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王立聖龍魔法学園物語

悪友で幼なじみな俺

作者: U1

『龍が笑った』のユート(親友)視点です。

“漆黒の堕天使”

俺の悪友の二つ名である。それで呼ぶと大概臨死体験ができる。最初に呼んだ奴が誰なのか、とよく聞かれるが、それは俺だけしか知らない。つまり俺である。それがそいつにばれたら恐らく臨時体験だけではすまないだろう。


自分でもおふざけのつもりで周りの奴らに言った言葉だが、思いの外流行ってしまって焦った。

だが気に入っているので良しとしよう。この二つ名は、そいつを表すのにふさわしい言葉だと本気で思う。


翼を持つ種族“有翼人”でありながら闇属性である悪友。

存在しないはずの闇の有翼人は、その髪も目も背の翼さえ真っ黒である。加えてその性格は残虐きわまりない。懐に入れた者に対してはなかなか優しい男であるが、そうでない者には一切容赦しない。

常に飄々と笑っていて、その腹の中で何を考えているのか分かるものはかなり少数だ。

その上、すさまじい剣技の持ち主で対抗出来る者はこの広大な学園内でも片手しかいない。


だがしかし、見た目は天使である。見た目は、だが。

美形というより美人というのがふさわしいその顔は、男女関係無く人気があり、常にほほえみを浮かべているので、よほど剛胆な者でないとコロッと騙される。


見た目は天使、中身は悪魔。それで俺が名付けたのが、あの二つ名である。ちなみに、漆黒を付けたのは堕天使のままじゃ何か足りないと思ったからである。今思えば安直だ。お腹まっくろ天使とかにすれば良かった。という訳で、今から呼び直してみよう。


「なぁ、お腹まっくろ天使」

「俺のこと?」

「……何でそんな上機嫌なんだ?」


俺は構えていた両手を下ろした。おかしい。いつものこいつならにっこり笑ったまま何度か殴りつけるに決まっている。

だがフォルテはにこにこと花すら浮かべて笑っていた。気色悪いを超えて怖い。


「アハハ、何でだと思うー?」

「……何をした?」

「え、何それ。別に何もしてないよ?」

「そうか…」


また何者かを闇に葬ったのかと思ったが違ったらしい。そうか、気晴らしだから別に上機嫌にはならないのか。

理由の分からない上機嫌さに俺が首をひねっていると、それまでにこにこしていた悪友がすっと笑みを消した。否、消えた。


フォルテの真剣な表情など、年に数回しか見ない。主に戦闘時で見れるそれは、長い付き合いの俺でもいきなり現れるとびびる。


「ど、どした」


どもる俺を気にせずに、フォルテはたたずまいを直して正座した。そのただならぬ様子にこっちも思わず緊張してしまう。


「あのさ…。好きな子に告白するにはどうすればいい?」

「…は?」

「だから…! どうすれば良いと思う!?」

「……お前に、好きな子ぉ!?」


どんな冗談だと思った。

しかし、フォルテは初めて見る顔をしている。頬はやや赤くなっていて、こうしてみると年齢にふさわしく見えるな。たまにこいつは年齢詐称しているんじゃないかと本気で思っている為に余計だ。


こんな珍しくて面白い顔をしているということは、本気なのだ。


しかし、相手は誰だ。

どちらにせよ、普通に告白するのは駄目だ。きっと本気にされない。

こいつが惚れたからには普通の女ではないだろう。俺の予測では、最近俺らをやたら観察しているメガネの女じゃないかと思う。あの女の視線は異常だ。この悪友が惚れるからにはあのくらい変人じゃない限り信じられない。

そして、そこらにいる普通の女でないなら、絶対こいつの言葉を信用しない。普通の告白じゃ駄目だ。


「分かった教えてやる」


頷いた俺に、フォルテは目に見えて顔を明るくさせた。うーん、新たな二つ名はまっくろ子犬か?


「真っ赤なアフロかぶって、スライディング土下座しろ」

「…は?」

「言葉はあくまでもまっすぐにな。遠回しじゃ駄目だ。『好きですつきあってください!』と勢いで言ってしまうのが良いんじゃないか」

「………お前のことだから、まじめに言ってんだろうなぁ…」


フォルテはなにやら遠い目をしだした。俺は呆れてため息を漏らしてしまう。


「当たり前だ。だってお前、このくらいしないと絶対本気にされないぞ」


その言葉に返答は無かったが、ばつの悪そうに顔を背けたそいつは自覚ありなのだろう。自分が浮ついた人間だと思われている、というか実際そうであるということを。


しばらくすると、フォルテは決意したようにすくっと立ち上がった。お、行動が早いな。

だが俺は気が早い初恋男の長衣の裾をひっつかんだ。転ぶかと思ったが、さすがにそこまで気は動転していないらしい。


「待った。大事なことがまだ残ってる」

「何」


不機嫌そうな声が帰ってきたが、俺はめげずに尋ねた。


「誰を好きになったんだよ」






「はー…、やっぱこうなったか…」


俺は色んな意味で真っ赤になったフォルテを肩にかついだ。俺達を遠巻きに見守る奴らの顔が面白かった。困惑というのを顔で表したらああなるのだろう。

困惑もするよな。そりゃ。“漆黒の堕天使”が狂ったとしか思えないようなことをしたと思ったら、女子にかかと落としを決められたんだから。あれは恐ろしいほどよく決まっていた。こいつがこんな状態になるのも無理は無い。


これが普段なら思い切り笑ってやれたが、今日は無理だ。今回のこいつは、本気以外の何物でもなかったからだ。…それ以外にも大きな理由があるが。


俺は自分がしたアドバイスが間違っていたことを心底思い知った。なにぶん、相手が悪かったと言えよう。相手を聞いてからアドバイスを考えれば良かったのかも知れない。


だが、俺にとってその相手が、また予想外だった。メガネの女は俺と一緒に悪友の大告白を見物していた。あの女も大分変な女だが、こいつが惚れた女も変な女だった。


だが、惚れるのも無理は無いほど良い女だと思った。


「いつ知り合ったんだ…?」


俺の呟きは返されない。半龍神である幼なじみに思い切り後頭部をかかと落としされたとあれば、さすがの堕天使殿でも無事ではいられないようだ。きっかり気絶している。

俺は思わずため息を漏らしていた。怪力は、昔からだ。

そして相変わらずパニックになった時の行動が恐ろしすぎる。というか俺の周りには凶暴的な人間しか居ないらしい。もう一度ため息が漏れてしまった。



俺は山の麓に住むエルフの一人だ。

山は入るヒトを選ぶ霊山で、頂上付近には龍神が住まっている。神を奉るのも俺達の役目である。

しかし、調和を大事にするエルフなのに、俺の母親はいきなり龍の娘を連れて帰ってきた。


龍神と人間の間の子という禁忌の娘は、俺の家ですくすくと育った。たまたま俺とは年が近く、兄妹のような幼なじみだったと言えよう。

しかし俺はあいつと深く関わり合いたくなかった。あいつが将来どうなるか、嫌というほど知っていたから。


俺にはあいつを守ることが出来ない。龍に守られるエルフが龍に逆らえばどうなるかなど、子供だった俺でも重々承知していた。

だからこそ、あいつに頼られるのが怖かった。頼られたとて俺は何も出来ない。失望されるのも、怖かった。

あいつがいる家を出て、逃げるようにこの学園の寮に入った。


その後中等部からここへやってきたあいつは、避ける俺に対して何も言わなかった。聡いあいつは、臆病で卑怯な俺をよく理解していた。


「…ん?」


寮の部屋に戻ると、フォルテが目を覚ました。

血をぬぐっていた手を止めて、顔をのぞき込むと漆黒の眼がこっちを見ていた。


「大丈夫か?」

「……うん。いやー、俺驕ってたな。もっと鍛えよ」

「おう。そうしろそうしろ」


普段とは真逆のことを言う俺にフォルテは首をかしげたが、俺はそれには答えずゆっくり問うた。


「…お前さ、諦めんの?」

「まさか」


すぐに返された言葉にほっとしつつ、あえて言葉を重ねた。


「…あいつ、半龍神だぜ」

「…だから?」


俺の放った言葉に何を思ったのか、フォルテの声がいらだちを含みはじめた。種族間の問題などまったく気にしていないらしい。まぁ、そういう奴である。

俺は反対などする気は無い。少し機嫌の悪くなったのを宥めるため、友の顔にぬれタオルを押しつけた。抗議の声は無視してやった。


「何が何でも諦めないんだったら、俺に良い考えがある」

「…何?」


素早くぬれタオルを取ったフォルテの顔は、訝しげだ。だが溺れる者は藁をもつかむ。しかし、俺は藁ではない。


むしろ、俺から見たらフォルテの方が藁だ。だが、今後藁が船へと進化するかもしれない。


フォルテは俺よりも遙かに強い。恐らく成人する前の龍になら何体とかと同時に戦ったとしても勝つだろう。今でそれなのだから、卒業する四年後にはもっと強くなっているはずだ。

龍の長さえ、たたき伏せてしまえるかもしれない。


俺は龍の長を思い浮かべた。

あの人達は別に悪人ではない。種の存続が何より大事なだけなのだ。だが、俺は嫌いである。奉り守られている関係であっても。あいつを、人とも龍とも扱わないのが昔から気にくわなかった。俺が怒る筋合いはないのだが、目の前のこいつは違う。


もし、雪瀬がこいつに将来のことを話したら、こいつは絶対怒る。漆黒の堕天使が本気で怒ったらどうなるだろうか。

俺はもう一度龍達を思い浮かべた。


一回くらい地獄を見ても良いんじゃないか。実際地獄行きになるかも知れないが。


そんな自己中心的なことを俺が考えているとは知らずに、フォルテは依然俺の言葉を待っていた。励ますようにゆっくり紡ぐ。


「これを機に友人になれ」

「俺は友人になりたいんじゃないんだけど」

「分かってるって。ああいうタイプはいきなり攻めても駄目だ。ゆっくりゆっくり近づいて弱音を吐いた隙に一気に決めろ!」

「……」


俺の言葉をかみ砕くフォルテは真剣な顔をしていた。恐らく実行するつもりなんだろう。普段だったら人の指図なんて聞かないこいつだが、絶対その通りにする。俺もおぼれているが、フォルテもおぼれきっているのだ。というか溺死寸前だ。

だが、これからだ。これからまだまだ変われると思う。こいつとあいつの関係も、あいつの将来も。


そしてどうか、俺とあいつの関係も変わってくれますように。




身勝手な願いを一人祈っている俺に、不穏な影が差した。


「ん?」


振りかえると、いつのまに復活したのだろう漆黒の堕天使様が降臨していた。

いつものごとく真っ黒い笑みを浮かべている。俺は背筋がぞっと冷えるのを感じた。背筋だけではなく、この部屋の温度が二、三度落ちた気がする。そして多分気のせいじゃない。こいつの殺気が魔力となって事実そうさせているのだ。


何故だ。何故こうなった。

良い流れだったはずだ。俺のアドバイスをフォルテは真剣に聞いていた…、何故だ…?


「『バツゲームならよそでやれ! この変態が!』だってさ」

「あ、それか!」

「そうそう。いやぁ…、バツゲームはその通りだと俺も思ったけど、変態はねぇ…」

「あー、うん。好きな子に変態呼ばわりはキツイよな」

「うんキツかった。ところでさ、ユート」

「……なんだ?」

「ユートって、水苦手だったよね?」


ああ、ホントこいつには堕天使が一番よく似合っている。




その後、元々水に入るのが苦手だった俺が、水を見ただけで吐きそうになるようになったのはしょうがないことだ。それくらいのことを、された。

ここまで呼んでくださって有り難うございました!


メガネッ子の正体は追々判明すると思われます。

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