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初めてのラブレター

「いらっしゃいませ」

 次の日には、お店はすっかり元通りになっていた。私が帰った後も、アルが一人で直してくれたみたい。何かお礼しなくちゃ。

「ドナから聞いたよ、昨日は大変だったねぇ。うちも気を付けなくちゃと思ってさぁ。家族の名前書いてくれるかい?」

 今日は、メニューの加えて、名前を書いてほしいという依頼も多い。

「ありがとうね。自分の名前くらい書けるように、見て練習しなくちゃね!」

 そうか!

 見本があれば、それを見て練習することができるんだ。

 識字率を上げるには、まずお手本みたいなのが必要ってことだ。

 私は、どうやって文字を覚えただろうか?

 一番初めにかけるようになったのは……。あれ?覚えてないよ。

「ねぇ、アル、アルは一番初めに書けるようになった文字を覚えてる?」

 客の切れ目に、アルに質問する。

 アルは、お客さんが頻繁に来るようになってからは、お店では前髪を下ろして目元を隠している。

「さすがに小さなころなので覚えてないよ。たぶん、自分の名前だったんじゃないかなぁ、リリィーもそうだった。絵本で名前の文字を見つけると「あ、これ、リリのリだ」って嬉しそうに」

「え?私?」

 なんでアルが私の小さいころのこと知ってるの?

「あ、ち、違う、リリィーじゃなくて、し、親戚の、そう、親戚の子の話だよ!」

「へぇー。アルには、リリィーっていう名前の親戚の子がいるんだ。偶然だね」

「うん、そう、偶然にも……。その子は、自分の名前を覚えた後は、アルってどういう字?って僕の名前を覚えてくれたよ」

 アルが、幸せそうに思い出話を話し始める。

「それから、絵本を読んであげるたびに「アルのア、リリのリ」って見つけては笑ってた」

 絵本かぁ。

 そういえば、小さいころは絵本が大好きでよく読んで読んでとせがんでいたなぁ。

「しょうがないな、リリ、貸してごらん僕が読んであげるよ」

 って、空色の目が笑っていた。2つ年上の婚約者。優しい人だったような気がする……。

「リリは、何度も絵本を読んであげているうちに、いつの間にか文字を覚えちゃったような気がするよ」

 へぇ、そっか。子供は教えてあげなくても、勝手に覚えちゃうのかぁ。

 でも、絵本はねぇ、流石の私でも高級品だって知ってるよ。

 紙の値段は1枚1セインから売ってるけれど……本となると値段が跳ね上がる。

 中身が手書きだからだ。

 私が普段読む小説は、写本。

 文字を覚えた学生の定番のお小遣い稼ぎが写本。貴族の中にも、下級貴族で生活が苦しい人もいて、内職として写本をしている人もいるらしい。

 大量には作れないので、本は高価だ。

 そして、絵本はその比じゃない値段が付く。

 ページ数は少ないし、文字も少ないが、絵本なので「絵」が必要だ。文字を書ける人よりも、絵を描ける人の方が圧倒的に少ない。

 それゆえ、絵本はとても高価になってします。うまい絵師が描いた、色付きの絵本など……宝石いくつ分もの値段がする。

 だから、絵本を市井に広めて文字を覚えてもらうというのはとてもできることではない……。

 何か、他に方法はないだろうか……。

「いらっしゃいませ」

 思考が、お客さんによって中断される。

 メニューの注文だという中年男性だ。追加料金で紙を買えられますというと、興味をもって紙を選び出した。

「紙も変えてもらおうかな。これは、5セインで、こっちは10セインか。うん、それくらいなら問題ないな」

 あれ?

「文字が読めるんですか?」

 値札を見て、つぶやくお客さんに質問した。

「え?文字は読めないさ」

「でも、今、数字を……」

「あははっ。数字なら誰だって読めるさ。じゃないと、買い物一つまともにできないからな!」

 数字は誰でも読める?

「あの、皆さんはどのように数字を勉強するんですか?」

 私の質問に、お客さんがふきだした。

「勉強?そんなもんしないよ。街中にある値札見て覚えるもんだよ。小さいころにお金渡されて、持っているお金と相談しながら買い物してれば自然に覚えるさ」

「自然に覚える……」

 絵本を読んでもらっているうちに、文字を覚えたリリちゃん。名前の文字はすぐに覚えちゃって……。

 市井の人も数字は自然に覚える……。

 ああ、何かヒントがありそうなのに……。

「いらっしゃいませ」

 別のお客さんが来た。

 あれ?

 ご近所さんでは見慣れない、小ぎれいな明るい緑の服を着たブロンドの男性だ。

 ご近所さんはお店を営んでいる人が多いので、汚れてもいい服を着ている人が多い。

「ラブレターを書いてもらえるんだって?」

 えっ!

「は、はいっ!もちろんです!えっと、1枚8セインで、2枚目からは5セインになります!追加料金を払っていただければ紙のランクアップもできます!」

 初めてのラブレターの依頼だ!

 やった!

 少しずつメニューを書いたお店で宣伝してもらった効果がでているに違いない!

「へぇ、まとめて何枚か書いてもらった方が得なんだね。じゃぁ、何枚か頼もうかな」

 サラサラの前髪の人房がさらりと額にかかる。

 うおっ、なんだ、色っぽいな。

 息を飲むようなイケメンじゃないけれど、平均より少し上の容姿を補う色気が半端ない。ぶっちゃけモテそう。

 ラブレターなんて必要?

 違うか、ラブレターっていう小技まで使うからこその色気か?

「そうだなぁ、うん、よし、1通目は『月の女神の誘惑より、僕には君が魅力的だ』」

 ほうっ!情熱的ですな!

「2通目は『どうか、僕を好きだと言ってくれ。それだけで僕は生きていける』」

 なんと、またまた情熱的だよっ!

 と、情熱的なラブレターを一度に20通も頼まれました。

 毎日1通ずつ送るのかな?週に1通ずつかな?どちらにしても、すごい、愛されてるねー。奥様かしら、それとも結婚を申し込もうとしてる人かしら?

 ふふふっ。

「ありがとうございました!」

 うん。やっぱりラブレターはいいね。メニューとちがって、言葉の中に物語がある。どんな主人公たちの愛の物語なんだろうって……想像が広がるわ。


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[気になる点] 誤記:しまう >それゆえ、絵本はとても高価になってします。 誤変換:替えられ >メニューの注文だという中年男性だ。追加料金で紙を買えられますというと、興味をもって紙を選び出した。 …
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