8.理事長と書いて愉快犯と読む
あらすじにある"スリリングな"という言葉がかかるのは、最首先生じゃなくて宗島先生の婚約者達だったり・・・します。
「ふぅーん、そう。今をときめくイケメン御曹司?」
俺が理事長に全てを報告すると、理事長はチェシャ猫のように目を細めて笑った。うわぁ・・・悪そうな顔。
「―――理事長、犯罪はダメですよ」
「はっはっは、犯罪はしないよ。さすがにね。―――でも、うちの教職員に手ェだそうっていうヤロー共を見定めるのは良いだろう?だって、うちの教職員は家族みたいなもんだし」
うちで教職員全員の顔と名前を覚えているのはこの人くらいだろう。凄いよなぁ・・・でも、家族だと思ってもらえているのは、なんだか嬉しいよな。
あ、家族で思い出した。
「家族なのに、理事に追い出させるんですか?レベル足りないって」
「あー、知ってたのか。・・・レベル足りない、じゃなくて、うちの学校じゃやっていけなさそうな人をね、クビにしてるだけ。
ほら、うちは名家とか旧家とかそういうトコの御曹司とかご令嬢とかを預かってるだろう?いるんだよねぇ・・・たまーに、取り入ろうとか考えちゃう教職員」
あー、そりゃダメだ。たとえうちがパンピー学生がどん引きするような授業をするような学校でも、金持ち学生とパンピー学生を分け隔てなく扱うように徹底されている以上、取り入ろうとか考えたらダメだよな。
「なるほど、理解しました。・・・最初の数年で誘惑されるかされないかの見極めしてるんですね」
「そう。才能はあるんだけど、残念、っていう教職員・・・もったいないけど、一度そういう誘惑に負けちゃうと、生徒達から信用されないし親御さんからも信用されないからねー」
意外と考えてるんだなぁ、理事長も。単なる愉快犯じゃないのかー。
「そうですね、経営側としては当然の処置です」
「ま、それ以上に・・・私が見るのも不愉快だから、なんだけどね」
「―――意外と潔癖ですね、理事長」
でも、文化祭の時に美術部を贔屓して予算を嵩増ししている、なんて生徒達に文句を言われていたような・・・。そう言えば、理事長は苦笑いをうかべた。
「いやぁ・・・甥の結人に美術部の予算の倍増をねだられたんだが、さすがに教育者としてはどうだろう?と断ったんだよ?・・・でもねぇ、次の日に娘の肖像画を美術部員全員で描いてきてねェ・・・買わないなら闇オークションに流すって言われてさぁ・・・」
“あの同好会”の名誉会員である、理事長の甥・正神結人の入れ知恵か・・・。やるな、正神。
“あの同好会”こと“暗黒同好会”・・・カロリー学院に伝統的に引き継がれてきた同好会で、やることなすことがSっぽいというか腹黒いというか・・・まぁ、とにかく、被害者はかなり多い。
決して、正義だとは言わないが、彼等がいることで暴走する御曹司達の抑止力になっている。
カロリー学院で生き残るためには、彼等に目をつけられないようにするか、彼等にいじられ(※イジメではなくイジリである、ここはさじ加減を絶対に間違えない奴等だ)ても耐えるだけの強い心を持ち、精神力を鍛えるしかないのだ。
だから、あの文音さんの婚約者達はカロリー学院の卒業生ではないとすぐに気付いたわけだ。
「で、買ったお嬢さんの肖像画は・・・」
「ん?自宅の私の部屋に飾ったらねェ・・・娘にキモいって言われてねェ・・・」
理事長、半泣きですね。なんか、背負ってる空気がどんよりしてますよ・・・。
「その・・・えー・・・ご愁傷様です・・・」
それしか言えねェ・・・。
「うん・・・まぁ・・・後で結人に釈明させたからいいんだけどさ」
お嬢さんにどん引きされたのが相当堪えてるんですね・・・わかります。
「正神にあんまり理事長をいじめるなって言っておきます」
「あー、頼むねェ。・・・じゃあ、ついでに宗島先生の自称婚約者をいじっても良いって伝えといてくれるかい?」
「良いんですか?アイツ等を絡ませるとちょっと面倒なことになったりしません?」
「さすがに彼等は外部の人間にこちらを責める口実を与えたりはしないよ。その辺りはよく知っているだろう?」
それもそうか。というか、やっぱり暗黒同好会をけしかけるのか・・・まぁ、カロリー学院に来たからには、その洗礼を受けなきゃなぁ・・・あっはっは。
うん、俺って意外と根に持つタイプだったらしい。
「楽しみだねェ・・・いつまで今をときめくイケメン御曹司のままでいられるかなぁ?」
どうやらこの件は、理事長の娯楽と化すらしい。―――ま、いいか。