性の恋愛相談には乗らない方がいいのだ……だったかな?

「さぁ、店の準備を進めましょう。僕は何をすればいいですか?」

「うーん、そうね……代筆屋に必要な物は、紙とインクとペンよね……。うん、そうだ、こっちにいろいろな紙をおきましょう!ラブレターだもん。紙も選べるといいわよね!」

 昔何に使われていたかは分からない。少し背の高い丸テーブルに、色々な紙を展示販売することにした。

 識字率が低いこともあって、紙の流通量は少ないはずだ。紙を扱っている商店も少ないはず。

「そうだ、ラブレターと一緒に小さな贈り物をしたら素敵じゃな?女性には髪留めや、男性にはハンカチとか……そういった物も置くのはどうかしら?」

 ああ、楽しくなってきた。

「お香もいいわね。香り付きのラブレターなんて素敵!ね、アル、そう思わない?」

 アルは、いつの間にか私の横にいた。

「リリィーはどんなラブレターが欲しいんですか?」

 ドキン。

「私……?そうね、うんと情熱的な言葉が欲しいわ。プレゼントは……私を思って選んでくれたものなら何だってかまわないの。ああ、そうだわ。世界に一つだけの手作りの物も素敵。小説にもあったわ!彼女のために、木彫りのペンダントを作って贈った人の話が!」

 確か、慣れない作業で、ナイフで手を切ったりしたのよね。

 現実的に考えると、血のしみ込んだ木彫りのペンダントなんて……ちょっと怨念籠ってそうで怖いかも。

「おっと、こんなことしていられないわね。準備しなくちゃ。店に並べる品は次第に増やしていけばいいとして、最低限必要な紙は早速手配しなくちゃ。アルにお願いできる?ペンとインクは、とりあえず持ってる物を使うわ。店の装飾もした方がいいわよね。テーブルクロスになる布に、手紙を書くテーブルはカウンターの奥の机と椅子があるから、お客様に座ってもらう椅子は……。えっと、それから、看板が必要ね。あと、アルも何か気が付いたら教えてね。とりあえず、私、屋敷に戻って使えそうな物取ってくるね!」

 てなわけで、2人でばたばたと奔走して、店内が一通り形になった。

 看板の文字は暖炉をかき回す棒を熱して焼きごて代わりにして文字を書いた。


『代筆屋 気持ちを文字で伝えます』


 うん。もう、店の名前はストレートに「代筆屋」にした。いろいろ考えたんだけど……。分かりやすいのが一番よね?

「リリィ、値段はどうしますか?契約書を取り交わすときの代筆は、確か金貨1枚が相場だったと記憶してますが」

「それって、高いの?安いの?」

 金貨1枚っていうのは、金貨を1枚分ってことだよね?そこまでは分かる。分かるけど、それがどれほどの価値があるのか分からない。

 銅貨10枚で大銅貨。大銅貨10枚で銀貨。銀貨10枚で金貨。だから、金貨1枚は銅貨の1000倍。

「……安くはないと思う」

 アルが自信なさげに答えた。うん、まぁ一番大きなお金を使うんだから、安くはないよね?

「私は安くしたいの。街の人たちが気軽に手紙を贈りあえるようにしたいの。そうねぇ、パン1つ買うのと同じくらい気軽に代筆を頼んで欲しいんだ。ねぇ、アル、パンっていくらかな?」

 アルから返事はない。

 あれ?アルもパンの値段、知らないの?

 ぐぅ~~~。

 はうっ。

 パンなんて単語を出したからなのか、お腹が鳴った!

 お店の準備に夢中になって、とっくにお昼の時間過ぎてたよっ!いつも侍女が知らせてくれたけど、ここで店をする限り、そうもいかないのね。

「アル、お昼ご飯食べに行こう!」

「え?食べにって、まさか、街に、ですか?」

「そうよ。パンの値段も分かるし、お腹も膨れるし、出会いもあるかもしれないし、一石三鳥だよね!」

 そうよ!せっかく市井で生活するのに、店に籠ってたらダメよね!街に出なくちゃ!

 ふふふっ。小説だと「お嬢ちゃんかわいいねぇ、お兄さんと遊ばない?」って無法者に絡まれて、ヒーローに助けられて恋に落ちたりするんだよね!

 街には出会いがあふれているのよ!

「お嬢さん」

 おっ、早速出会いの予感!

 声のした方に顔を向けると、いかにもガラが悪そう……ではない、普通の青年が一人立っていた。

「ご一緒にお茶でもいかがですか?」

 あら、これは絡まれるパターンじゃなくて、ナンパ?

「リリィー」

 アルの腕が、私の肩を抱いた。

「なんだ、彼氏付きでしたか、これは失礼」

 ナンパ青年は、アルの顔を見ると背を向けて去って行った。

「彼氏?」

 ち、ち、違うの!彼氏じゃないの!護衛よ、護衛!

 待ってぇ~、私の初ナンパァァァ!

 ……。

 アルがいる限り、ナンパで出会うとか、暴漢に襲われているところを助けてもらって出会うとか絶望的じゃない?

 アルの顔を恨めしそうに見る。

 再び前髪は降ろされていて表情は読み取れない。だけどちょっと寂しそうに首をかしげている。

 ……アルは、職務を全うしてるだけだもんね。仕方がない。別の出会いに期待しよう!


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