〜プロローグ〜
何もない空間―
風も吹かず、木々が生い茂る事もない、ほんとの『何も無し』
そもそもここは空間なのか―
そこに、一つの人影がしばらくあった。
人影は、誰かを待ち続けているのか、動きもせずこの空間のただ一点をじっと見つめていた。
ふいに―
その一点からねじれの様なものが起こった。
だんだんとそれは一つの影をを形成していき、そして―
『おわぁっ!!』
ドーン。
と、ねじれからの人影がそのまま遙か下へと落ちていった。落ちたときの衝撃がかなり強かったのか、立っていた人影が少しよろめいている。
『おっとと……ふぅ。やっと来ましたか』
その人物は、人影の落ちていった方向を絶えず見つめて、つぶやいた。
『おい! 何だこの落とし穴は! こんなところへ私を呼んできたと思ったら……』
その『穴』に落ちた人物も、やっとの事で這い上がってきて、目の前の人物に向かって叫んだ。
『あぁごめん。そんな所に穴があったとは、私も予想外で……』
『…絶対わざとやっただろ………』
『彼』は、目の前の『彼』に向かってつぶやいた。
『でも、私がこんなところに貴方を呼んだ理由は、分かっているのでしょう?』
先にここについていた『彼』―白いローブを羽織った男は、目の前の『彼』―漆黒のローブを羽織った男に向かって話しかけた。
『あぁ。当然分かっているぞ』
漆黒のローブの男は言った。
『当然「彼女」のことだろう?』
漆黒のローブの男の質問に対し、白のローブの男は、薄笑いを浮かべた。
『………やはりか』
『「彼女」は、今のところそれなりの力を持ってるみたいですよ……本人は気づいてないけれど』
『まぁ、あの試験もおそらく………………大丈夫だろう』
『なんですか? その妙な間は。そこまで不安でしょうか?』
白のローブの男は半分笑いながら尋ねた。
『それは………』
『「彼女」はおそらくあれを見つけ出しますよ……私の予想では』
だが。と、白のローブの男は急に真剣な眼差しになった。
『私が不安なのは、もう一人の方…………』
『まだ見つからないのか?』
漆黒のローブの男が言った。
『あれを、彼女一人で食い止められるのか………』
『まだ分かりません』
白のローブの男が口を開いた。
『まだ見つかってない。ただ、貴方はご存じでしょう? 「彼女」の力の事…』
『ふん。分かっているさ。ただ、それは「あの存在」も同じ事。お前は当然……』
『ええ、分かっています。ただ、全ては彼女次第。ほんとに全てがね…………』
そう言い終わると、白のローブの男はとても悲しい目付きになった。
『……さて、そろそろ始まるぞ。こんなところに長居は無用だ』
そうですね。と、白のローブの男は振り返った。
『私たちは、そろそろ「見」に回らせて貰いましょう』
暫くしてから、空間は元の「無」に戻っていった…………―――