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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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カールさんからの依頼

と思ったけれど、お客はお客だ。店に通し、カウンターに案内して基本的な説明をする。

「代筆を頼むにあたって、確認したいことがある。代筆内容を人に話すことはあるのか?」

「ありません」

 誰々が誰々あてのラブレター頼みに来たよ~なんて言って回るわけないよ。

「代筆を頼んだ物を別の人間に渡してほしいんだが、頼めるか?」

 え?自分でラブレター渡せないから、代わりに渡してくれってこと?

 返答に間が空くと、男はこつんと小さくカウンターをたたいた。

「金は出す」

 金さえ出せば、何でもみんなハイハイ従うと思わないでほしいなぁと、ちょっとイラっとする。

「申し訳ありませんが、私たちの店はぎりぎりの人数で営業しておりますので、配達のために店を開けることができません」

「ああ、配達はいい。代筆してもらったものを、別のものが取りに来るから渡してほしい」

「ええ、営業時間内でしたら構いません。料金も基本のままで結構です。」

 貴族風の男はほっと息を吐いた。

「それから」

 まだ何かあるの?

「取りに来た者は読めない文字もあるから、もしかしたら分からないところを読んでほしいと言うかもしれない。代読もこちらに依頼することはできないか?金は出す」

 ……また、金ねぇ。

 あれ?でも、ちょっと待って?代筆屋でラブレターを書くでしょ?好きな相手には「代筆屋に手紙を取りにいってくれ」と伝える。わざわざ代読屋へ行かなくても、とりにきたついでに内容を読んでもらえる。もしかすると、すぐに返事の代筆依頼をしてもらえるかもしれない。

 いいんじゃない?この、手紙を預かって渡すシステム!

「承知いたしましたわ!お金は」

 要りませんと言おうとして、口をつぐむ。

 今後、代筆屋をする人のためにもきちんと値段を設定しなければならないと言われたんだ。いったい、手紙を預かって、渡す相手に代読してあげるというのはどれくらいの値段にすればいいんだろう?代読なら1セインだ。預かり料金も取った方がよいのだろうか?

 ああ、エディがいてくれたら相談できるのに。

 午後には領地へ向かうって言っていた。もう出発していないかもしれない。いや、いたとしても準備の邪魔をしちゃだめだよね……。

 どうしよう……。お客さんをずっと待たせる分けにもいかない。決めなくちゃ……。

 そこに、救世主が表れた。

「エディ!」

 店のドアにエディの姿を見つけて、緊張がふっと解けた。

「出発のあいさつをしようと思って、おや?お客さん?」

「あの、こちらのお客さんが書いた手紙を店で預かって欲しいっていうんです。後で取りに来る人に渡して欲しいって。その人に代読してほしいそうなんです。それで、今その料金を……」

 簡単な私の説明で、エディはすべて理解したのか、つかつかとカウンターの内側に入り、私の隣に並んだ。

「受けとる人はいついらっしゃる予定ですか?手紙の預かり期間は1週間で1セインとなります。1週間を超えても取りに見えない場合は破棄させていただきます。もし、破棄してほしくないというのでしたら、1週間後にご来店ください。その時に追加で1セインいただき、また1週間保管いたしましょう」

 すらすらとエディの口から言葉が出てくる。

 そうか、期限を区切るということも大切なんだ。そうだよね、いつまでも預かっていられない。店もいつまでも続くかわかんないんだし。預かる期間が伸びれば伸びるほどお金が入ってくるって仕組みにすればいいのか。なるほど。

「代読料金が1セイン」

 エディは机の引き出しから1枚封筒を取り出した。

「依頼主と受け取り人の名前や預かり期間などのメモして管理する必要があるため、封筒に入れさせていただきます。その封筒代金が3セイン。手紙1枚8セインですから、合計で13セインになります」

 封筒代。そっか。手紙にいついつからいついつまで預かって取りに来なきゃ破棄みたいなメモなんてできないもんね。今はこのお客さんだけだけど、もしこの先ラブレター産業が大流行して代筆屋に手紙を預ける人が爆発的に増えても管理できるようにしないといけないんだ。

 すごいなぁ、エディ。

 感心して、エディの横顔を見る。

「問題ない。早速だが、ペンと紙を貸してくれないか。自分で書きたいものがある」

 あら、やっぱり自分で文字書けるんだ。代筆屋を使う目的は、誰かに渡して代読してもらうこと?

 紙とペンを渡すと、カウンターで何か線を書きはじめた。

 ドアに向かうエディの横に着いていく。

「あれでよかったか?」

「ええ、ありがとう。本当に助かったわ!」

 にこっと笑うと、エディも笑った。

「なるべく早く帰る。行ってくるよ」

「いってらっしゃい、気をつけて」

 エディの手が伸びて、私の頬を撫でた。伸ばされた手はすぐに離れ、ドアの外へと消えて行った。

 何気ない仕種なんだけど、エディが私ことを好きだっていうことは、えっと、小説とかだと「私に触れたい」とかそういう感じなのかな……。ええ、ああ、ううう。

 ち、違うよね?私が意識しすぎなんだ。

 ぶんぶんとシ邪念を払うように首を降ってカウンターの内側に戻る。

「じゃぁ、代筆頼んでいいかな?」

 え?自分で書いたんじゃないの?

 男の人の手元の紙に視線を落とすと、いくつかの線と丸印が一つ描かれていた。

 何これ?

「ここに、すすき野原と書いてもらえるか?」

 男の人が指を置いた場所に「すすき野原」と書き込む。

「この位置に大鷲岩、ここが杉三本」

 大鷲岩、杉三本。あ、もしかして地図?

 地図らしきものの下に、日付といくつかの数字を記入して完成。

 数字は何だろう?時間?にしては桁がちょっと違う。13、16、17。

 手紙の完成を確認して、封筒に入れる。封筒には今日の日付と、1週間後の保管期限を記入。

「お名前は?」

「ああ、カールで頼む。受け取りに来るのはサシャスという者だ。代理の者かもしれない」

 封筒に、カールとサシャスの名も記入する。それが終わると、カールと名乗った男の人は財布から金貨を1枚出してカウンターに置いた。

 金貨?お釣りはロゼッタマノワールまで取りに行かないと……。

「ああ、失礼。金貨ではお釣りの用意ができないのでしたね。いつもの癖でつい……」

 いつもの癖?ううう、そういえば、私とアルも貨幣価値がわからなくてライカさんのお店に行ったときに二人で金貨出して驚かれたっけ。

 っていうか、それ以降は金貨なんて持ち歩かないようにしてるんだけど。カールさんはいつも金貨持ち歩いて、いつもうっかり出しちゃうの?ずいぶん学習能力がないよね。

「細かいお金あったかな」

 と、カールさんポケットの中をががさがさしはじめたので

「お釣りありますよ、少し待ってていただければご用意いたします」

 と親切に教えてあげたらカールさんが驚いた顔をして、慌てて金貨を懐にしまって、変わりに銀貨を取り出した。

「あった、これで頼む」

 なんだ、すぐにポケットから出てきたけど、さっき探してたのは何だったの?銅貨を探してたのかな?変なの。


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