7.交渉開始!
最首せんせは壊れました。
――side 弓弦
文音さんを抱きとめたまま、俺は文音さんのお父さんに視線を向ける。
「先程も言いましたが、アピールをするにも常識の範囲内であって欲しいと思っています。"宗島さん"もその辺りは同意して頂けるかと思いますが・・・」
あー、イライラが収まらない。後で文音さんの手を消毒しなきゃな。
「・・・そう、だな。新瓜くんも東横院くんも白遠くんも文音の許可なく触れるのは止めてもらおうか」
「それでは、彼はどうなんです?」
あー、ウザいなぁ、この白遠って人。自分に自信があるんだかなんだか知らないけど・・・こっちを完全に見下してるんだよなぁ・・・。
「ですから、弓弦さんは私とお付き合いしているんですから当然です!」
文音さん、こういう時は正論も役に立たないんですよー・・・。
「我々もアピールするにあたって、彼にも同じラインに立って頂かないと困りますねぇ・・・」
ほらねー・・・?
ニヤニヤと笑う新瓜(もう、さん付けしてやらん!)。横から割り込むのに、同じラインに立てとか、どんだけだよ・・・これだから、御曹司は!!
いや、うちの学院の連中の方がまだまともだぞ。・・・ということは、こいつ等・・・。
「貴方達は、うちの学院出身じゃないんですね・・・」
「俺は我が家の方針で、○×大学付属の幼稚舎から通っているが、何か問題でもあるか?」
ああ、有名な私立大学の名前が出たよ。ハイハイ、東横院は"エリートコース"育ちね。
「私も△□学園系列の学校で学びましたよ。大学は国立の××大学の医学部ですが」
白遠も、有名私立か・・・で、国立大の医学部ねー、ほうほう。で?新瓜は?
俺が視線を向けると、新瓜はひょい、と肩を竦めた。
「私は小中高大と国公立ですが。・・・一体何なんです?」
まぁ、そんなもんか。御曹司って言ってもこの人は家が地主で政治家の親戚がいるっていうだけで、他の2人とは少し違うしな。
「―――で、そういうお前はどうなんだよ?」
東横院が挑戦的な視線を向けてくる。・・・もう、張り倒してイイか?ナニ、この人、すっげぇムカつく。
「私はずーっとインターナショナルスクールですよ。大学はあっちの大学を出ましたが・・・まぁ、先程の質問はただの確認ですよ。お気になさらず」
カロリー学院で育てば、こういう連中は真っ先に潰されるからな~・・・あはは。正直言って、あの学院は普通じゃないしなぁ・・・比べたらダメだよな~。うん。
「・・・カロリー学院の話はよく聞きますが、一体どういう学習環境なんです?」
ふむ。白遠が興味を示してきたな。まぁ、見下している俺と文音さんが同じ系列の学校で働いているからだろうな。
「一言で言えば特殊、ですね。・・・文音さんへのアピールもあるでしょうから、カロリー学院やヘルシー女学園を見学されてはどうですか?よろしければ、理事長に許可をもらっておきますが」
あの理事長のことだから絶対に面白がってOK出すよな。で、絶対にこの人等のことを見定めに来る。
文音さんも理事長がちゃんと選んだヘルシーの教員だしな。まぁ、交際に口出しはしないだろうけどー・・・"あの同好会"を嗾けるくらいはやりそうだ。それはそれで面白そうだけど。
「あぁ、文音さんの職場と貴方の職場を見ておくのも悪くないですね」
「それもそうか、文音さんがどういう仕事しているのか確認しておかないとな」
「それに、敵情視察も必要そうですし・・・」
おー、見事に乗ってきたなー。
「じゃあ、うちの理事長に連絡します」
俺がそう言うと、腕の中にいる文音さんが少し身動ぎして俺を振り返る。
「学校までなんて、そんな必要は・・・」
「触れないって約束はできかねます。だって、付き合ってるのに触れ合わないってのは無理です。それに"宗島さん"もお付き合い自体は許可してくださってるわけですし。・・・ですから、これは譲歩ですよ、文音さん」
「あ」
なるほどって顔しないでくださいよー・・・今のはけっこう恥ずかしいセリフなんですが。
触れ合わないの無理とか、我ながらなんつー甘いセリフを・・・ちょっと前の俺どこ行った?吹っ切れすぎだろ、俺。
あ、なんか婚約者達が文句を言いたそうだな。でも、ダメだ。こればっかりは譲れん。
「・・・貴方達もそれで良いですよね?こちらも最大限譲歩してるんですから」
婚約者達はそれぞれに目配せして、こくりと頷いた。
「「「わかった」」」
よし、言質取ったぞー。目の前でいちゃついてやる。俺を怒らせた奴等が悪いんだ。御曹司だからってエライわけじゃないんだからな。
カロリーで仕込まれた"対おぼっちゃま"用"無言の圧力"の威力を存分に味わえ!!ふはは!(←壊れた)