9.家庭部部員の反応
こんな前フリですが・・・↓
「で、せんせーは姫にオトされちゃったんでしょー?姫ってプライベートはどんなん?やっぱあのまま姫なのー?」
へらへらと笑って俺を出迎えたのは3年の家庭部部長・羽部理央。女の子のような名前だが、本人を見て女の子だと思う人は絶対にいないと言えるくらいに、チャラい外見をしている。
まぁ、外見はチャラいが中身はただのおバカだ。もちろん、この学院に通うからにはそれなりの頭の良さがあるのだが・・・とりあえず、言動がおバカなんだ。まったくもってもったいない。
というか、まだ俺はお前達に報告してないんだけどな!?どこから知ったのかな!?
「ふふ・・・先生もなかなかチャレンジャーですね。あの姫と付き合うなんて・・・いやぁ、今世紀最大の勇者に表彰状を贈らなければ!」
「五色・・・お前か、情報源は」
羽部と同じく3年の五色槙斗は家庭部の副部長兼暗黒同好会リーダー。
そう。暗黒同好会だ。カロリー学院を裏で支配してるとか言われちゃってる五色は、表面上は礼儀正しい生徒だが口を開くと慇懃無礼。
さすが暗黒同好会のリーダー、というか、俺もコイツに慣れるのにしばらくかかった。
「ふふ・・・この学院で俺に隠し事ができるとでも?」
「無理。・・・あー、お前ってドコで情報収集してんの?」
「企業秘密です」
「企業かよ・・・いや、企業なのか!?」
暗黒って、まさか・・・本気で世界を牛耳るつもりか!!?
「先生、考えていることがダダ漏れです・・・というか、世界を牛耳るつもりはありませんよ」
「だ、だよな!?さすがのお前達でも世界なんて・・・」
「俺達は宇宙の支配を考えているだけです」
宇宙かよ!!!果てしなく壮大だな!おい!
っていうか、淋代園教頭の帝王学が染みついてらっしゃる・・・。いや、本当にあるんだ。この学院には・・・帝王学という授業がっ!!
俺だって最初はなんじゃそら!と叫びたかったが・・・大真面目に授業をする教頭と大真面目に授業を受けている生徒とを見て、恐怖すら感じた。・・・本気で世界支配とか宇宙支配とかやりかねん、と。
「五色って帝王学を超マジで受けてるもんなー。他のボンボン達をたまに煽ってるし…俺、あの授業どん引きなんだけどー」
ああ、まともな感覚を持って育ってくれて先生は嬉しいぞ、羽部。
「宇宙支配を狙うなら、様々な伝手があった方が良いでしょうが。お金は大事ですよ、お金は」
あー・・・守銭奴も真っ青だ。まさか、仲良くしているボンボン全てをお財布とか思ってるわけじゃないと信じたいんだが・・・。
「五色先輩、それって・・・トモダチ=財布ってことですか?」
言った!!つか、訊いた!!訊いちゃった!!!紫条が訊いちゃったよ!!
紫条創治、家庭部唯一の1年でオトメン(乙女チックな男子)。リリアン編みとか得意な男子高校生はさすがに初めて見た・・・。
ま、リリアン編みはおいといて、紫条は結構空気を読む奴だと思っていたのに、この場でそれを訊いてしまうのか!!!
「――――――友人は友人ですよ。お財布だなんて思ったこともありませんとも」
ニッコリと笑って否定した五色。
って、おい!その間はなんだ。その間は。っていうか、嘘くさい笑顔だな!!
「つーかさ、逆玉の輿狙ってこの家庭部に入ってる時点で、俺達って同類じゃね?嫁=お財布だろ?」
ぶっちゃけた――――っ!!!このチャラ男!!!
チャラ男はチャラ男でも、羽部のようなアホっぽいチャラ男じゃなく、正真正銘のチャラ男・・・家庭部2年の古渕輔。
俺はコイツが嫁にパラサイトする気満々なのが心底怖い。いや、それなりに優秀でやろうと思えば何でもできる系の器用貧乏だからこそ、嫁が稼ぐか資産家じゃないと無理なんだろうが・・・。
このカロリー学院に入学した時点で、パンピーだろうがボンボンだろうが優秀に違いない。きっと就職する頃には引く手数多な研究者とかになってる・・・ハズ。
「とりあえず・・・逆玉狙ってるなら狙ってるで良いが、自分でもちゃんと稼げよ・・・?」
「当然じゃん。嫁だけに貢がせるとか、どんだけ鬼畜だよ」
あ、一応常識はあった・・・よかった・・・。
「先生の中で俺達のイメージってどんなんだろう?なんかすっごい悪そうじゃない?」
苦笑いをうかべてそう言ったのは、家庭部2年の畑哲平。いわゆる成金の家庭で、上流階級ではまだまだ新参者であるためか、家庭部にはマナーを学びに来ている。
ちなみに双子の姉がヘルシー女学園に通っており、日本文化部に入って同じくマナーを学んでいるらしい。まぁ、あっちは正真正銘のお嬢様ばかりだからな、こっちとはがっつき度が違うだろうが。
「いや、先生はお前達を信じてるぞ・・・さすがに“ヒモ”にするためにこの部活で訓練させてるわけじゃないからな!?」
「主夫は“ヒモ”じゃねぇの?」
「主夫と“ヒモ”を一緒にすんな!!」
古渕の頭を軽くひっぱたく。ベシン、と良い音がする。体罰じゃないぞー、信頼関係あっての行為だからー。
「痛てて。・・・でもさー、センセが姫と結婚するならさー、やっぱ末は主夫?」
「いや、このままカロリー学院の教員だな・・・姫・・・じゃなかった、宗島先生はわからないが」
危ない危ない、文音さんのことをいつもの調子で呼んでしまった・・・たぶん、本人目の前にしたら甘ったるく名前を呼ぶ自信がある。・・・どうしよう、俺ってこんなふうに女性にハマるタイプだったのか?
「姫って宗島流古武術の免許皆伝なんだろ?なら、姫が道場継ぐとしてー・・・やっぱ、せんせーは家に入って家計を預からないと・・・」
「羽部・・・どこの逆転夫婦だ、そりゃ。あの家には使用人がわんさかいるんだ。リアルでお帰りなさいませお嬢様、旦那様とか言われるんだ。俺が家に入る必要性を全く感じない」
「あ、そうだよねー。やっぱ姫ん家ってそういう感じなんだ」
「門構えだけ見たら、極道かと思ったくらいの純和風な豪邸だった・・・」
「・・・もう、ご両親にご挨拶したんですか。先生も隅に置けませんね・・・で?お嬢さんを僕に下さいとかいうテッパンなセリフをぶつけて来たんですか?」
五色は普通に話しているつもりなんだろうが、見下されてる感がハンパねェ・・・いや、被害妄想が強いのか?
「いや、他の婚約者候補に引きあわされて、アピール期間を設けて俺よりその人達が良いとなったら、身を引くことになった」
「―――なんですか、そのふざけた話は」
ひっ・・・一気に部室の気温が氷点下に・・・!!
五色、そんな声が出せたんだな・・・っていうか、怖い怖い!!ナニその悪魔の微笑みみたいな!!
「これだけの完璧男を捕まえておいて・・・っていうか、選んだのは自分の娘でしょうに・・・ふふ・・・」
「完璧男って俺!?・・・っていうか、お前、まさか怒ってんの!?」
「ふふふ・・・俺って、親しい人間を貶されるのって一番嫌いなんですよねぇ・・・」
暗黒モードのスイッチ入ってんのかよ!!っていうか、俺の心配してくれてんのか・・・なんか、複雑だけど嬉しい・・・って違う!!このままじゃ、宗島さんが暗黒の餌食に!!!
「いやいや、男親ってそんなもんだから!!やっぱ、娘可愛さに腕試しっぽいことさせたくなるもんなんじゃないかな!!」
「ほほぅ・・・その相手とやらはどういった人達なんです・・・?」
「え、えと、どこかの雑誌に載っていた、今をときめくイケメン御曹司のみなさんで・・・」
「ああ、その特集なら見ましたよ。政治家秘書の新瓜に社長令息の東横院に医師の白遠でしたか・・・あの連中ごときに、先生が負けると?」
「あの連中ごときって・・・」
「その人達ってカロリー学院卒なんですか?」
紫条が首を傾げる。あ、やっぱりその辺りを訊くのか。・・・コイツの質問って的確だよなー。
「いや、エリートコースなのは間違いないが・・・カロリーじゃない。だから、見学に来させるつもりなんだ・・・俺の眼の届かないところで文音さんを口説かれてもヤダし」
そうそれが本音。カロリー学院を見てみろーとか、暗黒に絡まれちゃえーとか思ってるけど、ぶっちゃけて言うと俺の見ていないところで文音さんを口説かれるのが嫌なだけだ。
「へぇ、先生は姫のこと文音さんと呼んでるんですね・・・まぁ、両想いなら尚更ですね。その邪魔者共をどうしてくれましょうかね・・・あぁ、理事長に許可をとりに・・・」
「あー、貰ってきたから・・・あの人達で遊ぶ程度は許すってさ」
「さすが。理事長もよくわかってますね・・・正神や千田達と打ち合わせをしなくては・・・ふふふ」
理事長の甥である正神と同じく、千田というのも暗黒同好会のメンバーだ。2年生で次期リーダーともいわれている。
千田は五色とは違ったタイプだが、敵に回したくはない。うん。
それにしても、まさか五色が俺が貶されたってだけでここまでキレるとは・・・。
正直、教師としては嬉しい限りだが・・・暗黒が本気出したらどうなるのか、怖くて仕方がない。
「ふふ・・・先生をイジって良いのは、うちの生徒達だけです。・・・外部の人間が、手を出そうなんて・・・どこまでも愚かな・・・くくく」
――――――――――――嗚呼、魔王様がご降臨されました。
ターゲットの皆さん、ご愁傷様です・・・。
暗黒の出番は限りなく少ないはずです。