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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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少女たち

 カールさんに頼まれた地図は覚えている。

 この間ピクニックに来た時に見た、鷲の形の岩。すすき野原。あとは三本杉を探さないと。

 指先から血の気が引いて冷たい。

 もっと早くに気が付いていれば。

 領都で、貴族らしき人物の目撃例はあった?

 カールさん以外に、それらしい人は見た?

 私もアルも看板に文字を書くことにしてから結構街中を歩いたけれど、噂も聞かなければ姿を見たこともなかった。

 それなのに、3人も貴族と駆け落ちしたというのはおかしい。

 こっそり行動していた?

 すぐに市井の女性と、それも未成年と駆け落ちするような考えなしが、身分を上手に隠せるだろうか?

 隠せるわけがない。

 もし、うまく隠しきるだけの能力があるならば、駆け落ちという最悪の手段に出ることもないはずだ。

 ということは、領都に貴族の令息なんて来てなかったということになる。

 そもそも、お忍びだろうと、貴族の令息が数人固まって移動するならば、お父様の耳に入らないわけがないのだ。領内で何かあっては貴族間の抗争につながることもある。だから、貴族は移動の際、その領主には先ぶれをする習わしがある。

 密偵など何らかの役割があれば別だが、単にお忍びで遊びに行くのであれば来る前連絡があるはずで。

 領都に何人もの貴族の子息が来るならお父様はご存知なはずで、私の耳にも入る……よね?

 ん?入らないように情報シャットアウトされてる?でも、貴族と駆け落ちという事件が立て続けにあったなら、動きはあっていいはずだ。


 貴族の子息は、領都には来ていなかった。

 貴族のふりをした人間はいた。

 それが、カールさんだけなのか、他にいたのかはわからない。

 貴族でなければ身分差ゆえに反対されているから駆け落ちしようという言葉は嘘になる。

 嘘をついてなぜ駆け落ちを?

 そもそも、本当に駆け落ちなのか?

 駆け落ちではなく、連れ去られたとしたら?


 人身売買……。

 若い女性を売り買いする影の組織があると聞いたことがある。

 貴族のふりして、女の子をひっかけ、駆け落ちしようとささやく。誰にも見つからないように、落ち合おうと誘い出し、拘束。

 ……。市井の女性は、貴族に憧れが強いから……ついだまされてしまうことがあるのではないだろうか?

 ライカさんは、カールさん……カールが、貴族じゃないことを見破ってしまって連れ去られた?

 フードの男が言っていた少ないというのが人数だとすれば……。

 ライカさんも頭数に入れるってこと?


 単に私の考えすぎならそれでいい。

「あった、三本杉」

 三本杉が見えた。

 その先に小さな小屋が見える。

 護衛に、馬をそちらに向けて走らせてもらう。小屋の周りには人影はない。小屋には、中の様子をうかがえるような窓もなかった。

 馬を下りて、ドアをノックする。

「すいません、誰かいませんか?」

 返事はない。

 だけれど、ドアに耳をつけると、かすかに物音が聞こえる。

「誰か、いませんか?ライカさん、ライカさんはいませんか?」

 ドスンッ。

 小屋の壁が音を立てた。

「馬鹿ッ、やめろっ」

 それに続いて、男の怒声が聞こえた。

 やっぱり、部屋の中に誰かいる。

「ライカさん、ライカさんがいるんですか?すいません」

 ドアをたたくとしばらくして、小屋の裏から、顔を隠した男が3人ほど出てきた。

「なぜ、ここにあの女がいることを知っている」

 男の一人が口を開いた。

「やっぱり、ライカさんいるんですね!」

「お前は、代筆屋の……そうか、おい、捕まえろっ!ちょうどいい。これで一人商品が増える」

 商品?

 やっぱり、こいつら……!

 男の手が私に伸びた。

 護衛が、かばうように剣を抜いて構える。

 だが、それよりも早く、男の一人が護衛の足を木の棒で思い切り打ち付けた。

 膝をついた護衛の後方から、別の男が後頭部を殴りつけると、護衛が地面に倒れこんだ。

「おい、そいつは縛って小屋ん中放り込んでおけ。馬はちょうどいい。使わせてもらおうか」

 小屋の裏から、ほろ付きの小汚い馬車が運ばれてきた。馬が1頭つながれている。そこに、私と護衛が乗ってきた馬もつながれた。

 男の一人が、私の手を後ろ手に縛り、幌馬車の中に押し込んだ。

 そして、別の男が小屋の中から同じように手を縛られた3人の少女とライカさんを次々と馬車に押し込む。

「ライカさんっ」

「リリィーちゃん……ごめん、私のせいで……」

 ライカさんの頬には、殴られたような跡があった。

 女に手を上げるなんてっ!怒りがこみ上げてきたけれど、今の私にはどうすることもできない。

 ギリギリと奥歯をかみしめる。

 他の少女たちは皆、疲れ切った顔をしていた。頬には涙の跡が残っている。

「ううん……」

 私が、領主の娘なのに、領民をこんな目に合わせちゃって……私……。

 何が、3S男子を見つける!よ!

 貴族の娘として、するべきこともしてないくせに!貴族が税金で生活させてもらえるのは、ちゃんと領民を守っているからなのに。

 私、自分の恋愛にかまけて……防げたかもしれないことを見過ごしちゃって……。

 なんて愚かなんだろう!

「大丈夫だよ……」

 何が大丈夫なのか。

「私と一緒に来た人、殺されなかった。だから、私たちも命は取られない」

 詭弁だ。

 命さえあれば大丈夫なわけがない。

「まだ、時間はあるから……きっと助けがくるから……」

 これも、詭弁。

 私がいないことに気が付けば、大捜索は行われるはずだ。だから、助けがくるのは間違いないはず。

 だけど、売られてしまうまでどれだけの時間があるかはわからない。

「帰りたいよぅ……」

 一番幼い少女が泣き出した。

 アルが、あの地図に気が付いて小屋へ向かってくれれば……。大捜索などせずに、すぐに見つけてくれれば……。

 泣き出した少女をぎゅっと抱きしめたかったけれど、両手を縛られているのでそれもできない。少しだけ身を寄せる。

 守らなければ……。

 その思いが、この先どうなるのかという不安と恐怖に飲まれるのを、何とか押しとどめていた。


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