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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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代読屋の問題

本日3話目

「た、た、た、大変です、リリィー!」

 次の日、代筆屋のドアから子爵令嬢らしからぬ慌てっぷりでメイシーが飛び込んできた。

「え?何?どうしたの?何があったの?」

「き、き、来てください!」

 メイシーが私の腕をつかむ。

 幸いにして、代筆屋の来客はなし。……というか、いつものようにほとんど客はなし。

 メイシーに手を引かれて、ロゼッタマノワールの前を通り過ぎ、代読屋の入り口をくぐる。護衛のアルも私の後ろをついてきた。

 店には、一人のくりくりくせ毛の町娘がいた。20歳前後だろうか。

「メイシー、お客さんがいるじゃない」

 ひそひそとメイシーの耳元で囁く。

「それが問題なんですよっ」

 は?お客さんがいるのが問題?

「あ、あ、あの、も、もう一度読んでいただいても……」

 町娘の声は緊張してところどころひっくり返ってる。

 町娘の正面には、紙を一枚持って立っていた。

「君のことが忘れられず、僕の心は壊れそうだ」

 エディの口から情熱的な愛の言葉がこぼれる。

 ふえええっ!

「どうか、僕を君のそばに置いてくれないか」

 きゃぁー、エディってば、町娘さん口説いてる!めっちゃ、口説いてる!

 メイシーが慌てて呼びに来たのって、これが理由?

「ああ、あれ、代筆屋で一度に何枚も書いたラブレターの一つですね。彼女がその受取人だったんですねぇ」

 と、アルのひそひそ声。

 おお、そうだ。エディが持ってるあの紙、確かにうちで扱ってる紙と一緒だ。

 なぁんだ。エディが女性を口説いてるわけじゃないのか。でも、じゃぁ何が大変なんだろう?

「あの、えっと、もう一度……」

 と、町娘に言われ、エディはにこっと笑った。

「ええ、構いませんよ。メイシー、読んで差し上げて」

 と、紙をメイシーに渡した。

 女性は、メイシーにもう一度ラブレターを読んでもらうと、そのまま礼を言って店を出て行った。

 エディは、楽しそうな顔して、店の奥で紙に何かを書いて持ってきた。

 一セインと紙を私に渡す。

「代読を頼む」

 は?エディ自分で読めるのに?さっきメイシーに代読変わってもらってたし、もしかして目が疲れたとか?

 渡された紙を手に読む。

「好きです。あなたの全てが好きです。どうか、私をあなたのそばにいさせてください」

 実直な告白だ。

「もう少し感情をこめて読んだ方がいいな」

 ああ、そういうものか。

「好きです……。あなたの、全てが好きです。どうか私を、あなたのそばに……いさせてください」

 こんな感じかな?と顔を上げると、ニヤリと楽しそうに笑うエディの顔が映った。

「そうか。そばにいたいか。じゃぁ、婚約しよう」

「エディっ!卑怯な手を!そんなに代読してほしいなら、僕が読んでやる」

 アルはそう言うと、私の紙を持つ手を少し自分に寄せた。すぐ隣に立つアルの声が耳の近くで響く。

「好きです。リリィーのすべてが好きです。どうか僕を、リリィーのそばにいさせてください」

 ドキン。

 え?何?

 顔がかーっと熱くなってアルの顔が見られない。紙に私の名前なんて書いてなかったよね?

 アドリブ?そうか、読む相手の名前を入れるて読んであげるというのも代読ではありっていうこと?

「アルは代読失格だな。こんな短くて簡単な文さえ正確に読めないとは!」

 エディが挑発的な言葉をアルに向けた。

 そうなの?やっぱり、アドリブはダメなんだ。代読って難しい……。

 って、二人が何やらにらみ合ってる。アドリブについて敵対してるのかな?

「そうだ、メイシー大変って何があったの?」

 二人のことは無視してメイシーに声をかける。

「ええ、その……先ほどの女性ですが、ラブレターをくださるような男性がいるはずなのですが……。エディに代読してもらっているうちに、うっとりとした表情になって、その……」

 いまだににらみ合いを続けているエディとアルの顔を見る。

 エディはいい男だ。声もいい。

 アルだって……。さっきみたいに、代読とはいえイケメンに美声で愛を語られたら……。

 カーッと、せっかく引いた熱が戻る。うわー、思い出しちゃった。アルの「リリィーの全てが好きです」って言葉。うん、確かに、ちょっとときめく。

 アルに好きな人がいるって知らなかったら、勘違いしたかもしれない……。

「メイシーの言いたいことはわかったわ。ラブレターの代読は、同性に読んでもらうべきよね……。もしくは、もう少し高齢の……」

 ロッテンさんの顔が浮かんだ。さすがに代読屋の仕事を手伝ってもらうわけにはいかないなぁ。

 人を雇うほどもうかってるわけじゃないし。文字を読める人となれば、それなりの給金が必要な人材だろうし……。

「高齢の人材なら心当たりがある」

 エディが私とメイシーの会話に入ってきた。

「本当?」

「トーマスだ」

 トーマスさん?確かに、トーマスさんならラブレターを受け取るような若い子が勘違いするような年齢じゃないし、文字も読めるだろうけど……。

「昨日、トーマスが訪ねてきただろう?ちょっと領地で問題が起きたようなんだ。だから、しばらく代読屋をトーマスに任せて、俺は領地へ戻らなければならない」

「そうなの?しばらくって、どれくらい?」

「なるべく早く戻ってくるつもりだ。領地に戻る前に、リリィーと話がしたい。少し早いが、食事に行かないか?」

 話って何だろう?

「メイシー、代読屋の店番を頼む。アルは代筆屋の店番に戻れ。リリィーの護衛は俺がするから必要ない。さぁ、リリィー行くぞ」

 腕をぐいとつかまれて店の外に引っ張られる。

 えっと、じゃぁ、お先にご飯いただいてきます。


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