第2話 黄金の薔薇、転生の影
みなさま、こんにちは。
ここでは、アリア様が佐藤健一氏の魂を受け入れる直前、すなわち転生前のオリジナル・アリアがどのような日々を送っていたのかを、丁寧にご説明いたします。
ローゼンシュタイン公爵家本邸、十六歳の誕生日を迎える数日前。
金髪碧眼の美少女アリア・フォン・ローゼンシュタインは、窓辺に座り、優雅に紅茶を味わっていました。
彼女は生まれながらの完璧な公爵令嬢でした。
容姿は極めて優れており、魔力適性も非常に高く、周囲からは「黄金の薔薇」と称えられる存在でございました。
しかし。
「リリア、もう少しお茶を濃くしていただけますか?
……甘さが足りませんわ」
声は美しく、上品でした。
ただし、その瞳にはどこか虚ろな影が差しておりました。
(……またこの退屈な日常。
父上は私を政略結婚の道具にしようとし、メイドたちは皆、忠実ではあるけれど……本当の意味で心を許せる相手などいない。)
アリアは、表向きは完璧な令嬢として振る舞いながらも、心の奥底で強い孤独と苛立ちを抱えていました。
女性同士の親密な関係が美徳とされるこの世界においても、彼女は本物の「愛」や「快楽」を知らず、ただ形式的な百合関係(社交界での軽いキスや手つなぎ程度)しか経験しておりませんでした。
リリアが優しく新しい紅茶を注ぎます。
黒髪のメイド長は、すでにアリアに対して深い忠誠と淡い恋慕を抱いていましたが、当時のアリアにはそれが「ただの使用人の感情」としてしか見えていませんでした。
「リリア、あなたは……私をどう思っていますの?」
「私はお嬢様の忠実なる僕でございます。
お嬢様のためなら、どんなことでも……」
リリアの頰がわずかに赤らみます。
しかしアリアは、ただ微笑むだけで本心を深く掘り下げようとはしませんでした。
(……綺麗な言葉ね。でも本当は、私の身体を欲しがっているのでしょう?
でも、そんな浅い欲望など……私を満たしてはくれないわ。)
彼女は魔力の才能こそ優れていましたが、「快楽」と「魔力」の深い結びつきを積極的に探求することはありませんでした。
保守派の貴族令嬢として育てられた影響が強く、快楽を伴う魔力行使を「下品」と感じて避けていたのです。その夜、アリアは一人でベッドに横たわり、天井を見つめていました。
「私……本当にこのままでいいのかしら……
もっと強く、もっと自由に……誰かを、心の底から欲することなんて、できるのかしら……」
アリアは、魔力の才能を活かして優しい癒しの魔法や植物魔法を得意としていましたが、
ローゼンブリリアンスのような攻撃的・快楽特化型の力は持ち合わせておりませんでした。
彼女の魔力は「清らかで高貴」ではありましたが、爆発的な成長力や変態的な応用性に欠けていたのです。
ここで皆様にご説明いたします。
この世界において、魔力は感情と快楽に強く影響を受けます。
しかしアリアは、自分の欲望を深く抑圧していたため、魔力の真の潜在能力をほとんど引き出せずにいました。
それが、佐藤健一氏の魂が転生した後の劇的な変化を生む大きな要因となったのでございます。
アリアの十八歳の誕生日当日。
彼女は自室で突然、胸に激しい痛みを感じ、意識を失いました。
それは女神イリス様が魂の入れ替えを行う瞬間でありました。
転生前のアリアの最後の意識は、こうでありました。
「……誰か……私を、変えて……」
……このままでは、つまらない……」
そして、光が満ち——。新しい魂、佐藤健一の記憶と強烈な性欲を持ったアリアが、目覚めることとなったのです。
『……おおっ、ここが……!』




