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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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22/51

元婚約者

 看板作業そ3軒終えたところで、店に戻ろうと代読屋の前を通る。

 店からは、身なりの良い男性が出て来た。

 あー、また代読の依頼なのかな?繁盛してるなぁ。

 黒のスーツをビシッと来た男性の顔を見ると、どこかで見覚えのある顔だ。

40歳くらいの男性……私の記憶ではもっと若かった。誰だっけ?

「トーマスさん?」

 声をかけると、男性がこちらを向いた。

「ああ、やっぱり、トーマスさんね?お久しぶり」

「リ、リリィーナお嬢様……」

 おっと、本名で呼ぶの禁止ですよっ!

 会話が聞こえないように、アルから少し距離を取る。アルも、昔の知り合いとの会話に聞き耳を立てないようにと気を使ってくれたのか、距離を詰めることはなかった。

「こんなところで会うなんて……元気?あの事件のあと、タズリー家で働いていた皆がどうなったのか、心配していたのよ。皆、私にとても親切にしてくださったから……」

「私の心配までしてくださっていたとは……ありがとうございます。リリィーナお嬢様。私共、不正にかかわっていなかった者はウィッチ公爵様の計らいもあり、エドワード様の元で働くことができましたので……」

 そっか。

 タズリー公爵と嫡男は処分されたけど、元婚約者のエドワードは伯爵に降爵されたけれど貴族として残ったのよね。領地も小さくなったけれど与えられたはずだし。

「そう、じゃぁ、今もエドワードの元で?……?」

 エドワード……。優しかった私の元婚約者。

 紅茶色の瞳に、ブロンド。私より3つ年上の……。

 まさか……?

 トーマスさんが出て来たばかりの代読屋のドアを開ける。

「エドワード!」

 エディがニヤッと笑って私の顎に手をかけた。

「どうした?リリィーナ」

「!!!」

 驚きすぎて、声が出ない。

「エ、エ、エドワード、あの素敵なブロンドはどうしちゃったの?!」

 エディの髪の毛を指す。

「リリィーナ、他に言うことあるだろう……」

 エディは、はぁっと大きなため息をついた。

「髪は成長するにしたがって色が濃くなったんだよ。よくあることだろう?」

 よくあることなの?

「じゃぁ、本当に、エディはあのエドワードなのね?」

「そうだ」

 エディがメガネを外した。

「君の元婚約者のエドワードだ」

 ああ、確かに、エドワードの面影がある。

「でも、なんで、エドワードがここにいるの?」

 エディは、片手で私の顎を上に向けたまま、メガネを外した顔を近づけてきた。

 距離にして30センチの位置に顔がある。エディ……いや、エドワードの紅茶色の瞳に、私の顔が映ってるのが見える。

「決まってる。もう一度リリィーナの婚約者になるためさ」

 え?

「エディ、そこまでだ!」

 私を追って店に入って来たアルが、私に触れていたエディの手をつかんだ。

「帰ろう、リリィー!」

 エディの手を乱暴に振り払うと、アルは私の手を取り店を出て行く。


 私は、頭の中がぐちゃぐちゃで、気が付いたらライカさんのお店でランチを食べていた。

「リリィーちゃん、ほら、また来たわ!」

 配膳の途中で、私の耳元でひそひそ話を始めたライカさんに気が付いて、意識が現実に引き戻される。

「お忍びで、何度か来てくれるのよ。ランチを気に入ってくれたみたいなの!」

 ライカさんがチラリと入り口付近の席に視線を送る。

 そういえば、貴族がお忍びで来てくれたと前に言っていた。

 もし、知り合いだったら私の正体を黙っていてもらわないといけない。

 恐る恐る、貴族が座っているという席を見る。

 知らない顔だ。いや、私が知らないだけで、あっちは私を知っているかもしれない……。

 20代半ばと思われる鼻の高い男性。薄茶色の髪はきっちり整えられてる。薄い唇が少し冷たそうな印象を与える顔だ。

 日の下で仕事をしていないのは色の白さが物語っている。万人の目を引くほどのイケメンではないが、それなりに整っている。

「アル、あの人、お忍びで来てる貴族らしいんだけど、知ってる?」

 アルも貴族なんだから、どこかの社交場で会ったことがあるかもしれない。

「貴族、ですか……?あまり貴族らしく見えませんね」

 アルに言われてもう一度男を見る。

 ……色が白くて髪を整えていて……。マントの隙間から見える首元には、貴族が好んで身に着けるフリルたっぷりのリボンタイが結ばれている。

 まぁ、そこまでは貴族っぽい。

 しかし、アルに言われて冷静に見てみれば、動きしぐさがとても貴族の者とは思えなかった。

 まずは姿勢が悪い。

 貴族は、幼いころからマナー教育を施される。綺麗な姿勢は基本中の基本だ。もちろん、市井にお忍びで現れる時には姿勢を崩してふるまうこともあるが……それでもやはり、小さなころから叩き込まれた動きを隠しきることはなかなか難しい。

 食べ物を口に運ぶしぐさも、貴族らしからぬ。そして、咀嚼する口元のだらしなさは……。

「確かに、王都ではあのような食べ方をする貴族を見たことはないですね……」

 もし王都に居たら、噂になったはずだ。ということは、王都には姿を現したことがない地方の貴族か、大きくなってから貴族の養子になった者か……。

 どちらにしても、私の顔を見てもウィッチ公爵令嬢とはバレそうにないわね。


 看板の文字かきばかりしているわけにもいかないので、午後はお店で接客。

 お客も少ないし、アルが看板書き、私が店番と分業できればいんだけど……。

 元々アルは私の護衛っていう任務があるから、離れるわけにもいかないんだよね。何か、いい方法はないかな。



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[気になる点] 誤記:看板作業を >看板作業そ3軒終えたところで、店に戻ろうと代読屋の前を通る。
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