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エディとの店番

「リリィー、リリィーの言うところの3S男子って具体的にはどういう人なんだ?」

 エディは知らなかったのか。

 3S。って、私が勝手に作った言葉だもん。知るわけないか。

「生命力があって……健康で長生きしてくれる人ね。生活力があって……地位がなくても働いて家族を養える人ね。それから誠実な人。他の女性に目を向けない人」

「ああ、それは分かったけど……それが当てはまれば誰でもいいのか?具体的な好みが全く見えない?」

 え?具体的な好み?

 3Sってずいぶん具体的じゃないのかな?

「例えば、リリィーの周りにいる人を思い浮かべてみろ。家族、ロゼッタマノワールで働いている人、お屋敷で働いている人」

 家族に、働いている人?

 お父様、おじいさま、執事や執事見習いに御者……。

「それから、俺」

「エディ?」

 エディのメガネの奥の目が、私をまっすぐ見ていた。

 ああ、エディの瞳の色は、茶色なんだ。紅茶のような色。……あれ?

 昔、誰かの目を見て紅茶みたいな色だって言ったことがあった。

 そうだ、二人目の婚約者だ。彼は綺麗なブロンドに、紅茶色の瞳をしていた。

 「エドワードの髪と瞳を見ると、蜂蜜をたっぷり入れた紅茶が飲みたくなるわ」って言ったことがあった。

 彼はくすりと笑って、侍女に紅茶を用意させたんだ。もちろん、蜂蜜をたっぷり入れた紅茶を。

 懐かしいなぁ。

 エディの髪の色は、シナモンみたい。……シナモンティーが飲みたくなるわね。紅茶と、シナモンクッキーという組み合わせも捨てがたいわ。

「なぁ、リリィー」

 はっ!

 いけない。別のこと考えてた。

「リリィーの周りで、3S”じゃない”人はどれくらいいる?」

 え?3S男子じゃなくて、3Sじゃない男子?

 おじいさまもお父様も、健康だし、まだ生きてるでしょ?バリバリ働いて、周りに頼りにされてる。もし、貴族じゃなかったとしても、何かしら仕事をしてやっていけると思う。それに、おばあさまやお母様一筋で、愛人を作ったりもしていない。

 執事のセバスやセバスの息子もそうよね。元気だしよく働いてる。今のところ女たらしという話は聞かない。

 エディは……。

 生命力、生活力はある。誠実さはまだ分からないけれど……。分からないんだから、3Sじゃないとも言えない。

 あれ?

 3Sじゃない人?

 ライカさんの店で相席になったおじさんたち……。元気だったし、仕事のお昼休みだって言ってたから仕事もちゃんとしてる。奥さんにラブレターを渡すとかいう話で盛り上がってたから愛妻家なんだよね?

 ……えっと……。

 3Sじゃない男子……社交界の噂では聞く。どこどこ男爵の三男だとか、だれだれ伯爵だとか……ずいぶん女遊びが激しいらしい。それはあくまで噂の中の人物で私の周りの人間じゃない。

「い、ない?」

 私の周り、3S男子しかいないってこと?

「そうだよ、リリィー。3S男子が理想だというならいくらでもいる。俺だってそうだ。リリィー、婚約するか?」

「エディと?」

 エディの紅茶色の瞳は、ずっと私を真っすぐ見ている。

 エディと婚約して結婚したら……。毎日この紅茶色の瞳を見て生活するのね。

 そのたびに紅茶が飲みたくなったら……。

「お腹がたぷんたぷんになっちゃうわ」

「は?お腹?リリィー、大丈夫だ。これでもそれなりに鍛えているから、お腹がたぷたぷになることはないぞ?」

「あ、ごめん、えっと、違うんだ、エディのお腹のことじゃなくて。えっと、そう、紅茶、お茶にしましょう!」

 立ち上がって、キッチンへ向かう。キッチンにはもちろんお茶はないので、ロゼッタマノワールへ行って侍女の誰かに頼むのだ。

「ああ、リリィー、俺が行く」

 エディが先に階段に足をかけた。そして、中ほどまで階段を上ると、振り返った。

「リリィーの紅茶は蜂蜜入り?」

「いいえ、ミルクでお願いします」

 いつもはアルが運んでくれるお茶を、今日はエディが運んでくれた。


 お菓子をつまみながらエディとお茶をいただく。

 残念ながら、お菓子はシナモンクッキーではなかった。今度リクエストしてみようっと。

「そういえば、エディ、代読屋はずいぶん忙しそうね。メイシーが一週間先まで予約が入っていると言っていたけれど……」

 オープンした日は同じなのにこの差は一体なんだ。

「オープンの挨拶の手紙を送ったからな。思った以上に効果があった」

「え?挨拶の手紙?何それ?」

 効果があったんなら、代筆屋もそれすればいいんじゃないのっ?!

「代読屋をオープンすることと、手紙や本などなんでも読みますとメニューと料金を書いたものを贈ったんだ。領都の上流階級と接点がある人々や、商人……それなりのお金を持っている人にね」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ。元々、お金を持っている層には一人や二人は文字が読める人間はいるからな。手紙を読んで興味をもってくれたみたいだ。仕事を依頼してくれる方は、目が疲れて長時間文字を読むことができなくなったご老人が多い。本の朗読、貯まった手紙や書類を読むなど」

 へぇーそうなんだ。

 確かに、お父様も最近時々文字がかすんで見難くなったと言っていたし、お母様も、手元が見え辛くて刺繍するときは指の感覚に頼ることが多くなったって言ってた。

「王都に比べて、文字が読める人はずいぶん少ないみたいだ。メイシーは難しい言葉もスラスラと読むことができるからとても評判がいい」

 うんうん。メイシーも私も、腐るほど本を読んでるから、読むのは得意だよ!

 だけど、開店のお知らせの手紙か……。

 代筆屋でも真似できないかと思ったけれど、そもそも文字の読み書きができない人のための店だもんなぁ。

 看板の文字さえ、読めないと言われたんだ。当然、手紙を出しても読めるわけがない。……真似するのは無理というか、無駄だよね。

「その噂を聞いて、今では手紙を出していない人からも依頼が舞い込むようになった」

 ん?噂を聞いて?

 噂話って、声に出して伝えるやつだよね。そうか!

 手紙がダメなら、口で伝えて回ればいいんだ!噂をすればいいんだ!

 って、噂ってどうすれば広まるんだろう?私とアルの二人で話をしながら街を回る?

 「ラブレター書きます!代筆屋です!」って言いながら街中歩くの?

 本格的な街歩きはまだ……怖いな……。

 それにアルは人見知りで、前髪で顔を隠してたんだ……。二人で街を回るのは無理そう。

 噂屋みたいな人はいないのかなぁ?居れば、依頼するのになぁ。

 何か、いいアイデアないかなぁ?と、考えている間にあっという間に時間が過ぎた。


 部屋に戻ると、メイシーが疲れた様子で出迎えてくれた。

「代読屋は休みだったけど、メイシーは何をしていたの?」

 こんなに疲れるなんて、何をしていたんだろうか?

「ダンスの練習……」

 うわー、ダンスか。私もメイシーも読書好きで体動かすのは得意じゃないからなぁ。そりゃ疲れるわ。

「相手がアル様なんて、もう緊張してどうにかなりそうでしたよーっ!」

 ふえっ?

 アルと、練習?

「メイシー、アルが相手だと緊張するって……もしかして、アルのこと……」

 メイシーはアルが好きなの?いや、だって、待って……。

 アルは山賊風だよ?メイシーの好みは王子なんじゃ……。ああ、でも、アルは本当はそこそこの貴族の令息みたいだから……。

 や、やだ、私、どうしたらいいんだろう?

 心がムズムズする。何、このムズムズ感。

 友達に好きな人ができたら、小説では……そう、応援だ。応援するんだ。

 どうやって?

「ひえーっ、ち、違いますよ!リリィー勘違いしないでっ、私がアル様のこと好きになるわけないじゃないですか!」

「そうなの?」

 ほっ。

 え?

 私、なんでほっとしてるんだろう?応援しなくてよくてほっとした?……そうだね。応援の仕方が分からないから、応援しなくていいのは助かるもんね?

「メイシーはどうしてアルとダンスの練習して緊張したの?」

 メイシーがうっと言葉につまる。

 何?もしや、山賊みたいな髭が怖かったとか言わないよね?

「えっと、そ、そう、す、すごくダンスが上手なんですよ!だから、ステップを間違えるのが怖くて緊張したんです……」

「あー、分かる。申し訳なくて仕方がない気持ちになるよね……わざわざこんなどへたくその練習に付き合ってもらってごめんなさいって……」


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