6.そのときの彼女の思い
姫の(暴走した)思い。
――side 文音
どうしてお父様はわかってくださらないのかしら。弓弦さんはとっても素敵な方なのに。
隣に立って私が霞むくらい、どうってことはないはず。むしろ、夫を立てるという意味では苦労しなくて良さそうなものですのに。
それにお父様が連れてらした、このお三方。社交界でご一緒したこともありますけれど、私の意志を無視して突き進むタイプの方々ばかりで、いささか疲れてしまうのですわ。
弓弦さんだったら、私にちゃんと合わせてくださるわ。・・・初めての打ち合わせの時も、しっかりとリードしつつ、私の意見も聞いてくださったもの・・・あぁ、あの時の凛々しいお顔、素敵だったわ・・・ぽっ。
なんて、弓弦さんとの出会いを思い出していたら、突然、白遠さんに手を取られて手の甲にキスをされて・・・なんて、傲慢な方なのかしら、許可も得ずにキスをするなんて!
手の甲へのキスは尊敬のキスと言いますけれど、お付き合いしているわけでもないのに、女性の身体にむやみやたらに触れるのはマナー違反ですわ!
腹立ちまぎれに“無礼者”と叫ぼうとしたら、白遠さんの手が叩き落とされて私の腰に回された腕にグイッと引っ張られました。
えッと思った時にはミューラグジャスという柔軟剤(弓弦さんが愛用されているのを調べましたのv←)のバニラの香りがして―――私の頭上に弓弦さんの綺麗なお顔が・・・っっっ!!
わ、わわわ、私、い、今・・・ゆ、弓弦さんにだ、抱き締められてますわ!!!ど、どうしましょう、顔が熱いですわ!心臓がバクバクしますの!!
「文音さんに馴れ馴れしく触れないで頂けますか・・・確かに貴方は文音さんのお父さんに選ばれたのかもしれませんが、現時点で文音さんとお付き合いしているのは私です」
はぅ・・・不機嫌な弓弦さんの声もイイ・・・。
はっ、そんなことを考えている場合ではありませんわ!私もきちんと抗議しなくては!
「―――そ、そうでしゅ(す)わ!この無りぇぃ(礼)者!!」
~~~~~~~ッ!!カミましたわ!!こんな時に!!
で、でも・・・弓弦さんの腰に回ってる腕が気になって気になって・・・。
「―――ククッ・・・文音さん、可愛い・・・」
み、耳元で囁かないでくださいませ!!お耳が幸せすぎます!!
「あらあら、まぁまぁ・・・ラブラブなのね!」
お母様・・・目がキラキラしてますわ・・・ああ、弓弦さんがお帰りになった後、絶対に根掘り葉掘り聞かれますわね・・・。
「お互い良い大人なんですから、アピールするにしても常識の範囲内でお願いしますよ。もし、文音さんが私ではなくて貴方達の方が自分にふさわしいと思うようになったなら、私は潔く身を引きますし」
そんなことありえませんわ!!とはいえ・・・この方達を諦めさせるには、多少はあちらに合わせるしかないのでしょうか・・・。
「ならば、アピール期間を設けよう。・・・彼等は3ヶ月間文音にアピールをする。そして、文音はそのアピールを参考にして、その男よりも良いと思えたらその男とは別れなさい。3ヶ月経ってもその男への気持ちが変わらないのならば・・・私も、その男との交際を認めようじゃないか」
とうとうお父様が折れましたわ!3ヶ月なんてあっと言う間です。弓弦さんへの気持ちが変わるわけありませんわ!
「わかりましたわ・・・でも、弓弦さんとのお付き合いもその間は継続しても構いませんのね?」
「・・・構わん」
お父様ったら・・・弓弦さんのことを認めてらっしゃるクセに、意固地になってるのだわ。
このお三方が付き纏うのは嫌ですけれど・・・それでお父様が納得されるなら。
「弓弦さん・・・私の気持ちは絶対に変わりませんわ」
「そうであることを願います。・・・でも、俺が嫌になったら、いつでも言ってくださいね」
そう言って笑った弓弦さんは、とても儚げで・・・綺麗でしたの。




