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11.アピール開始

長いです・・・姫の視点なので、鬱陶しいかもしれませんが、ご容赦ください。

――side 文音(あやね)


芽々沢(めめざわ)さん、その枝はもう少し角度をつけた方が良いですよ」


「は、はぃ~」


 オロオロとしながらお花を生ける部員に注意しながらも、私の意識は和室の後方に向いてしまう。だって・・・部活動見学とかいう名目で、あの方々がいらっしゃってるんですもの!


 部員達も教職員以外の若い男性の存在に、気が散ってしまっていますね・・・。


「はいっ!姫せんせーい」


「なんでしょう、桐生院(きりういん)さん」


 桐生院美優(みゆう)さんはカロリーとヘルシーを併せた中でも5本指に入る資産家のお嬢様で、茶道と華道の家元のご両親に礼法を叩き込まれていて、この日本文化部では教える側に回ってもらっているのです。


  先程私が注意した芽々沢恵磨(えま)さんはその桐生院家に住み込みをしているのですけれど、使用人ではなくて、行儀見習いというか茶道と華道の生徒さんというあつかいのようですわ。


「男の人がいると、恵磨ちゃんだけじゃなくて、みーんな気が散っちゃうと思うんですけどー・・・なんとかなりませんか?」


 うう、言うことは最もなのだけれど・・・あの方達にその説明が通じるのかしら?私がそんな不安気な表情をうかべたからでしょうか。


「・・・羽依(うい)ちゃん、呼びます」


 ボソリ、とそう言って携帯電話を取り出す青葉紫音(あおば しおん)さん。羽依ちゃんって・・・岸羽依さんのことかしら?・・・ってことは、はぅっ!!


「あ、暗黒・・・っ」


「先生、しーっ!・・・ダメですよぅ、暗黒同好会のことは学外には秘密なんですから・・・」


「そ、そうですわね・・・」


 桐生院さんに注意されて慌てて口を(つぐ)む。幸い、後方にいらっしゃったあの方達には聞こえていなかったようで、ホッとしましたわ。


 でも良いのかしら・・・教師が生徒に頼るって・・・いえ、でも、あの暗黒同好会ですものね・・・。


「心配なさらなくても、結人(ゆうと)五色(ごしき)先輩には姫先生の周りでうろつく連中が鬱陶(うっとう)しかったら暗黒同好会を使えと言われてます」


「まぁ・・・」


 青葉さんは理事長の甥御(おいご)さんの正神(しょうがみ)結人君と婚約しているのでしたね。なるほど、その繋がりなのでしょう。


 まぁ、このヘルシー女学園の中で殿方が自由に動き回れるはずもないのですね、見ての通りここは女の園。男性というだけで目立ってしまいますし。


 ああ、それにしても早く弓弦(ゆずる)さんに会いたい。護衛と違って、あの方達が張り付いていると思うだけで恐怖すら感じてしまいます。(←自分も同じようなことをやっていた自覚なし)


 ちらり、と視線を向ければにこやかに手を振ってくる東横院(とうよこいん)さん。白遠(しらとお)さんも笑みをうかべるし、新瓜(にいうり)さんは視線を外さずこちらをじっと見つめてくる。


 アレが彼等なりのアピールなのでしょうか。とにかく、3ヶ月の我慢です。弓弦さんがいてくださるから我慢ができるというもの。・・・なるべくなら、あの方達には3ヶ月経つ前にリタイアして頂きたいものですわ。


「姫先生も苦労されているんですね・・・あんなのが婚約者だったら、ほんっとに最悪ですよ」


「そうですわね・・・」


 暗黒同好会の正神君が婚約者の青葉さんだけれど関係はすこぶる良いそうで、互いの家に遊びに行くのは当然として、デートと思しきものもしていると伺いました。


 私と弓弦さんもそんな関係になれたなら嬉しいですわ。そのためには・・・やはり、あの方達を何とかするしかないようですね。


 思わず大きなため息をもらして、私は和室の板の間に置いてある花器(かき)を持ち上げます。


「文音さん、重いでしょう?持ちますよ」


 すかさず新瓜さんが声をかけてきます。・・・さすがは秘書だけありますね。タイミングがバッチリですの。


 ですが。


「いいえ、この程度でしたら簡単に持てますから」


 花器が重くて持てないなんて余程の大きさでない限りはありえません。この花器は学園の正面玄関に置くものですからそれほど大きなものではありませんし、まだ水も花も()していない状態ですから1人で持てるのです。


 そう言っているのに、新瓜さんはアピールのつもりなのか(がん)として譲らず、私の手から花器を取り上げてニッコリと笑いました。


 その瞬間、東横院さんと白遠さんが悔しげに表情を歪めたのには首を傾げざるを得ませんでした。これのどこが一歩リードしたように見えますか?私、嫌がってますのよ?立場上保護は必要ですが、過保護なんていりませんの。


 ああ、こんなとき弓弦さんだったら、私の意見にちゃんと耳を貸してくださいますのに!


「どこに運びましょうか?」


「・・・では、そちらの台の上にお願いしますわ」


「わかりました」


 スタスタと花器を持って運び、台の上に置いてくださる新瓜さん。


「ありがとうございます・・・」


「いえ。こちらで見ていてもよろしいですか?」


 ・・・む。それが本来の狙いでしたのね。それで後ろのお2方も表情を歪められたわけですのね。ですが、残念ですけれど、その手は使えませんわ。


「申し訳ありませんけれど、部員達は幼稚舎(ようちしゃ)から女の園であるヘルシー女学園で育ってまして、殿方には免疫がございませんの。・・・集中できませんから、遠慮してくださいませんか」


 そう言って私がニッコリと微笑めば、今まで不動で気配すらも消していた護衛の1人が新瓜さんの傍に立ち、威圧感たっぷりに視線を――とは言いつつサングラスをかけているのでどこを見ているかまではわかりませんが――向けました。


「―――っ、で、では仕方がありませんね」


 うふふ・・・護衛の勝利ですわ。新瓜さんは渋々ながらも和室の後方に下がっていかれました。


「姫先生の護衛はさすがですねー。私も雇おうかなぁ」


 とは桐生院さんの言葉ですが、途端に芽々沢さんが慌てだしました。


「美優ちゃん、も、もう充分すぎるくらいに"戦力"は(そろ)ってるから・・・!!」


「んー?そぉ?」


「そうだよ!・・・美優ちゃんはどこかの国と戦争でもするつもり?!」


「そんな、勝っても負けてもめんどくさいことしないよー。うちのセキュリティを完璧にしたいだけだもん」


「・・・なら、充分だから!ホントに!!」


 あの芽々沢さんの慌てようには少し驚きましたけれど、桐生院家にはそれだけ凄腕のセキュリティがいるということですね。我が家も見習わなくてはいけませんね。


 と、のらりくらりとお3方のアピールを交わし続けていましたら、いよいよ部活動終了時間となってしまいました。ここからが勝負です。


 いかに早く弓弦さんと合流するか、そこで私の1日の最後が幸せに終わるかどうかが決まるのですわ。花器などを片付けて部員達と和室を出ると、そこには岸さんが待っていました。


「姫先生、お待ちしてました」


 にっこりと笑う彼女の背後にはどす黒い空気が・・・あら、一瞬見えたようにも思うのですが・・・気のせいですわね。


「羽依ちゃん、後は任せたね」


「おっけー、任せといて!」


 なにやら青葉さんと仲良さげにぱちんと手を合わせています。非常に楽しそうです。


「「では先生、ごきげんよう」」


竜姫(たつき)さん、捺姫(なつき)さん、ごきげんよう」


 ユニゾンで挨拶をしてくる3年生の中ノ瀬(なかのせ)姉妹(双子)を見送り、他の部員達もぞろぞろと昇降口へと向かって行きます。


 ああ、背後からやる気満々の気配を感じます。こう見えても武道をたしなむ身、人の気配には敏感ですの。


「文音さ・・・」


「姫先生!女同士で大事なだーーーいじなお話があるんですぅー!生徒の相談にのるのも先生のお仕事ですよねー?」


 彼等の言葉をさえぎって岸さんが私の腕にすがりつく。パチリと目配せされ、さすがの私もこれが演技だと気付きました。


「そうですね、どこか・・・ああ、カウンセラー室をお借りしましょうか」


「いいえ!第3会議室がいいと思います!」


 つまり、そこに何かが仕掛けてあるということなのでしょう。私は了承して岸さんと並んで歩き出します。


 その後ろにお3方が引っ付いて歩いてくるのですが、岸さんがいるおかげで話しかける隙を作らずに目的地に着くことができました。


 そのまま第3会議室に一緒に入ってこようとしたお3方を、岸さんがギロッと睨みます。


「貴方達はデリカシーのかけらもないんですか!思春期の女の子の相談事を一緒に聞こうとするなんて、ちょーありえないです!・・・オジサンは出てってくださいな!」


 ―――お、オジサン・・・!ああ、お3方、完全にショックで固まってますわ。・・・でも、30代の男性なんて、高校生から見たらオジサンなのでしょうね。


 まぁ、20代後半の女性も高校生から見たらオバサンなのでしょうが・・・。


「あ、今のは先生達には当てはまらないですから。ああいうデリカシーのない連中はオジサンでいいんです」


 こっそりとフォローをしてくれた岸さんは、第3会議室の書類を入れるスチール(だな)の側面をグイっと押します。


 すると、なんということでしょう!スチール棚の後ろから隠し扉が現れました。何度か使ったことのある部屋ですが、スチール棚が動かせることもその後ろに扉があることも全く知りませんでしたから、驚きましたわ。


「ふふ、内緒ですよ、姫先生。・・・まぁ、普段は動かないようにされてるんですけど、今日は特別に姫先生達のために動かしちゃいました!」


 後から聞けば、アレはカロリー学院とヘルシー女学園をつなぐ地下通路への入り口の一つだそうで、何代か前の理事長が暗黒同好会のために作ったものだとか。・・・なんだか、暗黒同好会がますますわからなくなってきましたわ。


 まぁ、おかげで誰にも邪魔されずに弓弦さんと合流できたので、良しとしましょうか。


 え?あのお3方ですか?どうやらヘルシー女学園でしばらく放心していたらしく、私がヘルシー女学園に置いていってしまった護衛に確認の電話を入れた頃ようやく復活し、そのまま護衛によって学園から追い出されたようですわ。


 何度も同じ手は通じないとは思いますが・・・暗黒同好会もそれはわかっているはず、次なる手を打ってくるのでしょう。


 これは、3ヶ月かからないかもしれませんわ。そう期待しつつ、私は弓弦さんとの逢瀬(おうせ)を楽しみました。


暗黒同好会始動・・・まだまだ序の口。

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