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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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パン屋の看板

 食事の後ライカさんに声をかけようと思ったけれど、忙しそうだったのでそのまま帰った。

 午後の営業。

 メニュー書きの依頼、名前書きの依頼。

 ラブレターは残念ながら午後は依頼が一件もなかった。

「リリィーの目的を考えたんですが……」

 え?

「代筆屋を成功させることに意義はあると思うんです。このようなちょっとした代筆ということが仕事になると知らしめるためにも。後進を育てるためにも適正価格をとエディが言っていたように。この店を成功させることが、他の街にも代筆屋を生む手助けとなるはずなんです。前例、しかも成功例があるかないかでは、まったく違うはずですから」

「そっか……。他の街でも代筆屋……うん、確かにできるといいね。店として成功させることっていうのは……?」

「しっかりと、儲けを出すことですね」

 儲けかぁ。

「リリィーはお金に困ってないから、儲けることへの情熱は薄いよね、だからこうしたらどうかな?代筆屋の売り上げで、識字率を上げるための施策を講じる。つまり、売り上げが上がればできることが増える。どう?頑張る気にならない?」

「なる!ありがとう、アル!売り上げ伸ばして、街に看板とか増やせるように頑張る!」

 目的がバラバラになって、何を頑張ればいいのか分からなくなった私に、アルはピッタリのアドバイスをくれた。あとは……。

「アル、3S男子ゲットするには、どう頑張ったらいいと思う?」

 首をかしげてアドバイスを求める。

 アルは、空色の瞳に笑顔を浮かべて言い切った。

「頑張らないのが一番」

 ん?

 どういう意味だろう?


「ねぇ、メイシー、頑張らなくても婚約者にふさわしい人が見つかると思う?」

 寝巻に着替えながらメイシーに尋ねる。アルの言っていた頑張らないのが一番の意味がどうしても分からなかったからだ。

 メイシーは何と答えたらいいのか一瞬悩むような顔を見せた。

「小説に、よく出て来たように、恋に落ちるのは一瞬なのかもしれません」

「そうね!頑張ってするものじゃないのね?運命の相手との出会いは、突然やってくるのね!」

 運命の出会い……。なんて素敵な言葉!

 政略結婚と対照的な言葉ね!

「ふふ、もう出会っているかもしれませんよ?」

「まさか!」

「よぉ~く、考えてみたら?」

 メイシーが人差し指を立てた。

「え?だ、誰だろう?もしかして、今日来たお客さんの中に?」

 メイシーがずこっと変な動きをする。

 何?変なこと言ってないよ?


 少しずつお客さんが来てくれるようになったとはいえ、決して売り上げは良くない。

 生活でいるかというレベルで言えば、苦しいだろう……。うーん、何かもっとお客さんを増やす方法はないかなぁ。

 宣伝が足りないのかな。

 たぶん、ずっとこのまま待っているだけじゃぁ、これ以上増えないんだろうなぁ。

 店番をするアルを見る。接客中は前髪は降ろしてる。素敵な目を隠してるんだよね。目元イケメンなのに。髭を剃るとどんな顔してるんだろう?

 すんごいイケメンだったりして?

 イケメン店員がお出迎え~ってことで、女性客増えないかな?

 女性客に囲まれるアルを想像する。

 ……。

 空色の瞳を覗き込んでうっとりする女性客。

 ……。なんだろう、全然嬉しくない。お客が増えても嬉しくない!

 やめやめ!

 アルは人見知りなんだから、顔を出させたりしないよっ!

 ぶんぶんと大きく頭を振る。

「どうしたの、リリィー?」

「アル、」

 アルの前に立ち、前髪をかきあげる。

「?」

 アルが唐突に前髪をかきあげられ、びっくりした顔。

「えへへっ」

 空色のキラキラ。

 他の人に見せるなんてもったいないとか、私って意外とケチだったんだわ。

「えっと、リリィー?」

 アルが焦った声を出す。

「ああ、ごめんごめん。えっと、ちょっと、代筆屋の宣伝方法を考えていて」

 アルの額から手を放して、手をプラプラとさせる。

「宣伝?」

 自分の前髪のをつまんで、アルは首をかしげる。

 うん、そりゃそうだ。代筆屋の宣伝とアルの前髪はまるっきり結びつかないよね。ごめんごめん。

「こんにちは」

「いらっしゃい、ドナさん!」

「この間はありがとうね!本当に助かったよっ!バカの一つ覚えで悪いけれど、これ、お礼。受け取っておくれ」

 ドナさんが、また籠いっぱいのパンを持ってきてくれた。

「うわー、いいの?ありがとう。お礼なんていいのに。ドナさんが宣伝してくれたおかげで、名前を書いてほしいってお客さんが増えたの!」

「それは良かった。もっと宣伝するよ!」

 そうだ!お願いしてみよう。

「あの、ドナさん……看板に文字を書かせてもらえませんか?パンの絵の下に、パンという文字を……」

「え?それは構わないけど、むしろお金を払わなくていいのかい?」

「ありがとうございます!街の人たちにもっと文字に親しんでもらって代筆屋をアピールすることが目的なので、お金は必要ありません。ただ、誰かになんて書いてあるか尋ねられたら、パンと読むと教えてあげてもらえれば……」

 ドナさんが快諾してくれたので、早速ドナさんの店に行った。

 脚立に乗って、高い位置にある看板に文字を書きこまなくちゃいけないんだけど……。

「リリィー、僕が書くよ。リリィーは、必要な物を手渡してくれる?」

 アルが、運んできた脚立を広げ、さっと乗っかった。

 紙にはペンでさらさらとかけばいいけれど、木製の看板はそういう訳には行かない。先が丸くなっている鉄ペンを力を入れて木に押し当てへこみを作る。そこに塗れても解けない油で溶いたインクを塗りこ無用にして書くのだ。

 パン屋の店先で作業していると、何だ何だと、ご近所さんが見に来た。

「看板の絵の下に文字を書かせてもらっているんです」

 私の言葉に、ドナさんが付け加えてる。

「代筆屋の宣伝すればタダだって言うからさ~、やってもらってるんだよ」

「へぇーいいねぇ。うちんとこもやってくれないか?文字入りの看板なんてカッコイイじゃないか。もちろん、代筆屋の宣伝はしっかりさせてもらうよ!」

 肉屋のご主人の言葉に、笑顔で返す。

「本当ですか?ぜひ、書かせてください。肉屋って書けばいいですか?」

「何だ何だ?」

 ワイワイと人が集まって来て、気がつけば、他のお店の看板にも文字を書かせてもらえることになった。やった!

 識字率アップと宣伝と2つの効果が期待できるよね?

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[気になる点] 誤変換:濡れても 塗り込む様に >そこに塗れても解けない油で溶いたインクを塗りこ無用にして書くのだ。
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