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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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43/51

プロポーズ

 コポコポコポ。

 メイシーがティーポットからカップにお茶を注いでくれる。

 今日は、私の好きなローズヒップのようだ。ふんわりと花の香りが広がる。

 ベッドで上半身を起こす。

 それから、思ったほど体の痛みがないことに気が付いたので、そのままベッドを下りて、メイシーがお茶の用意をしているテーブルまで歩いて行った。

「リリィー、大丈夫なの?」

「うん、平気みたい」

 あれから、3日。

 壁にかかった鏡に映った顔を見る。腫れあがっていた頬も元通りだ。幸い、痣になることもなかった。

 馬車から落ちたときに打ち付けた体の痛みは翌日には引いていた。

 肩の切り傷だけは、まだ包帯が取れない。動かすと痛みが走る。だけれど、熱も出なかったし、大したことはなかった。

 代筆屋も代読屋も休んでいる。

 これからどうするのか……。

 3日間、ただぼんやりとベッドの上で過ごしていた。

 メイシーがそばにいてくれるけれど、何も言わない。

 何も、聞かない。

 まるで、あの日のことは何もなかったかのように、話題にしない。

 ……。

 少女たちが、ライカさんがどうなったのかも聞いていない。きっと、無事何だろうとは思うけれど……。

 このまま、肩の傷がいえれば、本当に何もなかったことにして元の生活に、4日前までの生活に戻れるだろうか?

 無理だろうとわかってはいる。けれど……あの日々に戻りたい。

 3日間考えた。

 この痛みは、領民のことを考えていなかった私への罰だ。

 好きな人を探して結婚するなんてわがまま。そりゃ、貴族だって恋愛結婚する。だけど、相手は市井の人間じゃない。

 いや、もちろん、貴族に見初められてお輿入れする市井の女性はいる。

 だけれど、私は女で、結婚相手は男だ。公爵領の領地経営をしていかなければならない。貴族としてどうあるべきか、領地経営とはどのようなものか、そのための人脈がどれほどあるか……知識も経験も常識も覚悟も能力も人脈も人望も……。必要なことはたくさんある。市井の人間は貴族が通う学校で基礎的な勉強すらしていないのだ。

 ……。自分の恋のために、領地を、領民を犠牲にする気なのか……。なんて、馬鹿なことを……。

 お父様が今まで私の婚約者にと探してくださった人は、それなりの人なのだろう。


 ノックの音に入室許可の返事をすると、アルが入ってきた。

 呼びに行ったメイシーはアルのお茶でも取りに行っているのかいない。

 アルは、誰が整えたのか前髪がきれいに後ろに流されていた。

 なんだ……。私がピンでとめる必要ないね……。

 アルの表情は暗い。寝込んでいた私以上にやつれているように見える。

「アル、助けてくれてありがとう」

 できるだけ自然にと、微笑む努力をする。

 もう、心配しなくていいよ。私は起き上がれるようになったしと伝えたかった。

 だけれど、うまく伝わらなかったみたいで、アルは苦痛にゆがめられたような表情を見せた。

「僕のせいだ……。僕が、リリィーの元を離れたから……」

 ああそうか。

 アルは、それを悔いているのか……。

「いいえ、別の護衛をちゃんと連れて行きましたし。仕方なかったのです」

 小屋にはもっと男がいたし、アルでも同じように倒されたかもしれない。

 そうすれば、代筆屋に残した紙から私を見つけ出す人がいなくて、手遅れになっていたかもしれない。

「むしろ、ああしていち早く駆けつけてもらえて感謝してます。アルだから、私をあんなにも早く見つけてくれたのでしょう?」

 私の言葉に、アルはもっと苦しそうな顔になった。なぜ?

 アル、自分を責めなくていいのに。

 私は、そんなに大した怪我を負ったわけじゃないよ?

 それに……私は、汚されてない。

 だから、アル、苦しそうな顔をしないで……。笑って。青空のような瞳を輝かせて?

 アルは、私の前に片膝をついた。

「リリィー、どうか……」

 私の手を取る。

 ああ、なんてことだろう。アルのこの体制は……。

「僕と結婚してほしい」

 アル……。

 ねぇ、アル、プロポーズするなら、そんな悲壮な顔しないで?

 私……アルのことが好きだよ。

 でも、そんな顔でプロポーズされても……、私……。

 はいともいいえとも言えない。

「痛っ」

 本当は痛くないけれど、肩の傷が痛んだふりをして声を上げる。

「あっ、ごめん」

 アルが慌てて手を放す。

「メイシーを呼んでもらえるかな?」

「すぐに!」

 アルが焦って部屋を出て行った。

 そしてすぐにメイシーを伴って部屋に戻ってくる。

「リリィー様、大丈夫ですか?」

「ええ、包帯を変えてもらえる?」

 そう言えば、アルは部屋を出ていくしかない。

 

 ありがとう、アル。

 私のことをあんなに思ってくれて……。

 でも……。


土日は更新がお休みです。次回は24日になります。

お読みいただきありがとうございます。恋愛モード突入です。

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