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私の履歴書

 一人目の婚約者は、私の住むアンドゥール王国の第二王子だった。

 生まれた時には、すでに婚約が成立していた。

 王子が7歳、私が5歳の時、王子が病に倒れた。

「リリィー、僕、死んじゃうみたいなんだ。ごめんね。リリィーを幸せにできそうもない。婚約はなかったことにしよう……」

 と、王子に婚約破棄を言い渡された。

 その後王子は遠くへ病の療養へ行ったらしい。いまだ葬儀が行われていないということは死んではいないのだろう。


 私はウィッチ公爵令嬢。アンドゥール王国に3家しかない公爵家の一人娘だ。

 通常、婚約破棄された令嬢には、ろくな縁談話はない。

 だが、公爵家という家柄の私。

 王家からの口添えもあり、次の婚約者は別の公爵家の次男だった。

 我がウィッチ公爵家と並ぶ家柄。ダズリー公爵家の次男。


 婚約から2年目。

 二人目の婚約者が10歳、私が7歳の時だ。

「リリィー、ごめんね。僕の父上が不正を働いていたようなんだ。僕の家は没落するみたい。リリィーを幸せにできそうもない。婚約を解消してほしい……」

 これが2度目の婚約破棄である。

 その後、ダズリー公爵家は、爵位を落とされ伯爵になった。そして不正を働いた当主は投獄され、嫡男は廃嫡。元婚約者が10歳で伯爵家当主になったとか。


 通常、2度も婚約破棄された令嬢と婚約しようという者はいない。

 だが、私は公爵家の娘。しかも、婚約破棄の理由にこちらの非はない。

 次の婚約者はあっという間に決まった。もう一つの公爵家、フレリー公爵家の三男だ。


 婚約からやはり2年。

 3人目の婚約者が12歳、私が9歳の時、土下座された。

「リリィーごめん。リリィーのことが嫌いなわけじゃないんだ。だけど、どうしても妹のようにしか思えなくて……。僕の心は別の女性に捕らわれてしまった。どうか、婚約を白紙に戻してほしい……」

 3度目の婚約破棄。

 その後、フレリー公爵家三男の心を奪った女性は別の男性と結婚して、三男は失恋。傷心の旅に出たとか出ないとか。


 通常、3度も婚約破棄された令嬢に残った道は、後妻とかロリコンじじぃの餌食なのだが。

 私は公爵家の娘。3度とも、あちらの事情による婚約破棄。

 次の婚約者にと名乗り出る者も多かった。

 だが、そのころから私は恋愛結婚にあこがれるようになった。 

「しばらく婚約はしたくありません」

 と言ったら、お父様は受け入れてくれた。

 まぁ、3度も立て続けに婚約破棄されればねぇ?


 履歴書を書くならこうね。

 0歳  アンドゥール王国第二王子と婚約

 5歳  1度目の婚約破棄

     タズリー公爵家次男と婚約

 7歳  2度目の婚約破棄

     フレリー公爵家三男と婚約

 9歳  3度目の婚約破棄

 10歳 貴族院立女学園に入学

     メイシーと出会い本の貸し借り開始。親友になる

 15歳 貴族院立女学園を卒業

     4度目の婚約を打診され、自力で婚約者を探す宣言をする(今ココ)


 1度目の婚約破棄で学んだこと。病弱な男はだめだ。生命力のある男を選ぶべし。

 2度目の婚約破棄で学んだこと。いつ爵位を剥奪されるかもしれなから、生活力のある男を選ぶべし。

 3度目の婚約破棄で学んだこと。他の女性に目が行く男はだめだ。誠実な男を選ぶべし。

 てなわけで、私、3S男子……生命力、生活力、誠実さのある理想の殿方を見つけに、市井で生活します!


 お父様とお母様が部屋を出て行くのを見送ると、メイシーと顔を見合わせた。

「リリィー様!やりましたね!市井で暮らすなんて、まるで恋愛小説の中のお姫様みたいじゃないですか!」

「そうよね、そうよね!メイシーもそう思うでしょ?素敵な恋愛が待ってるわよね?」

「ええそうですね。もしかするとお忍びでいらっしゃった隣国の王子様と恋に落ちるかもしれませんよ?」

 メイシーがうっとりした顔で目を閉じる。

「王子は、もういいわ。私は、元山賊の頭領とかが素敵だと思うの!山賊と言っても、悪者しか襲わない義賊ね!孤児とかを助けたりしてるのよ!」

 うふふふふ。

「うわー、それは確かに、リリィー様の言う、生命力と生活力と誠実さを持ち合わせた人物かもしれませんね。ですが……私はやっぱり王子の方がいいです!」

 メイシーは子爵令嬢で、貴族院立女学園で出会った。お互いに恋愛小説ファンということで意気投合し、あっという間に仲良くなったんだ。

「あら、もしかすると、その山賊は、今はなき国の王の血を引く方かもしれませんわよ?国の復興のために、山賊のふりをして動いているのかも!」

 と、私がかつて読んだ小説を思い出して話せば、

「きゃぁー、それはありですわ!熊みたいな容姿なのに、身なりを整えるとイケメンってやつですよね!」

 と、即座にメイシーも反応してくれる。

 子爵や男爵家の令嬢は、学校卒業後、城や上位貴族の館で働くことは多い。成績優秀だったメイシーは城に勤めることもできたのに、私と一緒に居る道を選んでくれた。人前では上下関係をはっきりと示した接し方をするけど、誰もいないときは女学生時代と変わらない親友モード。

「メイシーはどうする?市井の生活についてきてくれると嬉しいけど、無理にとは……」

「もちろん付いていきますとも!私も実は、市井での生活にあこがれてたんです!ワクワクします!」


 宣言から1か月。

 王都にある公爵邸を出る私を、お父様は涙をこらえて見送ってくれた。

 お母様は、笑顔で頑張ってくるのよと送り出してくれた。

 笑顔の裏で、お父様に「娘は、自由にするふりをして手の平で転がすものですよ」と囁いているなどつゆ知らず。


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