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秀才彼女とバカな僕の物語  作者: Takuya
第一章 こうして始まる彼女との物語
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1−4


 昼休みももう後少ししか時間が残っていない。丁度教室に戻ったぐらいで、残り五分を知らせるチャイムが鳴るくらいの時間だ。五時間目の授業は何だったかな?


「ねえ、あんた」


 ふいに誰かから声を掛けられる。僕は声の主を確認するために後ろを振り向く。が、そこにいたのは笹山さんだけだった。おかしいな、明らかに笹山さんの口調じゃなかったから、別の誰かに声を掛けられたと思ったんだけど・・・・まあ、いいか。僕はまた前を向き、歩き始めようとする。


「ねえ、あんた。なんで無視するのよ」


 再び声がしたので僕は振り向く。でもやっぱり笹山さんしかいない。だけど、少しばかりか笹山さんの表情は怒っているように見えた。


「えーっと、今声を掛けたのって笹山さん?」


 ま、ありえないけどね。


「そうよ。一回呼ばれたら返事くらいしなさいよ」


 ・・・・・・笹山さんでした。


「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 うそ!さっきまでの口調と全然違うくないか!?もっとおとなしくて可愛らしかったのに・・・・・


「うっさい!耳元で叫ばないでよ」


 完全に朝の自己紹介や職員室での笹山さんじゃなかった。一体どうしたの?


「あ、あの~名前は?」

「あんたバカにしてんの?笹山月乃。それがあたしの名前よ」


 わかっています。わかっていますとも。なんで?なんでなんで?


「い、いやーさっきと全然感じが違うから別人なのかなあと思いまして・・・・」

「あんたがあたしの本性知らないからよ」

「本性?」

「そう。これがあたし。朝の自己紹介の態度も、さっきの職員室での態度も、偽りよ」

「・・・・・・・・・・とおっしゃいますと?」


 偽り・・・・これが本来の笹山さん?え?じゃあ今までの笹山さんは?あれ?頭痛くなってきた。


「はあ、本当にあんたバカなのね」


 溜息をつき、蔑んだ目で笹山さんが僕を見る。どうして僕がバカなこと知っているのだろう?


「あんたが二年で一番成績が悪いことは露中先生から聞いてるわ。五教科中四教科も赤点らしいじゃない。あんたは恥ずかしくないの?」


 恥ずかしい・・・・・恥ずかしくないといえば嘘になるけど、そこまで深く考えることでもない。


「恥ずかしいよ。でもそこまで深く考えることでもない」

「呆れた。あんたはそうやって自分を正当化しているだけじゃない。自分はバカだから仕方ないって」


 容赦ない笹山さんの毒舌に僕の心はズタズタだ。言い返せるほど言葉のボキャブラリーがなければ、言っていることが当たりまくっているのでその場で立ち尽くすしかない。


「あたしはあんたみたいな人間を何人も見てきた。自分を正当化して心を安定させる人間をね。甘えることなら誰でもできる。もう一度考えてみなさい」


 どうして今日会ったばかりの僕に笹山さんは、みんなや先生と違う態度で僕に接してきてくれるのだろう。それがまず疑問に浮かんだ。


「考えろって、そもそもどうして笹山さんは今日が初対面な僕にそんなことを言うの?」

「今日が初対面だから、昔からの知り合いじゃないからとかそんなの関係ない。言わなければいけないことは言わなくちゃいけないの」


 もしかしたら笹山さんは僕に勉強しろと言ってるのかもしれない。言い方はきついけど、そんな気がする。


「ありがとう」


 気づけば僕は笹山さんに、そう言っていた。


「ニヤついて気持ち悪いんだけど。あんたこんだけ酷く言われて、どうして笑顔でお礼が言えるの」


「バカ、だからかな」


 バカに頭の良い人の考えはわからない。つまり頭の良い笹山さんは酷いこと言ったんだから落ち込むと思っていたと思う。でも僕は笑顔でお礼を言う。


「あんた変わってるわね」


 それだけを言い残し、笹山さんは僕のことなんか気にすることなく、歩き始める。僕も同じ方向なので続いて歩き始めようとした瞬間、数歩先で笹山さんが足を止めた。


「教室どこ?」


 知らないのかよ!当然だけどね!そして僕が笹山さんの前をいき、再び歩き始めた。


 てか、昼ごはん食べ損ねた・・・・・



 そしてやってきました放課後。授業中の僕は放課後の案内をうまくできるかどうかの心配をずっとしていた。楽しくお話しながら、あわよくば携帯の連絡先を聞き出そうと思っていた。でも今はそんな浮ついた気分にはなれない。まあ、昼休みにあんなことがあったからね。素の笹山さんとどう接していいのか僕はわからない。


 しかし、そんなことと学校を案内することは別だ。僕は少し気合をいれ、後ろを振り向く。


「笹山さん学校案な・・・・・・・・・あれ?」


 後ろの席に笹山さんはいなかった。


 驚いた僕は慌てて教室を見渡す。まず前を見ると普通に仲良く放課後タイムを楽しんでいるクラスメイトが見える。次にドアの方を見るとかばん片手に今にも教室を出て帰ろうとする笹山さんの姿が目に入った。


「ちょっと待ったー!」


 僕は即座にドアの方へいき、笹山さんのかばんを掴んだ。

「なにかしら?」

 超絶スマイルで笹山さんが問う。そうか、クラスメイトがいるから昼休みみたいな口調じゃないのか。


「学校案内する約束あったじゃないか」

「え?本当?」

 

 この人今気づいたよ絶対・・・・。

「もしかして忘れていた?」

「ええ。ごめんなさい、帰ることしか頭にありませんでした。それじゃあさようなら田中君」


 笹山さんはそう言いすぐさま帰ろうとする。いや!田中って誰だよ!


「ちょっと待ってよ!」


 僕は帰ろうとする笹山さんのかばんを再び掴む。ここは意地を通してでも帰してはいけない。笹山さんがこのまま帰ってしまったら、明日僕があの三十路教師に制裁をくらうのは、わかりきっていることだ。


「・・・・・離してくれませんか?」


 あっ笑ってるけど超怖い。やばい、露中先生より怖いかも。


 そうこう会話している内にクラスメイトが僕らの方を見てくる。転校生×学年一のバカが話している構図は興味が惹かれるものらしい。


「わかりました。少しだけ時間を取ります」


 笹山さんも周りの状況を感じ取ったらしく、しぶしぶ了承してくれた。


 そうして僕たちは教室を出る。さて、どこから案内しようかな。


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