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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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人知れぬ悩み?

 朝、いつものように看板回収に出掛けようと外に出たところで声がかけられた。

 ライカさんの兄のレイモンドさんだ。

「ライカを見なかったか?」

「え?ライカさんですか?見てませんよ?どうかしたんですか?」

「いや、朝起きたらいなかったんだ」

 レイモンドさんは心配そうに眉を下げている。

「時々、悩み事があるときに早朝に散歩に出かけることはあるんだが……。朝食の時間になっても戻ってこなかったから、どうしたのかと」

「悩み事?」

 ライカさんの昨日のお店の様子では、悩んでいるように見えなかった。

 いや、もしかしたら悩んでいる姿をお店では出さないように明るくふるまっていたのかな?

「今から、街の中を看板回収で回りますから、見かけたら声かけてみますね!」

「ああ、ありがとう、頼んだよ」


 看板作業も何日か行っているので、そろそろ取り外して作業できるところが終わりそうだ。

 今日は南側の店を回る。

「ライカさん、何を悩んでいるんだろうね?昨日は、私のすることにワクワクするって言ってくれて……」

 アルが少しだけ考えるように間を置いて答えた。

「そうですね、確かに。覚えた文字を誰かに見せたかったって、楽しそうでした」

 そうだった。うん。

 文字を覚えたことが楽しくて仕方がないって感じだった。

 その裏で、何をそんなに悩んでいたのだろう?

 悩んでいることを隠さないといけないような悩み?……。

 あ……。

 恋の悩みとか?

 私のように、気が付かれてはいけない人を好きになってしまったとか……?

 ずっと気持ちを隠していて、時々辛くなって、朝日を浴びながら街を歩いているとか……。


 3枚の看板を回収して、店に戻る。

 ライカさんの姿は見つけることができなかった。

 アルはいつものように店の奥で看板書き作業。火を起こして、焼きごて替わりに火かき棒を使って、木に焼き目を使って文字を書いたりしてるんだよね。そのため店では作業ができないのだ。

 私はと言えば、店番のために店にいるんだけど。

 時々しか来ないお客さんを待って一人で店番しているのはとても退屈で、ちょくちょく裏のアルのところに顔を出して話しかけていた。

 だけど、好きだという気持ちを自覚してからは、アルの顔が見たいから、アルの声が聴きたいから……。

 退屈だから顔を出してるんじゃないのかもって思い始めちゃって。

 どうしよう、顔を出しすぎかな?って、妙に悩んで、顔を出すのを躊躇してる……。

 あー、そろそろ顔を出しても大丈夫かな?でも、まださっきから時間全然経ってない?

 ……。

 だめだめ。

 本でも読んで落ち着こう。

 引き出しを開けて、読みかけの本を取り出す。

「あ、これ」

 カールさんに頼まれた手紙の写しだ。昨日取りに来た人に代筆した手紙は私たけれど、風貌が怪しかったので念のため写しを書いたんだった。

 このこと、アルに言ってない。

 店の奥に続く扉に手をかける。

 用事があるんだからね?このこと言うためだからね?

 そっと扉を押し開くと、アルが火かき棒をゆっくりと動かしながら看板に当てていた。

 火の近くで作業しているため、アルの額には少し汗が浮かんでいる。

 アルの青空のような青い瞳に、暖炉の火がちらちらと映っている。

 恋の炎……。

 ふと、小説に出てきた表現を思い出した。目に映る恋の炎。好きな子への情熱……。あのアルの情熱の炎は誰に向けられる目なのか……。

 胸の奥がぎゅっと痛くなった。

 好き。

 アル……。本当は、私……。

 アルに泣いてすがって、私のこと好きになってよってわがままを言いたい。

 なんで、私、好きな人がいる人を好きになんてなっちゃったんだろう……。恋は幸せになれる素敵なものだって、そう思っていた。

 なのに、胸がこんなに苦しい。

 アル、私を見て……。

 アルがふいに顔を上げて私を見た。

 目が合う。

 息が、止まった。

「どうかしましたか?」

 アルが作業の手を止めて、私の前に立った。

 ドキンドキンと、心臓が高鳴るのを押える。

 ビックリした。私を見てほしいって思った時にアルがちょうどこちらを見るものだから……。

「えっと、ほら、カールさんに代筆した手紙を預かる依頼されたよね?昨日、取りに来たんだけど、取りに来た人間がちょっと怪しかったの」

「怪しい?」

「フードを深くかぶって顔を隠すようにしてて、代理で取りに来たと言っていたわりに、受け取った手紙を小さく折りたたんでしまったの」

 アルがなるほどとうなづいた。

「確かに、顔を隠すのも怪しいと言えば怪しいですが、顔に傷があるなどの事情があるだけかもしれません。ですが、代理で受け取りに来た手紙を小さく折りたたむのは少し変ですね。普通は大切にしわにならないように持ち歩くものですが……」

「それで、もし、本来受け取る人間以外だった場合に備えて、急いで写しを取っておいたの。預かり期間終了まで何事もなければ破棄するつもりだけれど」

「そうですか。なるほど。預かっている手紙を渡す相手が、宛名の人物かどうか確かめる手段が必要ということですね。今後、この預かるシステムを続けるとしたら、いつか別の人間に渡して問題になるかもしれませんね」

 アルが考えるように顎に手を置いた。

 そうだねぇ。

 お金を取って預かるのであれば、間違えて渡しましたじゃすまないもんねぇ。

「割符みたいなものを作りますか?」

 割符?

「エディが戻ってから、皆で考えましょうか」

 アルが、首を傾げた私の頭をそっと撫でた。それだけのことなんだけど、ドキドキして小さく首を縦に振ることしかできなかった。


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