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1-1 覚醒しました。


その古城では戦闘が起こっていた。

周りには何の者かも分からない臓物と死体が散らばり、謁見の間であろう大部屋の床一帯に紅い染みを作っている。その中で踊っているのは少人数のパーティーとそれと相対する男だけだった。

明らかに性能の良い鎧や剣で武装した彼らの中に、場違いな人影が一人。安い鎧と

手斧で戦う彼の姿は、奴隷階級を意味する首輪と下腿から欠け義足をはめ込まれた右足も相まって非常にみずぼらしく映った。

だが一兵卒とはかけ離れた彼らの動きに、辛うじてではあるが食らいついている様に見えた。






どうして命の危険を感じると時間はゆっくり流れるんだろう?


殆どの感覚が定まらないまま、朦朧とした意識の中で彼は考える。


目の前にはローブを羽織い、額から禍々しい角を生やしたいかにも魔王らしい巨漢の男。自分が振り抜いた手斧からは手応えは伝わって来なかったが、男の胸から突き出る剣の切っ先と男の驚愕の表情が彼の行動が骨折り損では無かった事を示していた。


(…ここに来た時もこんな感じだったな)


元いた世界での最後の時、坂から転落するバスからの風景もスローだったなぁ、などとなんとなく思い出す。


そんな事を考えている間に目の前の男の瞳からは光が消え失せ、男が自分と同じ運命を辿るであろう事を確かに確信した。


そうして首だけのまま降りていく視界の中で、自分の主人たる勇者とその仲間達が無事か確認しようとしたが生物としての限界か、急速に彼の意識は闇の中に沈んでいき、右足に義足をつけた胴体と首を残したまま、浮きあがる事は無かった。


◆◇◆◇



『よし、出てきた』


『息をしてないぞ!誰か革袋持ってこい!』


(…~ッ!?)


全身の違和感と共に再度覚醒した僕は、正直何が何だか分からなかった。

なんとなく死んだ気がしていたので息があった事に自分自身驚くが、生きる喜びを感じる暇も無く切断された筈の首やら腕やらの幻肢痛にのたうちまわろうとして、自由に動かない体に阻まれる。

感じた幻肢痛は違和感を全身に残したままあっという間に収まって、次に感じたのは猛烈な息苦しさ。


(肺でも潰れたのか…!何でこれで生きてんだよ!!)


「…ッ…ハァ…」


『…おお、大丈夫みたいだな』


『ヒヤヒヤするよまったく…』


違和感のある全身に鞭打って生存本能の命ずるがままに呼吸すれば、息苦しさは残ったままでも多少は心に余裕が出来る。

周りがどうなっているかを調べようとして、体の違和感が何なのかに気付いた。

義足をつけていたつま先の感覚が…ある。

全身のあらゆる部分の構成が変わった事、それでいて最初からそうであったかのような不気味さ。

なによりも手足そのものが(体が動かないので確認しようがないが)短くなっているような、ずっと昔に味わったような懐かしい感覚で。


そう、例えるならまるで…


『危なっかしいが…問題ないでしょう。おめでとうございます、元気なお子様ですよ奥さん』


  ―ぼやけた視界で女性が微笑みかけていた。


『本当によかった…よしよし、お母さんですよー』


…赤ん坊の体みたいに。

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