試練6:激戦
突然現れたこの石の巨体に、ボクは足がすくんでしまった。当然、ゴーレムも幼稚園で見たことがある。ただ、それはイリュージョンだった。
今、目の前にいるのは本物なのだ。
…もし、このゴーレムがすぐに攻撃なんかしてこなかったら、ボクはしばらくこの場所から動けなかったと思う。
「うわぁっ!」
神殿全体が揺れるような大きな唸り声を上げて、ゴーレムは大きな石の腕を振り下ろしてきた。それをなんとかボク達はかわした。
やっぱりこの巨体のせいか、さっきのグランドアーチ達よりはずっと攻撃が遅かった。…ただ、イリュージョンゴーレムよりずいぶん行動が遅いような気がする。
ボクはゴーレムといくらか距離をとって、様子を見てみた。ゴーレムは振り下ろした腕をゆっくりと起こしている。
「………あれ?」
ボクはとっさにレイズの方を見た。レイズもやっぱり、あのゴーレムの外見に驚いているみたいだった。
このゴーレムには植物が生えている。
さっきは暗くてよく見えなかったけど、石の間からひょろひょろといくつもの草が伸びていて、表面にはコケがびっしり生えていた。
「…このゴーレム、何年も経った古いものを無理矢理動かしてるって感じがするわね。それで動きが鈍いのかしら」
うわっ、またゴーレムがあの腕を振り下ろしてきた。
かなり楽によけられたけど、攻撃したときの衝撃で、たくさんの瓦礫が飛び散った。…近くにいたらひとたまりもない。
「っと、とにかくさっさとこいつを倒さないと……」
レイズはそう言うと、魔力を両手に溜め始めた。
「ファイヤー!」
強力なレイズのファイヤーは、一瞬にしてゴーレムの体を包み込んだ。
それを見てボクは「やった」と思った。だけど……
「! うわぁっっ!!」
ボクは間一髪、ゴーレムの攻撃をかわした。
レイズの攻撃がまともに当たって、かなりのダメージを受けたはずなのに、ゴーレムはそんな様子をまったく見せなかった。体についている植物が少し焦げた程度だけだ。
「そんな………」
レイズはまったく力が衰えていないゴーレムを、呆然と見上げていた。
「レイズ、どうしよう?」
ボクはさらに怖くなって、震えた声でレイズに問いかけた。
「これくらいじゃ痛くも痒くもないみたいね……、アスト、ちょっと提案があるんだけど」
「え? なに?」
ボクはレイズの「提案」に耳を傾けた。
「………へぇーっ。なるほど」
「感心してる暇なんか無いわ。さっさといくわよ!」
「うん」
まずボクは、レイズよりいくらか離れた所へゴーレムを誘い出した。
「こっちこっち! こっちだよー」
そのときゴーレムは何回か攻撃を仕掛けてきた。攻撃自体はグランドアーチに慣れてしまってとても楽によけられたけど、それよりボクが怖かったのは、攻撃したときに生ずるあの瓦礫だった。この部屋自体はかなり広いけれども、ゴーレムもかなり大きかったので逃げる場所は思ったよりもかなり少なくて大変だ。
「おっととっ」
ボクは飛んでくる破片を必死でよけながらゴーレムを部屋の隅へと移動させた。ボクは足を止めると、すぐさま呪文を唱えた。
「アイス!」
もちろんアイス自体の威力に期待していたわけじゃない。ボクがゴーレムの足元にはなったアイスは元の威力が弱いせいもあって、足を一瞬凍らせたと思ったらあっという間に砕かれてしまった。
だけど、その一瞬でよかった。背後には魔力を溜めて魔法の発動準備をしているレイズの姿が見えた。
「とっておき、いっくよー! ファイヤーストーム!」
レイズの放ったファイヤーストームは見事にがら空きのゴーレムの背中に命中した!
ボクはその威力を見て、呆気に囚われていた。さっき彼女が放ったファイヤーの何倍の威力を持っているのがすぐ目に見える。ゴーレムの体全体を燃えさかる炎がゴウゴウという音を立てて包み込んでいた。
『やったぁ!』
ボク達は嬉しくて声を上げた。ところが、ボク達の期待を裏切るように、巨大な石の人形はまたしても動き出した。そして、攻撃が当たって油断していたレイズの方に、あの唸り声を上げて襲い掛かってきた!
「!!」
予想もしてなかったゴーレムの行動で、レイズの顔は青ざめていた。ボクが助けようとした瞬間、ゴーレムはあの巨大な腕を振り下ろした。いつもの空振りしたときの音とは違う、鈍い音が僕の耳に入ってきた。
「!! レイズ!」