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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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報告

「メイシー、私、エディと婚約したわ」

「そうですか。って、え?ええー?!ど、ど、どういうことなの、リリィー!」

 そりゃ、驚くよね。うん。

「プロポーズされたので、それを受けたんだけど」

「そういうことを言ってるんじゃなくて、だって、リリィーは、アルの……」

 ハッと、メイシーが口をつぐむ。

 そうだよね。アルのことが好きだと言っていた翌日に、別の男性と婚約したとか言われても……。

「少し、大人になりました。公爵領をね、お父様のようにちゃんと治めてくれる人を選んだつもりなんだけど、どう思う?」

 メイシーの背筋がしゃんと伸びた。

「は……はい。リリィー様のお選びになったエディ様は立派な方です。ご婚約おめでとうございます」

 公爵令嬢としての決断に、メイシーは侍女として返答をくれた。

 友達としてはいろいろと思うことはあるけれど、公爵家に努める人間として、主人たる令嬢の決断を評価したという意味だよね?

「ってなわけで、王都に行ってお父様とお母様に報告した後、しばらくエディの領地で過ごそうかと思ってるんだけど。あ、それから、エディに代筆屋は代読屋とくっつければ維持できるって話なの。店のお引越しと、後任への引継ぎをしないと」

 それから、アルにも言わなくちゃ。


 久しぶりにアルの部屋に続く隠し通路の扉に手をかける。

 コトンと音を立ててクローゼットを押し開くんだけど、部屋にアルの姿はなかった。

 どこ?

 階段を下りて店を覗く。いない。

 店の裏の扉を開くと、アルが剣を振っている姿があった。

 汗が浮かんでいる。

 袖の無いシャツから伸びた腕には無駄のない筋肉がついてる。相変わらず、アルが剣をふるう姿はきれいだと思った。

 忘れない。

 アルの空色の瞳も。優しく笑う笑顔も。私を守ってくれたその腕も。

「あ、リリィー、いつからそこに?」

 5分ほどしてアルが剣を置くと、戸口に立っていた私に気が付いた。

 複雑な表情をしたアルが近づいてくる。

「あのね、いろいろと報告することがあるの」

 くっと、顔を上げてアルの顔をしっかりと見据える。

 喉の奥がぎゅっと狭くなった感じで、言葉がするりと出てこない。

 だけど、押し出すようになんとか、言葉を紡ぐ。

「私、エディと婚約したの」


 忘れない。

 アルのこと。

 アルが、目を見開いて驚きの表情を見せたこと。

 そして、何か言おうとして口を開きかけ、すぐに閉じた。

 少しだけ首をかしげて、青い瞳を細めて微笑み、

「おめでとう」

 と、かみしめるように言葉を発した。

 アルの顔。

 自分のせいだと辛そうだった表情が少し穏やかになった。

「エディなら、きっとリリィーを幸せにしてくれるよ」

 アル。

 アルも、幸せになってね。


 それからの数日は瞬く間に過ぎた。

 店の引継ぎや街の人たちへのあいさつなど。

 それが終わると、いったん領都にある公爵邸へ移動し、そこから王都へと移動。

 馬車の中には、私とメイシーとロッテンさん。

 私はエディと婚約したことで側室教育は不要になったはずなのに、なぜかメイシーと二人で側室教育を受けさせられてます。

「なんでよー、メイシー一人でいいじゃないのっ!」

 って言ったら、メイシーってば

「ひどいですよ、リリィー。友達でしょ」

「うん、友達だけど、それとこれとは別。私は婚約者がいるんだから側室になることはないの」

「わかりませんよ、リリィーには前科が3回ありますから」

 うっ。

 そ、それを言われると……。

 4度目がないと、言い切れないことが辛い。2度あることは3度あるっていうくらいだし。3度あることなら、ますます4度目がありそうだ。

 うーんと考え込んだ私に、メイシーが言った。

「冗談ですよっ、エディ様がリリィーを手放すわけがないじゃないですか!あんなに愛されてるんですからっ!」

 ふえっ。

「あんなに、愛されてる?確かに……好きだとは言われたけれど……」

 愛されてるとか……。

 メイシーがはぁーっとため息をついた。

「領地での仕事を無理して片づけて、リリィーのために領都に来てくださっただけでも大変なことなのに。一緒にいられると思ったリリィーとは、代筆屋と代読屋で別々に活動することになって、それでも文句ひとつ言わずに代読屋の経営に取り組んでくれて……」

 うっ。

「領地から戻ったときも、馬車ではなく、馬で駆けつけられましたし。きっと、あまり休みを取らずに何度か馬を変えながら駆けつけたんでしょう」

 ううっ。

「それに、なんと言ってもリリィー様を見る目が愛しくて仕方がないって語ってました」

 メイシーが素敵な本を読んだ後の満足したような表情をする。「ああ、恋っていいわぁ」って何度となく恋愛小説を読んだ後にしていた顔だ。

「そうなの、か、な?」

「まったく、本当リリィー様は鈍いんですから。あんなに二人に熱い視線を送られていたのに、全く気が付かないんですからっ!」

「二人?他にも私を好きでいてくれた人がいるの?」

 驚いて声を上げると、メイシーが私以上に大きな声を出した。

「あっ、えっと、あれです、あれ」

 あれ?

「ト、トーマスさんっ」

「え?トーマスさんが私のことっ?」

「そ、そうです。トーマスさんが、主人であるエディの気持ちに答えてくださいって熱い視線を、リリィーに送っていたんですっ」

「熱い視線ってそういうことか……。そうだよね。急に私がモテまくるわけないよねぇ……あはは」

 トーマスさんは昔婚約していた時から私とエディのこと知ってるから……。ずっと心配してくれてたのかな。

 メイシーがホッとしたように胸をなでおろしている。メイシーも、今まで私が気が付かないのにずっと気をもんでいたのかな?


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