表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/51

護衛の名

「山賊?あ、髭……?違います、僕はリリィー……様の護衛を仰せつかりました、アルと申します」

「護衛……の、アル……」

 そうだよよね。うん。山賊がいるわけないよ。

 あはは。私ったら、小説と現実をごっちゃにしちゃって。恥ずかしい……。

「ごめんなさいね。突然来てしまって……。あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫。階段から転げ落ちたくらいじゃ、死なない……」

 いやいやいや、死んでないのは分かる。

 どこか痛めてないか尋ねたつもりなんだけど……。大丈夫なのかな?あんなに勢いよく階段を転げ落ちてきたのに……。

 流石、山賊……じゃなくて、護衛任務に就くだけのことはある。

「改めて自己紹介するわね。私はリリィー」

「初めましてリリィー様。護衛をさせていただきます、アルです」

 アルが頭を下げた。背中がピンと伸びた綺麗なお辞儀だ。山賊がするような粗野さはどこにもない。

「あー、様はいらないわアル。リリィーって呼んで。んー、店長でもいいわよ?私、ここでお店をすることにしたから」

「え?お店?お店は、お隣では……」

「細かいことは気にしない。とにかく、ここでお店をするから、えっと、アルは護衛兼従業員でよろしくね」

 アルは、ぶつぶつと従業員……ってことは、えっととか何かつぶやいてる。

「何のお店なんですか?」

「いい質問ね、アル!」

 実は、ずぅーーーーっと前から考えていたことがあるのだ。

 公爵家が取り潰しになって、庶民になったら……どんな仕事ができるんだろうって……。小説を読みながら考えたんだよねぇ。

「私、代筆屋をしようと思うの!」

「代筆、屋?」

「そうよ!王都で文字が書ける人は10パーセントにも満たないと習ったわ。貴族や大商人が多い王都ですら10パーセント以下。王都を離れれば、ほとんどの人が文字の読み書きができないのよね?だから、私が代わりに書いてあげるの!」

 どやっ!

 素晴らしい仕事じゃないの?

 公爵令嬢として文字の読み書きはしっかり叩き込まれたし。文字はきれいですねって褒められたことがあるんだよ!

 刺繍とか、ダンスとか、楽器とかで褒められたことはないけどね……。

 あ、ちょっと凹んだ。ぐすっ。

「確かに、文字の読み書きができない人が契約書など文字を書くことが必要になる場面はありますが……。契約書など信用第一の仕事ですので、ポッと出の娘が営む代筆屋に頼む人がいるかどうか……」

 ふっ。

「私が代筆するのは、契約書なんてそんな夢のないものじゃないのよ!私が代筆するのはね、愛よ!」

 アルがぽかぁーんと口を開けた。

「愛?」

「そう!私はラブレターを代筆するわ!愛を代筆するなんて、愛の狩人の私にふさわしい仕事だと思わない?」

 自分の言葉に酔いしれて、思わずクルクルと回って両手で自分の体を抱きしめた。

 それから、同意を求めて、下からアルの顔をのぞき込む。

「愛の狩人?」

 アルが怪訝そうな顔をした。いや、ひげと前髪のダブルもじゃで表情はよく見えないけど、声がそういう声だったよ。

「ああそうか、アルには言ってなかったわね。私、婚約者を見つけにこの街に来たのよ?」

「知ってる」

 知ってるの?

 ええ?

 何?

 もしかして、護衛を頼むときに私がこの街に来る理由とかも説明しちゃってたりする?

 婚約破棄を3回もされた公爵令嬢とかも言ってたりするの?

 お父様が、身分を隠して商家の娘としておぜん立てしてくれてるんだよね?

 ……。カマをかけてみる。

「私、実は公爵令嬢なの、知ってた?」

 私の言葉に、アルはハッと息を飲んだ。

 ん?驚いたぞ?知らなかったのかな?

「ま、またまた、……何の冗談ですか……は、はは……」

 なんだか挙動不審?

 まぁそうか。

 私だって、目の前にいる山賊風の護衛が「実は王の落胤で実は王子です」とか言われても、どうしていいのか分からないもんなぁ。

「そう、冗談よ。でも、婚約者を見つけに来たというのは本当よ?」

「知ってる」

 いや、だから、何でそれは知ってるの!

 ま……、まさか……。

「護衛って、悪人から私を守るだけじゃなくて、近寄る男性も排除するように言われてるわけじゃないわよね?」

 思わず、アルのシャツをつかみ詰め寄る。

 お父様、市井で婚約者を探すの反対気味だったし……。婚約者用意して2年過ぎるのを待ってるつもりじゃないでしょうね?

「もちろん、全力で虫は排除します」

 ええ!?

 さ、殺気?!

 アルが、目にもとまらぬ速さで、右手をシャッと伸ばして引き戻した。

 開かれたアルの手には、小さな虫の死骸が一つ。

「あはは~、びっくりした。虫ね。虫。アル、全力じゃなくてもいいよ。害にならない虫なら平気だからね?」

 アルのシャツをつかんでいた手を離して、ポンポンと胸を叩いた。

 うお、胸板厚いな。

 さっき虫を捕らえるスピードもすごかった。

「でも、アルが頼りになる護衛だっていうのはよくわかったよ。危険が迫ったら、よろしくね?」

「害にならない虫などこの世にはいません」

 ギラリと、また殺気をアルから感じる。

 えええっ!

 もしかして、アルは虫がすごく嫌いなのかな?

 うん。よし、お店には虫よけの香を絶やさないようにしよう……。

「ま、そういう訳だから、愛の代筆屋を始めるようと思うの」

「そうですか!では早速開店準備をはじめましょう!」

 おや?すっかり殺気が書き消えたよ?それにやけに協力的?

「そうだ、リリィーは略奪愛にあこがれますか?」

「はぁ~?略奪愛~?そんなものにあこがれるわけないでしょっ!私の理想は、3S男子!生命力、生活力、誠実三拍子そろった人なの!簡単に心変わりする人に誠実さがあるわけないでしょ!」

 私の言葉に、アルはすっかりご機嫌。

 鼻歌なんて歌いながら店の掃除を始めた。

 略奪愛?いったいどういうことよ!

 ったく。

 愛の狩人って言ったって、人の彼氏奪ったりするわけないでしょ!

 あれ?

 待てよ?

 愛の代筆って……、ラブレターを代筆するっていうことは……。

 お客さん……皆、好きな人がいるってことになるじゃないのぉーっ!

 な、なんてことだ……。

 愛の代筆屋には、愛の狩人たる私の獲物はやってこないということか……。

 ぐあああーーーっ!

 なんたること!なんたることなのっ!

 両手で頭を抱えて、大きく左右に振ってると、アルがくすっと笑った。

 うぎょぎょーっ、ま、まさか!

 アルが機嫌がいいのは、愛の狩人が、獲物の来ない店を開こうとしてるのが滑稽で面白くて、笑っているというの?

 ぐぬぬぅ。見ていなさい!

 私、絶対に、3S男子をゲットしてみせるんだから!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ