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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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写本

 昼食の後、また二人で図書室にこもる。

 お互いに交換した本をティータイムの時間まで読む。

 本を抱きしめたまま、お茶とお菓子を口にする。

「最高だった。もう、なんていうの?全国民が泣いた!くらいな名作」

「どちらの本も素晴らしかったですわ。ぜひ、もう一度といわず、何度も繰り返し読みたくなります」

 メイシーの言葉にうなづく。

「エディに王都に持って行ってもよいか尋ねようかな……」

 エディならNOとは言わないだろうと思う。でも、ちょっとずうずうしいかな。まだ結婚してなくて、婚約者なのに……。

 本は、ある意味宝石よりも価値があると私は思っている。だって、写本が存在しなければ、失えばこの物語と二度と会うことができないのだから……。

「私にも貸してくださいっ、あ、あと母にも貸していただいてよろしいですか?」

 そうだよね。私やメイシーが素晴らしいと思った本だもん。きっとほかの人も感動させるはず。もっと、みんなに読んでもらいたい。そして、一緒にこの本の話をしたい。

「メイシー、この本も、こっちの本も、王都に持ち帰ろう!他にも、名作は全部持ち帰ろう!」

「え、ええ、反対はしませんが、エディ様の書斎がすっからかんに……」

 エディのというよりは、タズリー家の人々が代々集めたタズリー家の書斎だ。

「写本しましょう!そうすれば、心置きなく持ち帰れるわ!そして、好きな時に好きなだけ読み返すことができます」

「まぁ!それはいいアイデアですわ!さっそく必要なものを用意いたします!」

 お茶のセットをてきぱきと片づけると、メイシーは部屋を出て行った。

 

 夕餉の前まで、二人で写本して過ごした。

「うわー、もう腕がパンパンだよ。疲れた」

「こんなに文字を書いたのは、学園で書き取り練習をしていた時以来でしょうか……」

 一人で食べるのも寂しいだろうというエディの配慮で、私とメイシーは一緒に食事をとれるように手配してくれていたようだ。私の侍女ではなく、私の友達の子爵令嬢という客人として扱うようにと使用人に命じて行ったらしい。

 エディのやさしさに感謝だ。

「本当に。あれだけ頑張って書き写してたのに、まだ10分の1も書き写せてないなんて……」

「はー。本当ですね。それこそ、学園の書き取り練習の課題は写本にすれば少しは、こういう良い本が普及するのでしょうか……」

 書き取りの練習の課題?

 そうだ、文字を覚えてもらうための歌を書くのに学園で書かせたらどうかとアルが言っていた。

 ……。アルのことを思い出して、また胸の奥が小さく痛む。

 下手な字の文字見本はダメだけれど、下手な字の写本はどうだろう?とりあえず「読める」のであれば大丈夫かな?

 もっと、簡単にたくさん本を書き写せる方法ってないのかな?

 そんな方法があれば、文字の見本になる歌を書いた紙もどんどん配れるのになぁ。

 本当に、何かいい方法はないものか……。


 それから10日。

 毎日メイシーと図書館に通い、本を読んだり写本したりして過ごした。

 そのおかげで……。

「やったわ!メイシー!ほら、1冊書き写せたわ!」

 写本が1冊分やっと完了した。

「私も、午後には完成しそうです」

 長かった。1冊完成させるのに1週間。まぁ、読書したりお茶したりする時間がなければもう少し早くは終わっただろうけれど……。それでも1冊書き写すだけでとても時間がかかる。まだまだ写本して持っていきたい本はたくさんあるけれど……。何冊書き写せるのかなぁ……。

 写本ってこれだけ時間がかかるんだから、よい本を普及させようと思ってもなかなか難しいんだろうなぁ……。

 もっと書き写す作業をする人が増えればいいのかな?

 識字率が上がって、市井の子供達が文字を書けるようになれば、子供たちに写本をさせるというのはどうかな?本は高価な品だ。写本作業に給金を払っても、本を売れば十分儲けが出る。

 子供を教育するところから始めても「写本屋」は儲かる商売なんじゃないのかな?

 代筆屋で店番をしていたときは暇だったけれど、あの時間に写本をして本を売れば十分儲けが確保できたんじゃ?

 識字率も上がるだろうし、商売としても成り立つ?写本屋を視野に入れた子供の教育……。

 ふと思いついたことをメイシーに相談してみる。

「そうですねぇ……売れるだけの写本となると、少なくとも7,8歳、できれば10歳以上の子供にお願いしないと難しいと思います」

 そういわれれば、そうだなぁ。小さな子はまだ不器用で、読める文字は書けるけれど安定した美しい文字を書くのは難しい。

「逆に、10歳にもなれば、できる仕事も増えますからお小遣い稼ぎの写本をするかどうか……」

 確かに。

 10歳ともなれば、市井では立派な働き手だもんなぁ……。

 お屋敷でも、御者見習いで馬の世話を始めたり、侍女見習いで洗濯女として働き始めたりする年齢だ。

「昼間働いて、夜に写本の内職?……明かりも必要となると、蝋燭代もかかるし……」

 と、そこまで言ったらメイシーが冷たい声を出す。

「目も悪くなるでしょうから、すすめられませんね」

 うっ。

 そうだ。どうしても続くが読みたくて、蝋燭の明かりで本を読もうとして何度も叱られました。「目が悪くなる!」って……。

「じゃぁ、代筆屋や代読屋の店番している間に写本するのが現実的なのかなぁ……」

「ああ、それはいいですね。代筆屋単体での儲けはまだ難しいとエディ様もおっしゃっていましたし。ですが、本を買う人間との繋ぎ役が必要になりますね」

 ああ、そうか。

 本を買うのは貴族や大商人が中心だ。代筆屋がおいそれと貴族と会えるわけはないわけで。貴族との繋ぎ役が必要なわけね。

 貴族と取引のある大商人?本屋?商売っ毛を出されすぎると、写本料金買いたたいたりしないかなぁ。文字の良しあしで減額とか?一定金額にすると、今度は逆に質の悪い写本でも数を稼ごうと誤字脱字お構いなしな写本が流通しても困るし。

 きちんと内容を精査し、公平な料金を算出する機関が必要ってことになるのかな。本屋に少しだけ公的な働きかけをするのがいいのかな?

 きちんとした査定ができる人間に「本屋開業免許」みたいなの?取り扱ってる本が粗悪だったり、写本料金をごまかしたりする業者は免許取り上げとか……。

 メイシーにも考えたことを話す。

「本屋開業免許ですか。写本をすることがある程度の収入につながるとわかれば、確かに写本をする人が増えて本も増えるかもしれませんが……。そもそも、写本をするための元の本はどうするんですか?」

 あ。

 写本をしてお小遣いを稼がないといけない人間が、高価な本を持っているわけがない。

 そうだった。

「いろいろ、難しいねぇ……」

 代筆屋兼写本屋とうのも、写本元となる本があってこそか。本は高価なだけに、貸し借りするにしても信用のおける人間か、保証金を用意できる人間しかできない。ってことは、結局……。

 今までのように、貴族や大商人が気に入った作品の写本を人を雇ってやらせる形になるの?

「あー、結局、写本以外の方法を見つけないとダメってことねっ!」

「写本以外でいえば、口伝とか?吟遊詩人が語る物語を、文字に書き留めて本にしますか?」

 メイシーの提案にポンと手を打つ。

「それなら元になる本は必要なくなるね!それに、新しい物語の本もできるのかぁ。うん。いいかも!一度、吟遊詩人のウィーチェルさんと相談してみようか?」

「リリィー、ウィーチェルさんは公爵領にいるんだよ?」

 メイシーに言われて、そうだ、ここはもうウィッチ公爵領の領都でも、ロゼッタマノワールの部屋でもないことを思い出す。

「あー、そうだった。タズリー伯爵領にも吟遊詩人いるよね?探して、ラブレター普及委員に任命しなくちゃっ!」

「あれ?ウィーチェルさんは宣伝大使じゃありませんでしたか?今度は普及委員?」

「メイシー、細かいことはどうだっていいのよっ!ノリよ、ノリ!」

 ふふふっとメイシーが笑った。私もえへへっと笑い返す。

「なんだか、楽しそうだね」

 え?

 図書室の入り口には、エディの姿があった。


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[気になる点] 誤記:続き >そうだ。どうしても続くが読みたくて、蝋燭の明かりで本を読もうとして何度も叱られました。「目が悪くなる!」って……。 脱字:い >代筆屋兼写本屋と・うのも、写本元となる本…
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