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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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好きなの?

「アル、代筆屋で新しい仕事を受けることにしたの。書いた手紙を預かって、取りに来た人に代読して渡すの」

 看板に文字書き作業をしているアルに、経緯を説明して保管場所を相談する。

「そうか、紙とペンも普通の家庭ではないから、読んでもらってすぐに返事を書けるというのはいいかもしれませんね。離れた場所にいる人に手紙を届ける事業というのも、代筆屋を拠点にして行えるようになるかもしれませんね。今は貴族間が使者を立てて書簡のやり取りをしているだけだけれど……。代筆屋が商売としてなりたち、国中に広がれば、識字率向上だけでなく、情報の行き来や、離れた場所との交流などいろいろと変化をもたらすかもしれませんね」

 アルはすごいこと考えるな。代筆屋を郵(文書などを取りつぐ宿駅)にしようというのか。


 夕食を終え、メイシーと二人でのんびりお茶タイム。今日はレッスンはない。

「それでね、いくらにしたらいいのか困っちゃったのよ」

 メイシーに今日あったことを細かく伝える。

「へー、それでいくらにしたの?」

 ポリポリとクッキーをかじりながらメイシーが尋ねた。

「うん、私は手紙の1枚くらい無料で読んであげてもいいって思っちゃうからさ、安すぎる値段についついしちゃいそうで、そうならないように高めに設定したら高すぎちゃうかもしれないって思うと、もう全然わかんなくなっちゃって。焦った焦った。そうしたらね、出発のあいさつにエディが来たの!」

「ナイスタイミングでしたね!」

「そうでしょう、その時の私の気持ちわかる?エディの顔を見てすごくホッとしたんだ」

 お茶をごくりと一口。

「そのあとの値段設定もすごかったよ、次々問題点を解決しちゃっさ……。なんかさ、思ったんだ」

 親友のメイシーだから打ち明ける。

「顔見てホッとできるとか、頼りになるとか、そういう旦那様もいいかなって……」

 ポロリ。

 メイシー、口からクッキーが落ちましたよ?

「ま、ま、まさか、リリィー、エディを好きになったとか?」

 ぴぴぴっっと、メイシーの口からクッキーのかけらが飛んでくる。

 ちょっと、子爵令嬢らしからぬ慌てっぷり。

「違うの。好きじゃなくても、頼れる人であれば結婚してうまくいくんじゃないかなぁって思ったの。理想は、好きな相手を見つけて結婚するっていうことだけど、2年っていうタイムリミット付きでもし見つからなかったらと考えたら……」

「そ、そうですか。エディを好きになったのかと……びっくりしました~」

 なんでそんなにメイシーはびっくりしたの?まさか、メイシーはエディのこと好きとか?

「アルはどうですか?アルも頼りになるんじゃないですか?」

 メイシーの質問に、今度は私が食べかけていたクッキーをポロリと落としてしまった。

「な、な……」

 アルには好きな人がいるんだから、考えてもみなかった。いや、考えちゃだめだ。

 アルも頼りになることとか。前髪に隠されたあの青空みたいな瞳を見ていると、すごく安心感があることとか。

 私が、アルのことを好きかどうかとか……。

「メイシーはどうなの?エディとか」

「えー、ないですよ。エディはリリィーのこと好きなんですから。好きな人のこと好きになっても辛い思いするだけですよ」

 メイシーはそう言って、本棚から3冊本を出してきた。

 好きな人には婚約者がいたのに、略奪して結婚。だけど周りから認められないことを苦に結局幸せになれなかった話。

 好きな人に振り向いてほしくて、その人が好意を寄せている人間を排除。それを断罪されて死刑になった話。

 好きな人を嵌める形で結婚。しかし愛されないままの生活に耐えられなくて自殺。

 また、すごいラインナップの本を持ってきたなぁ。

「政略結婚は、貴族に生まれたからにはそれなりに覚悟はしていますが……。好きな人がいる男性を好きになって辛い思いはしたくないです」

 そうか。恋は素敵なことばかりじゃないよね、きっと。そう考えると、人を好きになるのもちょっと怖いかも。

「そうそう、トーマスさんが店番をしている時に、さっそくラブレターの代読のお客さんが2人来たそうです!ラブレターの代筆も順調ってことだよね?」

 え?

「えーっと、2回じゃなくて、2人?」

「ええ」

「なんで?それっておかしいよね?ラブレターの代筆のお客さんって、大量注文した一人だけだよ?」

 メイシーと顔を見合わせる。

 答えなんて一つだ。

 一人の人にラブレターを順に渡したんじゃなくて、別々の女性に渡したってことだ。

「「女の敵!」」

 今度代筆屋に来たら、説教してやるんだからっ!

「そうそう、文字を覚えるいい方法ってないかな?」

「教会で名前を書いてもらうのと、看板に文字を書く以外でですよね」

 メイシーがうーんと最後のクッキーを口に入れた。

「うん。できれば、大人が働きながら、ちょっとした空き時間を利用して覚えられるような方法があればって思うんだけど」

 空の皿をワゴンに乗せ、ティーポットを手にカップにお茶のお代わりを注ぐ。

「ほら、例えばお茶の葉にお湯を注いで、お茶が出るのを待つわずかな間とか……1文字ずつ覚えられるんじゃなかなって。今日ね、ライカさんに二文字だけ教えたんだけど、すぐに覚えたんだよ。すごくうれしそうだった」

「小さいころ、文字を覚えるのに、文字一覧表を使いましたよね?紙1枚に収まるから、仕事中でも持ち歩けるし、ちょっとした時間に出して覚えられるんじゃないですか?」

 あー、うん。まずはそう考えるよね。

「でもさ、文字一覧表の並び順をその前に覚えたよね?「あいうえお」「かきくけこ」っていうふうに。それを覚えないと、文字一覧表を見ても、どの字が何を現してるか分からないよね?」

 私の言葉に、メイシーがため息をついた。

「あー、そうだ!並び順を覚えるのは、誰かが教えないとダメか!結局、教える人がいないと1人で勉強するスタート地点にすら立てないってこと?」

 看板を見て子供たちに文字を覚えてもらおうというのも、読み方が分からなければ店の人が”教えてくれる”ことが前提にある。

 仕事の合間に大人に教えてくれる人……。うーん、子供がまず文字を覚えてから、親に教える?

「あー、何かいい方法ないかなぁ!」


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