人魚嫁化計画
「♪~ ♪♪~」
綺麗な月夜。頭上には数多の星々が輝く。
とある青年、フラン・オールステッドは、美しい音に誘われて浜辺を歩いていた。
波の音に混ざって、わずかに聞こえてくる歌の音。
(聴いたことのない歌だな、きれいだ)
フランは耳を澄ましながら、歌声を頼りにして歩く。
そして、ふと、フランは足を止める。
ゆっくり目を開けると、そこには―――――
人間とは、ずいぶんとかけ離れた容姿を持つ人魚が岩場に佇んでいた。
***
まるで、宝石を生糸にしたように透き通る桃色の髪。深い深海のような蒼色の瞳。
人間とは、比べ物にならないほど美しい……。
フランは人魚に見惚れていた。
『!!!』
とつぜん、歌が止まった。人魚がフランの存在に気付いたのだ。
目を大きく見開いて、驚きの顔でフランを見る。
フランも同時に、ハッと現実に戻された。
「あ、いや、あの、その……」
『******?』
「え、もしかして、僕の言葉がわかんない?」
『****』
「そうか、そうだよね、アハハ…・・・」
フランは、あらめて人魚を見た。
月光に照らし出された艶やかな肌に、鮮やかな色を映し出す鱗に、それとなにより……
(胸がでかい……)
下心が丸出しである。
『!!?』
人魚もさすがこれには危険を感じたらしく、身を縮めて軽蔑的な目でフランを睨んだ。
「大丈夫、大丈夫、そんなに怯えなくても……」
『******!!!!』
何を言っているかまったく分からないが、表情からして怒っているのはわかった。
(怒った顔も、かわいいな……)
「あ、そうだ、君にこれでもあげよう」
そういうと、フランは、腰袋から一切れの干しブドウのパンを取り出し、人魚にあげた。
見たことのない未知なものを寄越され、不思議に思って、おもわず食べてみる人魚。
すると、人魚の顔には、たちまち笑みがこぼれた。
「かわいい…… じゃなくて、気に入ってもらってよかったよ」
『*******』
あいかわらず何を言っているか分からないが、お礼を言っているのだろう。
フランも、つられて笑みになる。
そして、人魚の可愛らしい笑みを見た瞬間、フランは心の中で決意した。
(絶対に、人魚を嫁にしよう……!!!)
「じゃ、ぼくはもうこれで帰るね」
『……***』
ショボンっと残念そうな顔をする人魚。
フランも本当は、ずっとここで人魚ときゃっきゃしていたかったのだが、
夜に屋敷を抜け出したことが親方にバレたらまずいので、帰らなければいけなかった。
それに、そんな顔をされると、思わず、お持ち帰りしたくなくなる。
「また、明日会えたら、此処で会おう、ね」
『*****』
人魚を背に向け、屋敷にむかって歩き出す。
ふと、後ろを振り返ってみると、そこに誰もいない。
また、会える。
フランにはそんな気がした。
そしてこれが、フランと人魚の最初の出会いだった。
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