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婚約破棄三回された公爵令嬢の代筆屋  作者: 富士とまと


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絵本を作ろう

 少し早めの昼食に、ライカさんの食堂へと足を運ぶ。

「いらっしゃい、どうしたの?嬉しそうな顔して」

「ライカさん、ついに、ラブレターを書いてほしいってお客様が来たの!きっと、ライカさんたちが宣伝してくれたおかげよ!ありがとう!」

 ライカさんの顔を見るなり、嬉しくなって声を上げる。

「うふふっ、こちらこそ、メニューのおかげで店の格が上がって見えたのか、」

 ライカさんがそこまで言って、私の耳元で声を潜めて話をつづけた。

「こっそりお忍びの貴族様がいらっしゃったのよ」

 ふえっ!

 お忍びの貴族?

 一瞬ギクッとして、アルの顔を見る。

「兄とも話をしてたんだけど、メニューだめじゃなくて看板も絵だけじゃなくて文字も入れようかって。一番目に付くのは看板だものね」

 目に付くのは看板?

「ライカー、運んでくれ~」

「はーい、リリィーちゃん注文はいつものようにランチと果実水でいい?」

 ライカさんの言葉に頷き、席に着く。

「アル、ライカさんがお忍びの貴族がお客で来たっていうんだけど、アルとかエディのことじゃないわよね?」

 声を潜めてアルに話しかける。

「え?」

 アルがギクッとした表情を見せた。

「ど、誰が、僕やエディを貴族だなんて……」

「見てれば分かるけど?違うの?」

 と、言ってから気が付いた。

 ライカさんとか街の皆が見ても分からないんだよね?

 私は、私自身が貴族社会に居てよく見てたから、立ち振る舞いなどちょっとした動きでそうなのかなって気が付いたんだけど……。

 逆に言えば、貴族だと見抜く私は何者だと……公爵令嬢っていうのは、雇われたときに聞いてないんだよね?

「あー、いやー、間違ってないような、間違っているような……」

 と、アルがぼそぼそとつぶやく。

「分かってるわ。内緒なのよね。市井で生活してる間は、護衛と番頭、それ以上でも以下でもないのよね?」

 ってそもそも貴族を雇っている「代筆屋のリリィーは何者だ?」疑惑が立っても困る。この話題はさくっとスルーね。

「ねぇ、アル、街の看板だけど、どう思う?」

「どう、とは?」

「例えば、ドナさんのパン屋さんはパンの絵、肉やさんは肉やソーセージの絵の看板よね?代筆屋も絵を付けて文字を読めない人にも読めるようにしたわよね?」

 ランチを食べながら、思いついたことを頭で整理しながら言葉にしていく。

「文字を読めない人に絵で伝えるために絵の看板……絵と文字の看板にしたらどうかな?」

「文字を読める人のためにですか?でも、文字がなくても絵で十分伝わると思いますが……」

 そうだ。アルの言う通り。

「うん、不便はないんだ。だからその状態でずっと来たんだと思うの。むしろ、絵の下に文字を入れようと思えば、お金もかかるし、わざわざしようとは思わないよね……。だけど……」

 手に取ったパンをアルに見せる。

「パンの絵の下に、パンという文字」

 次に、シチューに入っていた肉をスプーンですくって見せる。

「肉の絵の下に肉という文字……何かに似ていると思わない?」

 分かりやすい絵の下に、それを表す単語。

「……ああ、言葉を覚えるために一番初めに手にする絵本……」

 アルの言葉に満足する。

「そうよ!絵本を子供たちに配ることはできないけど、街を絵本にすることはできると思わない?看板の絵に文字を付ける……。元々絵はあるんだから、後は文字を足すだけ!」

 スプーンですくった肉を口に入れて、もぐもぐ。

「なるほど、それはいい考えかもしれません。文字を目にする機会を増やして、識字率を上げる……看板に文字を足すくらいであれば、費用もさほど掛かりませんし、看板の文字の読み方は店の者に覚えてもらえばいい。読み方を知りたいと思った者は店の人間に聞けばいいんだから……。先生を用意する必要もないですね」

「そっか!店の人が先生……。そうだよね、自分の店のことなら忘れないよね!じゃあさ、パンの絵の下にパンの文字以外にも、お店の名前も文字にして看板を作っちゃう?文字だけだから、読めないと意味がないと思ったけど、店の名前なら店の人が教えてくれるはずだもん。少し文字を覚え始めた子供たちならどんどん吸収していって文字を覚える役に立つかも!」

 アルがにこっと笑った。

「今の段階で、国を動かすことはできませんが、街のことなら、自分たちの手でできるだけのことはしてみましょう」

「うんっ、そうだね!さっそくライカさんに」

 と、席を立とうとしたら、右手をつかまれた。

「リリィー、食事が終わってからにしなさい。行儀悪いよ?」

 ……まるで、子供を叱るようにアルに叱られました。だけど、全然不快な感じはしないので、素直に謝る。

「ごめんなさい……」

 こんな風に叱られるの、ちょっと懐かしい。

 いや、まて、メイシーに割としょっちゅう注意されてたよ?懐かしがるほどのことじゃないよね?

 ……って、しょっちゅう注意されるとか、私、本当に来年成人で大丈夫なんだろうか?

 なんか、ちょっと落ち込んだ。

「ふふ。元気よく動き回るところは、リリィーのいいところだよ」

 アルが肩を落とした私の髪をそっとなでて慰めてくれた。ああ、うう……。

 もしかして、アルってば親戚のリリィーちゃん(たぶん幼女)を見るような目で私の面倒を見てくれるつもりなんじゃ……。

「で、リリィー、情けないことに、僕はリリィーの思考が時々分からなくなるんだ。教えてくれないか?」

 え?私の思考?結構単純で分かりやすいって言われるけど、分からない?

「リリィーの一番の目的は一体なんだい?3S男子を探すことかい?代筆屋を繁盛させることかい?それとも識字率を上げること?」

 ん?

 あ、あれ?

 私が市井で生活する目的って……。

「も、もちろん、3S男子ゲット……?」

 な、はずだよね?

 そ、その割に考えていることは識字率を上げる方法で、嬉しかったのはラブレターを注文してくれたお客さんが来てくれたことで……。

 あれ?


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