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草案

「洗礼に、両親に何か持ってきてもらえばいいんです。文字が書けるものならば、木の枝だってかまわないでしょう。ちゃんとした木札で欲しい人は、購入してもらえばいいんです」

 私は、メイシーの言葉にピンと来た。

「そうね、メイシー!その通りだわ!小説に書いてあったわ!貴族の間では赤ちゃんが生まれると銀のスプーンを贈るけれど、市井では木のスプーンを贈ったり、木の人形を贈ったりするって……そういう、赤ちゃんのための贈り物に名前を書いてあげればいいのね!確かに木札も紙もいらないわ!」

「くっ、確かに。自分で持ってこいという発想はなかった……」

 エディがおかしそうに笑う。

「そうすると、必要な予算は……神父に支払う”寄付”か」

 寄付という言葉を使っているけれど、名前を書く手間代のことだよね。

 アルの言葉に、エディがふっと笑った。

「"適正な市場価格に色を付けて支払う"と、契約を交わせばいいさ」

「具体的な金額は知らせずに?」

「ああ、勝手にいろいろと想像するだろうな」

 エディの言葉に、アルは「商売でエディを敵に回したくないな」とつぶやいた。

 え?二人は何やら話がまとまったみたいだけど、私とメイシーは置いてきぼり……。

「適正な市場価格とは?」

 メイシーが首をかしげる。

「そうだな、実際市井でつけられた値段相応ってことだな」

 エディの答えに、アルが補足する。

「戸籍の用紙1枚には10名の名前が書かれている。ということは、1名の名前を書く料金は、1枚の10分の1が適正価格ということになる。用紙1枚に書き込む市場価格は」

「代筆屋の1枚8セイン?」

「そう、10分の1だと1セインにも満たない。だから、色を付けて、一人1セインにすれば十分だろう」

 あれ?

 それって……。

「安すぎない?」

 領都で月に生まれる子供の数を考えても1か月で金貨1枚にもならない?え?そんなんでいいの?

「実際、ちょろちょろっと名前を書くだけの手間だ。1分もかからず、パン1個分もの稼ぎが獲られる仕事なんて他にないだろ?」

「不満があるなら、別の街の神父と交代してもらうだけだ」

「そうだな。領都ガッシュの教会に来たがる神父はたくさんいるだろう」

 うわー、黒いよ、アルもエディも!

「だが、ガッシュの教会の神父は手間代を逆に受け取らないかもしれないな……。身銭を切って、朗読を代読屋に依頼しようとしたくらいだからな……」

 エディが、ふっと優しい顔になった。

「もっと出せればいいんだろうが、金をかけた前例など百害あって一利なしだからな」

 ふぅっとエディが何かを思い出して息を吐いた。

 アルが、私の顔を見る。

「効果があるかどうか、生まれた子が成長するまで分からない。5年から10年は最低でもかかるだろう……。もし、際だった効果がなければ残念だけれど、リリィー……国を動かすことは……」

 うん。何となくわかった。

 エディもアルも、子供に名前を書いたものをあげるっていうことに反対じゃないってこと。でも、現状はすべての子供にという形が難しいことも。

 今は、領都ガッシュで識字率が上がり、それによって領都の発展にもつながるというようなことを証明しりしかないってこと。

 そもそも、私は国を動かそうなんて大それた考え何てなかった。

 ただ、文字で書かれた名前を見て笑顔する人が増えればいいなって思っていただけだ。

 だけど、笑顔にするために、国を動かす必要があるというなら……。

 どうしたら識字率が上がるのか……もっと考えるよ!

 メイシーが、空になったカップに紅茶の御代わりを注ぎながら訪ねた。

「ところで、誰が領主様にこの件を伝えますか?」

 それは、私が!と言いたいところだけど、公爵令嬢だって隠してるし……。

 ちろりとアルとエディの顔を見る。

「僕から、言おうか?」「俺が言う」

 二人の言葉が重なった。

 ん、まぁ二人とも貴族っぽいから不自然はないけど……。一貴族の言葉が、宰相に伝わるまでどれくらいかかるのかな……。

 しぃーんとなる。

 で、結局誰がどうしたらいいのかとお互いがお互いをけん制しあっていると、メイシーが口を開いた。

「わ、私が。お手紙を書いていただければ、ロゼッタマノワールを通じて渡るように手配いたします。領主様は、ロゼッタマノワールのお得意様ですので」

 ナイスフォロー!メイシーありがとう!

「では、私が手紙を書きますわね!私の発案なのですから」


「聞いたよー、メニューをうちも書いてくれ。この板に頼めるか?」

 うむ。

 本日もメニューを書き書きしております。

 おかしい、ラブレターの依頼がない。宣伝方法が何か間違っていたのか?そうなのか?

「ありがとうございました!」

 二人目のお客様を見送ると、籠を抱えたドナさんがやって来た。

「いらっしゃいませ」

「あー、今日はお客じゃないんだ。改めてお礼を言おうと思ってね。これ、旦那のジョンから」

 ドナさんはそう言うと、カウンターに籠を置いて、かぶせてあった布を取った。

「うわー、おいしそう!」

 そこには10個ほどの焼きたてのパンがあった。

「いいんですか?こんなにいただいて?」

「ああ、これでも少ないくらいだよ。昨日、名前を渡したら子供よりもジョンが大喜びさ。これが俺の名前だぞって、何度も見ながら真似して書く練習して。今日なんか、パンにレーズンを並べて自分の名前書いてるんだよ。くっくっく」

 ドナさんが思い出し笑いをしている。

「よかった、喜んでもらえたんだ……」

「ああ。感謝の気持ちには足りないけど、食べとくれ。籠は後で返してくれればいいから」

「ありがとうございます!」

 ドナさんが手を振って店を出て行く。手元の籠からはふんわりとパンのいい匂い。

「アル、早速いただきましょう?」

「ええ、ではお茶を用意しますね」

 籠をキッチンテーブルに起き、2階への階段を上るアルにお願いねと声をかける。

「邪魔するぜ~」

 あ、お客さん?


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[気になる点] 誤記:証明する >それによって領都の発展にもつながるというようなことを証明しりしかないってこと。
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