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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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自覚

「リリィー様、本日のご予定はいかがいたしますか?」

 部屋を整えるための侍女がいるため、メイシーが侍女モードの言葉遣いで話しかけてきた。

 エディが領地に行ったため、代筆屋と代読屋の休みが一緒になったのだ。領都に来て、初めてのメイシーと一緒の休みかぁ。

「一緒にかわいい雑貨屋めぐりしようか!看板作業してる間にいいとこ見つけたんだ」

「それはいいですわね。でしたら、すぐにアル様を呼んでまいりますわ」

 ア、ア……

「なっ、なんでアルを呼ぶの?」

 ひゃーっ。アルの名前を聞いただけで今朝の夢を思い出して手に汗がにじむ。夢だとは分かっていても、まだ記憶が鮮明すぎて……困るよっ!

 メイシーは私の気持ちなど全然知らず、首を傾げた。

「護衛ですから」

 うっ。

「たっ、確かに護衛だけどっ、アルだって休みなしはかわいそうだし、雑貨屋に付き合わせるのは悪いわっ!」

 メイシーは確かにとうなづいたあと、ぽんっと手を打った。

「では、ピクニックはいかがでしょうか?アル様もずっとお屋敷にこもっていては気がめいりますわよね?」

「確かに」

「では、すぐに料理長にお弁当を用意していただきましょう。アル様にも声をかけてきますわ!」

 えっ、ちょっと、メイシー!

 仕事ができる侍女メイシーは、てきぱきとあっという間に部屋を出て行った。


 なんで、こうなった……。

 町娘よりも少し派手な服を身にまとい、ロゼッタマノワールの入り口にとまった馬車に乗り込む。

 ピクニックというからには、領都を出て景色のより小高い丘へ向かうのだ。小さな湖もあり、とても景色がいい。歩くと2時間ほどの場所に向かうため、馬車で行くことになった。

 もともとは公爵家所有の馬車だ。一番地味なものを選び、公爵家の馬車だとわからないよう紋章も外してある。が、辻馬車や庶民の利用する貸し馬車とは違い、作りが上品で新しくて汚れもない。

 私やメイシーが乗りこむのも変なので、ロゼッタマノワールの前に止めてもらい、私たちだと分からないよう帽子を深くかぶった。使用人に人壁になってもらい、姿を隠して馬車に乗り込む。

 私の向かい側にメイシー。そして、アルが、私の隣に乗り込んだ。

「ひゃっ」

 思わず小さな悲鳴が上がりそうになり、口を押える。

 アルの体が乗り込んだ時に肩に触れた。それだけ。

「ん?何?」

 隣に座るアルが口を開く。声が近い。

 夢の中、耳元でささやかれた台詞が脳裏をよぎる「リリィー、好きだよ」。

 ああ、ダメ。あれは夢。あれは、夢っ。落ち着いて、私!

 そうだ、外の景色を見よう。小窓を開け、カーテン越しに外を見る。景色は領都の中心部から数分で郊外に変わり、西門をくぐって領都の外へと出た。

 すぐに、すすきがたくさん生えている野原を横切る。

 あ、そういえば預かった手紙の地図にすすき野原って書いてあった。もしかして、大鷲岩もある?

 少し離れた場所に視線を移すと、大きな岩が目にはいった。鷲?翼を広げて飛ぶ鷲の姿を想像していたので、いまいちピンとこなかったが、どうやら大鷲の頭部の形に似ているからそう呼ぶようだ。クチバシのようなでっぱりが確かにある。そうすると、三本杉というのは……?

「リリィー、何が見えるんですか?」

 メイシーが、私があまりにも真剣に外の景色を見ていたから気になったのか、自分の席の横にある小窓から同じように外を見始めた。

 私の隣に座るアルも逆側の窓から外を見た。

「ん?取り立てて変わったものはないけど、そちらの窓からは面白いものが見える?」

 アルがひょいと腰を浮かせて、私がのぞいている小窓を覗き込もうと、顔を寄せた。

 ぎゃーっ!近いって!

「あ、あ、あの岩の形が、大鷲の頭みたいだなぁって」

「へぇ、本当だ、面白いね」

 何、これ。

 ガタゴト揺れる馬車。時々触れるアルの体。なんか、火傷しそう。

 どうして?一緒にダンス踊ったときはそんなことなかったのに。

 それから30分くらい馬車に揺られて、目的地に着いた。


 青空が広がり、森の緑を吹き抜けてくる風が、草木の匂いを運んでくる。

 メイシーは景色のよい場所を選び、敷物を敷いたり飲み物や食べ物の準備を始めている。

「せっかくだから、少し歩こうか」

 アルが、手を差し出した。

 びくんっ。

 手を差し出されるのなんて、何も特別なことじゃない。馬車の乗り降りの時も、エスコートされるときも、ダンスを踊るときも……。従者や騎士や家族、今まで多くの人に手を差し出されてきた。

 今も、草が生えでこぼこしたところを転ばないようにとアルは手を差し出してくれたんだとわかる。

 だけど、アルの手を取って、気が付いてしまった。

 特別じゃないことが、特別に思えちゃうってこと……。


 私、アルのこと……。

 好きなんだ。


 アルの剣を握って硬くなった手の平の感触も、足元に気を付けてと向けてくれる笑顔も……。

 全てが愛おしい。


 小説で読むだけだった恋。

 恋は、出会った瞬間に雷に打たれたような衝撃を受けて落ちるものだとどこかで思っていた。

 違う。

 現実は違った。

 どうしてなのか、なぜなのか。

 自分でもわからない。気が付いたら、好きになってる。


 好きな人がいる人を好きになるなんてありえないと思っていたのに……。

 

 アルが、好き。


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