アルが王様役で、私が側室役?
6曲。私とメイシーとアルとエディーがパートナーを変えながら踊った。
ぐったり。
さすがに6曲も連続で踊るなんて、最後の方はもう、足を踏まないようにとか全然意識せず、リードするエディやアルにまかせっきりで無意識に体だけ動いてた……。
会話?そんな余裕はなかったよ。
うわーん、疲れた!
でも、部屋の片隅でロッテンさんが目を光らせてる。
舞踏会では、疲れたからといって、だらぁーっとできないんだよね。
一応、部屋の片隅に休憩するための椅子があるんだけどさ。ドレスんときって、浅く腰掛けるわけよ。なるべくドレスの形が崩れないように気を付けないといけないの。本当は座らないのが一番なんだけど……。
「疲れたでしょう?」
アルが、私の顔見て手を引いて椅子をすすめてくれた。こんな場合は、座ってオッケーなのっ!
いや、本番の舞踏会だったら、気のない相手の勧めだったら断らないと誤解されるからダメだけどさっ。っていうか、本当めんどくさい。舞踏会ってやつ。
結婚相手を探す場も兼ねてるわけだから、むしろ婚約者がいたり既婚者だったりしたほうが楽なんだよ?
うううっ。
舞踏会で楽するためにも、2年で何としても婚約者ゲットしなくちゃっ!
4人で椅子に腰かける。
そこで、パンパンッと、ロッテンさんが手を打つ音が響いた。
「はい。今日のダンスのレッスンはここまでといたしましょう。皆さまとてもお上手でしたわ」
ほっ。
やっと終わった。合格点もらえてよかった。
「ですが、メイシー様、椅子に腰かけるときの動作はもう少し訓練が必要なようですわね。腰を曲げがって不格好でしたわ。リリィー様は疲れた顔をすすぎです。例えどんなに疲れても、表情に見せてはなりません」
ビシッっとロッテンさんの指導が入る。
「「はい」」
私とメイシーががっくりと肩を落とす。
「それから、エディー様、トーマスより正体をお嬢様に明かしたとお聞きいたしましたが」
ロッテンさんの言葉に、メイシーが小さく声を上げた。
「正体を?」
そうだ、まだメイシーにはエディが実は私の2番目の婚約者だったエドワードだったって教えてなかった。
「そうだね。明かしたというよりはバレた?というか……」
エディはそこで言葉を切って、アルをちらりと見た。
「やっと気が付いてもらえた、といった方がいいかな」
ん?
そういえば、アルも貴族なんだよね?エディは仮にも伯爵家当主だから、貴族なのに顔を知らないというのはちょいと問題なのかな?
それで、気が付かないアルをエディが見た?
え?私やメイシーはまだ成人してないからね?16歳で成人して社交界デビューしてからは、貴族の顔を覚えないといけないけど、今はまだいいいの。セーフなのっ!
もちろん、名前とつながりは勉強してるし、髪の色などの特徴も勉強してるけど、顔は見ないと覚えられないでしょ?
「ではエディ様……今後はいかがいたしましょう?番頭……いえ、代読屋としてのお仕事や、エドワード様として接するべきなのか」
そっか。
「いや、今まで通りで構わない。この2年館は、身分の上下は一切関係なしで接すると……リリィーが言ったんだよな、アル?」
「ああ、そうだ」
二人のやりとりで、ロッテンさんが承知いたしましたとうなづいた。
「アル様もご納得であれば、今まで通りの対応をさせていただきたいと思います。エディ様もアル様も、リリィー様同等の扱いをさせていただきます」
ふおっ、ロッテン、それはもしかして
「では、遠慮なく……。エディ様のダンスは女性を振り回しすぎです。アル様は、女性を褒めるための代表的な花の名前くらいは覚えておく必要がございます」
ビシッとロッテンさんの指導が入る。
「「はい」」
エディとアルの背筋がぴぃーんと伸びた。
エディもアルも、私からしたらずいぶん完璧に思えたけれど……ロッテンさんからすれば、まだまだ勉強すべきところがあるんだね……。
そりゃぁ、お父様もロッテンさんには頭が上がらないはずだ……。
ダンスレッスンが終わるとそのまま食事。これまた食事のマナーのレッスンを兼ねたもの。
食べ方だけならとっくにマナーは身についている。そりゃぁ、スプーンを持つようになってから毎日チェックされてるわけだから、いい加減身につくってなもんだ。
問題は、きちんとした場面での会話の内容。めんどくさいんだよ。上の立場とか下の立場とかで口を開いていいタイミングがどうとか。既婚者と未婚者で話題にしていい内容がどうとか。
男性は、狩りの話題が無難。女性は装いの話題が無難。
男性は戦争など血なまぐさい話はNG。女性は誰かをけなすような話題はNG。
……うん、女性が集まると、誰々がどうのって悪口三昧の人いるもんねぇ。そういう話聞きながら食事とか、確かにいやだわ。ルールも必要……。
「では、次にアル様は王様役をしていただけますか?」
身分の上下があった場合のレッスンなので、それぞれいろいろ立場を変えて会話の練習になるわけだ。公爵令嬢の私の上のたちばの人間といえば、王族だから、そりゃレッスンのためには王様役は必要だよねぇ。
「え?ぼ、僕が、王様?いや、王様になる予定はないけどっ!」
と、アルが焦った声を出す。
「ふふっ。アル、王様になる予定なんて私にもないわよ。私たちが王様に対して接するためのレッスン上の役割だから」
「あ、うん、そうだね、わかった。王様役……」
私の言葉に、アルが視線をさまよわせる。
王様役って突然言われても戸惑うか……。普段陛下に接する機会がなければ、どのように口をひらけばいいかわからないもんね……。
「リリィー様は側室役をしていただきましょう。メイシー様とエディ様には、それぞれ伯爵と子爵令嬢という今のお立場でレッスンしていただきます」
ロッテンさんの言葉に
「え?私が、側室?側室になる予定はないんだけどっ!」
と、思わず口走り、あれ?これじゃぁアルと同じじゃないかと口をふさいだ。
「そうですよ、ロッテンさん、リリィーが側室って……」
アルも驚いた声を出す。
「ああ、そうでしたね、アル様。アル様が王様役であれば、リリィー様には王妃役をしていただきたいかもしれませんが、王妃役は私が務めさせていただきます」
ロッテンさんが王妃役……。思わず笑いだしそうになった私は悪くない。そんな私の笑いたい気持ちは、次の言葉で一気に冷えた。
「リリィー様が側室になったときに困らないよう、しっかりと訓練する必要がございますので」
「私が、側室……に……?」
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